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川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】ある仮説…自分自身の思考をぶち壊した敗戦【無料記事】#ジョゼップ グアルディオラ 戦術の変遷

ジョゼップ グアルディオラ 戦術の変遷

最先端の戦術を披露するマンチェスター・シティのジョゼップ グアルディオラ監督。斬新なだけでなく結果も伴う戦術を繰り出す背景には、バルセロナ時代の苦い敗戦があった。

仮説…ある敗戦がペップに与えたインパクト

ジョゼップ グアルディオラ(ペップ)が、マンチェスター・シティ(マンC)を率いて今季で3シーズン目になる。第13節を終えて勝点35と、2位・リバプールと勝点2の僅差で首位を走る。昨季のリーグ優勝に続き、今季もマンCが強さを見せている。マンCの「強さ」を見るために、ペップの戦術的展開を考えてみたい。そうした考察が、ペップの戦術の変遷を知ることになるだろう。

彼の戦術的変遷を調べるために、バルセロナ(バルサ)時代とバイエルン・ミュンヘン時代、さらに現在の戦い方を検証する必要がある。3つのクラブを率いてきたペップの「戦術的な差異」を明らかにすることが、マンCの強さを知る上で重要だと考える。

筆者は、ある仮説を持っている。それは、あの日の敗戦をキッカケに、ペップは自分自身の思考を一度ぶち壊して作り直したというものだ。その敗戦となった試合とは、現在マンチェスター・ユナイテッド(以下マンU)で指揮を執る宿敵ジョゼ モウリーニョが率いていたインテルとの一戦である。それは、2010年4月20日、UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)準決勝第1戦、ミランにあるジョゼッペ・メアッツッで行われた。この試合でペップは、モウリーニョに完膚なきまで叩きのめされる。

モウリーニョに完敗を喫した一戦

この試合は、インテルがバルサに3-1で勝利を収めた。両チームはともに「4-3-3」を採用。しかし、戦い方は全く違っていた。バルサは、GKからDFにしっかりとボールをつないでビルドアップすることを意図している。DFからのボールが、MFを経由してサイドバック(SB)は高い位置に進んで攻撃参加する。SBが高い位置を取る目的は、ピッチの中央を攻略するため、サイドを有効に利用することにある。相手選手1人ひとりの距離間を作り出し、ワイドにしたところで真ん中から攻略する。なぜなら、トップ下には、リオネル メッシがポジショニングしていたからだ。メッシの攻撃力を生かす方法の1つだったのだろう。

一方のインテルは、バルサのSBが高い位置を取れるように、わざとハーフウェーラインを超えるまでプレスに行かない。それも、SBにボールをキープさせ、バルサの最終ラインを必然的に上げさせている。そうした状況下になったら、インテルのMFかSBがプレスに行ってボールを奪取する。インターセプトする矢先、インテルのFWはバルサSBの後ろに空いたスペースへ走りだす。ボールが一気に中盤を飛び越して裏に走るFWにパスが送られる。モウリーニョの代名詞「カウンター攻撃」である。モウリーニョは、意図してボールを相手に前に運ばせて、相手の裏のスペースを空けさせる。それを実現するため、彼は大胆にも、バルサのターゲットマンであるズラタン イブラヒモビッチにプレッシャーを掛けず、ボールをキープさせたのだ。

それは22分過ぎからの出来事だ。ジェラート ピケが降りて来たイブラヒモビッチにパスを出す。インテルの選手は、誰もプレスに行かない。ボールキープをしたイブラヒモビッチは、近くにいるセルヒオ ブスケツにパスを送ってワンツーを試みようとする。その時である。インテルのMFエステバン カンビアッソが、ブスケツの背後からプレスに行った。近くにいないはずのカンビアッソが背後にいたので、ブスケツが慌ててしまい、ボールを奪われる。ボールは、バルサSBの裏のスペースに出された。そこに走り込んでいたのは、インテルのFWディエゴ ミリートであった。カンビアッソの予測した守備と裏へのロングボール。そして、しつこいほどの反復攻撃。これは、バルサの攻めから守りの切り替え(ネガティブトランジション)の遅さを突いている。

典型的な場面は、失点を喫した48分のプレーである。左サイドでボールを受けたFWゴラン バンデフがドリブルをする。近くにいたメッシはプレスに行かず、イブラヒモビッチはボールを追わずに歩いている。バンデフは一気にバルサの選手3人を置いていく。右SBのマイコンが、バンデフの動きを見てすぐさま前線に走りだす。ボールは、SBの裏に抜けたミリートに渡る。ミリートはペナルティエリアの右側にボールを持っていく。動きにつられたバルサのDFは、中央のスペースを空けてしまう。ロングランしてきたマイコンにパスを出すミリート。難なくゴールを決めるマイコン。カウンターの教科書のようなインテルの攻撃だった。

プレスバックをしないイブラヒモビッチとメッシ。ペップはこの敗戦で、決定的な決断をしたに違いない。このままの戦い方ではモウリーニョに勝てない。そのためにペップが示した方向性が、システム上で3トップのターゲットマンとなるポジションの廃止。そのポジションには、従来のターゲットマンタイプではない「偽り9番」と呼ばれたタイプの選手を配置することであった。つまり、メッシをターゲットマンのポジションに置いたのだ。

5つの改善点

ペップはもう1つ改善に取り組む。それは、高い位置を取るSBの裏をどのように埋めるのか、という守備の問題である。また、ボールポゼッションをしながら、最終ラインを高くして戦うため、相手は引いて守ってくる。引いた相手は、攻撃手段としてカウンターを狙ってくる。その対策をどうするのか。この2点に守備戦術の改善は絞られた。カウンター攻撃を防ぐには、いくつかのやり方が考えられる。

「1」ボールを奪われた時に、次にボールが渡ると予測された選手にプレスに行く。(プレスバック)

「2」裏を狙う相手のFWにマンマークを付ける。あるいはマンマークほど激しくはない守備の「見る」という範疇にして、DFを上げて「見させる」か、センターハーフ(CH)を下げて「見させる」。

「3」DFが単純にラインを下げて守備をする。

「4」DFがラインを下げるにしても、相手がインターセプトした瞬間を狙い、一気にラインを下げる。相手がフリーで前を向いてボールを持っている時は、基本的にラインコントロールできないので、ボールを奪った相手が前を向く前にラインを下げる。

「5」裏にボールを出されているので、裏に抜ける選手が行動を起こせないように、その選手に直接ボールが届くように中盤で工夫した守備をする。

先に述べた守備に関しては、いつの時代に対策がなされたのかを記そう。

高い位置を取るSBの裏をどのように埋めるのかについては、バイエルン時代に解決の糸口を見つけている。次にカウンター攻撃対策として、バルサ時代後期に「1」が行われた。「2」もピケを上げたり、ブスケツを下げたりするなどして、バルサ時代に実践された。「3」「4」「5」は、マンC時代に見られる。つまり、バルサからバイエルン、さらにマンCへと渡ったペップは、モウリーニョとの大きな敗戦を糧に、壊しては作りを繰り返した結果、自身の戦術の弱点を克服したのだ。

4分の1コートに攻撃陣を集約

バイエルン時代のペップは、実験的な戦術を多用している。それは、いままで誰もやってこなかった斬新な戦い方だった。2014年9月30日、UCLグループリーグの一戦、CSKAモスクワ戦を見てみよう。

「4分の1コートに攻撃陣を集約」させたことは、バイエルンにおける、ペップの戦術的特徴の1つである。「4分の1コート」とは、ピッチ縦105メートルを4分割した約26メートルの幅を指す。バイエルンは、26メートルの中に攻撃陣8人を集約させる。26メートルから外れた場所にはDFの2人とGKしかいない。31分頃、CSKAはDF5人とMFの4人で2ブロックを敷く。ボールはバイエルン側からすれば右サイドで展開する。MFダヴィド アラバがボールをもらうために下がり目になる。左SBフアン ベルナトは中に絞る。4分の1コートに8人のバイエルンの選手がそれぞれの場所に位置する。

この場面は、バイエルンの守備から始まる。ボールはCSKA陣内の深くにある。バイエルンのFW陣は高い位置からプレスを掛ける。CSKAのDF陣は自陣深く追い込まれる。一方のサイドで相手がボールを回しているなら、バイエルンの逆サイドの選手は、ピッチ中央に絞ってくる。そのことで、より狭い場所に相手を押し込む。この場面ではすでに、4分の1コートに選手が集約されている。

4分の1コートに選手を集約させる理由は、守備の際に数的優位を獲得して、カウンターを防ぐためだ。さらに、相手からボールを奪って攻撃に転じる時に、集約させたものを広げさせる意図がある。ピッチをワイドに使う。サイドのアリエン ロッベンをタッチライン沿いに立たせる。集めたものを広げせることで、相手のDFはバイエルンの選手に付いてくるので、ワイドに開いて守備をせざるを得ない。そうすると、真ん中にスペースができる。CHシャビ アロンソが前でボールを持った時が、攻撃に入るスイッチとなっている。

ポジションの修正と変更

2つ目の戦術的特徴として挙げられるのが、センターバック(CB)とCHのポジション移動である。SBが高い位置を取ることで、そのポジションの裏の場所が狙われる。一気にカウンター攻撃を食らうことになる。そこでペップが考えたのは、次のことだった。

システムが4バックならば、2人のCBをサイドに広げて、CHを下げて3バックにする。CHが攻撃参加した場合は両サイドに大きく開いた2バックになる。そして、SBはタッチライン沿いポジショニングせずに、CHの横に立ってサイドと中央を同時にケアする立ち位置を取る。このことで、SBの裏を相手に狙われても、CBとSBが相手の動きに遅れずに対応できる。

簡単に言えば、ワイドに開いた2CBと3CHで対応する。攻撃の際、最終ラインを高くするため、DFとGKの距離が広がる。そこは、GKマヌエル ノイアーが前に出てきてケアをすることになる。

3つ目の戦術的特徴は、攻撃する際、選手同士がそれぞれの動きに合わせてポジションを変えて、チーム全体のバランスを保っていることである。CSKA戦の9分過ぎに次のような展開があった。

GKノイアーがCBメディ ベナティアにボールを預ける。アロンソに渡ってアラバにパスされた。その時に、左サイドにいたマリオ ゲッツェがFWのポジションに動く。左SBベルナトがゲッツェのいた場所に行く。そしてFWにいたロベルト レバンドフスキがトップ下に移る。レバンドフスキとは縦の関係で下がり目にポジショニングするFWトーマス ミュラーは、相手のDFとMFの間にポジショニングした。右サイドにはロッベンがタッチライン沿いに位置する。

選手が別な場所に動くことは、いままでいた選手の場所が空くことを意味する。そして移動した先にいる選手が動いていかなければ、選手同士が重なったポジショニングを取ることになる。しかし、バイエルンでは、選手が次から次へと空いたポジションを機能的に埋めていくため、こうした危惧はまずない。しかも、トライアングルを組んでポジションチェンジすることもあり、ペップの革新は、私たちを未知の領域に誘った。

カウンター対策の決定版

ペップの集大成と言うべき戦術が、昨季からマンCで行われている。守備においてカウンター対策の決定版であり、攻撃においてカウンター攻撃の完成版と思われる。そこで取り上げる試合は、2017年11月1日に行われたUCLグループリーグ第4節のナポリ戦である。試合は、ホームで先制したナポリに、ニコラス オタメンディなどのゴールで逆転したマンCが、4-2で勝利を収めている。

この試合における戦術的要素は、現代サッカーの最前線であり最高峰と言っていい。両チームは、GKからビルドアップを始める。ボールポゼッションを主眼に置くため、一方がボールを持つと保持する側の時間が長くなる。また、ボールを失ったらすぐに奪い返すため、高い位置からのプレスバックを行う。両チームとも、このやり方を踏まえていた。

マンCのシステムは「4-3-3」。細かく記せば「4-1-4-1」になる。攻撃の最大の特徴は、大きなサイドチェンジにある。ナポリはゾーンディフェンスを採用し、ボールサイドにスライドして全体を寄せていく。ソーンディフェンスの鉄則として、「逆サイドは捨てろ」とされる。つまり、ボールサイドに人数を割いてボール奪取するため、逆サイドには選手がいなくなる。マンCは、そうしたナポリのやり方を見て、ボールをサイドで展開してナポリの選手を集めてから、逆サイドにサイドチェンジする。この場合、ボールの経由点は、CHフェルナンジーニョになる。

GKエデルソンからのビルドアップによって、サイドのレロイ サネやイルカイ ギュンドアンに渡ったボールに、ナポリの選手が食いつくと、必ずと言っていいほど、フェルナンジーニョにボールが戻されてサイドチェンジが行われる。実は、10月17日の同第3節・ナポリ戦の9分にラヒーム スターリングが先制点を挙げるまでは、見事に前述の状況を表している。

モウリーニョとは異なるカウンター攻撃

11月1日の試合では、先に示した「3」「4」「5」がなされている。

ラインを下げた理由として、マンCから勝利を得なければ、グループリーグ敗退の危機にあるナポリが、ポゼッション率を高めてラインを高くして攻撃してきたことも影響している。しかし、ポイントは、マンCが意図的にラインを下げて、ペナルティアークのところでボールを奪っていることにある。そして、攻撃に関してペップの不足していた面である「カウンター攻撃」につながっている。

マンCのセルヒオ アグエロの3点目とスターリングの4点目は、ラインを下げて網を敷き、ボールを奪取してパス→ドリブル→パス→シュートの流れから得点を挙げる。これは、あのインテル戦の敗北から得た教訓を生かし、モウリーニョとは異なるやり方で「カウンター攻撃」を作り出したペップの思考が見られた場面である。つまり、相手DFの裏に走り込んだFWへロングボールを放り込むカウンターではなく、ペナルティアーク近くで奪ったボールを、ドリブルとショートパスで一気に相手のペナルティエリアに侵入して、GKとの一対一を作ったのだ。

ペップ率いる現在のマンCは、誰も解けなかった数式を解明したかのように、バルサ時代とバイエルン時代に完成させられなかった戦術の数々を見事に示している。もしかしたらペップは、マンCを指揮官として最後の場所になると考えているのかもしれない。そう思わせるほどに、画期的な戦術図を描いている。

川本梅花

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