川本梅花 フットボールタクティクス

【インタビュー】「水戸は本当にJ2へ留まれるんですか」と聞かれたあなたはどう答える?【無料記事】2019年の水戸ホーリーホックを占う

【インタビュー】「水戸は本当にJ2へ留まれるんですか」と聞かれたあなたはどう答える?

アルビレックス新潟の是永大輔社長が、Twitter(ツイッター)で気になる発言をしていた。

J1からJ2に降格したことにより、新潟の予算が5億円も減少。その結果、クラブに選手を留まらせる予算も少なくなり、選手を引き留めるため、すがりついて説得を何度もした。そういった内容である。

私は、是永社長の投稿を見て、水戸ホーリーホックの西村卓朗強化部長は、どのように感じるのかを知りたくなった。そこで早速、電話で話を聞いた。強化部長の最初の言葉は「是永さんの気持ちは分かります」だった。

関東サッカーリーグ1部のVONDS市原で監督とGMを経験した西村強化部長は、当時から選手の引き留めには苦労をしたようだ。

「どう対応するのかは、交渉している選手によってですよね。クラブのビジョンとか、クラブに残るべき理由とかを論理的に話さなければいけない局面もあれば、感情面に訴えなければならない局面もあります。だから交渉する選手によります。ただ重要なことは『残りたいと選手に思われるクラブであること』だと思います。むしろそこに尽きるのではないでしょうか」

コラムのタイトルは、2018年に記したコラムと同じものである。

【無料記事】「水戸は本当にJ2へ留まれるんですか」と聞かれたあなたはどう答える?【コラム】2018年の水戸ホーリーホックを占う

前コラムと違う点は、その2019年度版ということだけだ。直近の2シーズン、水戸の試合を全て観戦した者として、2019年の水戸の予想図を描いてみたい。

フォーメーションA案とB案

新加入の選手と完全移籍した選手

移籍してきた選手と契約を継続した選手

引き継いでいけるチーム作り

本文の目次は以上の通りだ。

フォーメーションA案とB案

まず、フォーメーションのA案を記そう。

「4-4-2」のボックス型。あるいは「4-4-2」のフラット型となる。きれいにスリーラインを引いてゾーンで守る陣形だ。

昨季まで左サイドハーフ(SH)だった木村祐志をセンターハーフ(CH/ボランチ)に置いて、完全移籍した前寛之と組ませる。左SHには、新加入の森勇人を配置。右サイドバック(SB)と左SBには新加入の岸田翔平と志知孝明の2人を起用したい。FWは2年目のジョー(ジョアルレン バティスタ サントス)と大宮アルディージャから加入の清水慎太郎が活躍することを期待する。

次にB案。

昨季は大分トリニータへ移籍した伊藤涼太郎がトップ下を務めることもあったが、これも「4-2-3-1」のトップ下を置くフォーメーションだ。配置されたメンバーもA案から多少替えている。センターバック(CB)として、細川淳矢ではなく新加入の瀧澤修平を起用しているが、活躍を期待してのことだ。左ききのCBは貴重な存在。潜在能力を発揮すれば、じゅうぶんにレギュラーとなれるだろう。CHは、2年目の平野佑一にチャンスが巡ってくるはずだ。トップ下には森勇人を配置。2列目から飛び出しや得点に期待したい。

ディフェンス陣では、ンドカ ボニフェイスとコンバートした宮本拓弥、浜崎拓磨にも出場機会はある。MFは、完全移籍の茂木駿佑は両SHを任せられる。また、白井永地と期限付き移籍から戻ってきた外山凌にもチャンスがある。一方、FWは駒不足が否めない。3月の移籍期間が終了するまで、新加入選手を模索しているようだ。従って、加入3年目の齋藤恵太には大きなチャンスとなる。今季がラストチャンスと思い、全力で取り組んでほしい。

新加入の選手と完全移籍した選手

ここからは、西村強化部長のインタビューを交えながら話を進めたい。

――前寛之と茂木駿佑は、今季から完全移籍での加入となりました。その経緯を教えてください。

西村 前所属クラブとは契約の切れ目の選手でした。期限付き移籍で加入してもらう時、もう1年間契約がある選手なのか、次の年で契約が切れる選手なのか。きちんと調査して獲得しています。そうしたことは、獲得する時に織り込み済みです。そういう意味において、完全移籍で取れるならば取りたいと思っていた選手たちでした。

――ジェフェルソンバイアーノが移籍したのは意外でした。残そうと思っていましたよね。

西村 最初にブラジルから加入する際は「完全移籍で」という話でした。しかし、日本に来る直前に「期限付き移籍で」と提示されました。契約延長の交渉もさせてもらえずに移籍していったので、海外選手との契約交渉の難しさを学ばせてもらいました。

――ジョーは、もう1年見てみる感じですね。

西村 シーズン途中での加入からトレーニングを見ていて可能性は感じています。この半年を生かすのも彼次第です。昨季の経験を今季どうやってプレーで生かすのかに懸かっています。ジェフェルソンバイアーノは、ゴールのバリエーションが多い選手ではありませんでした。周りの選手との絡みなどを考えれば、ジョーの方が適しています。

――FWの数が足りないように見えます。ブラジル人など新加入の可能性は?

西村 あります。3月31日までいろいろ検討しながらですね。

――昨季はトライアウトで、木村祐志と松井謙弥を獲得。彼らはチームを救う活躍をしました。今季はどうでしたか?

西村 トライアウトで獲得したのは森勇人、彼だけです。一定の力は見せていたし、パーソナリティーも知っていましたから。サッカーに真摯に向き合う、とても愚直な性格の選手です。水戸というクラブに合ったパーソナリティーの選手です。

――大学卒の新人選手が3人加入しましたね。

西村 大阪体育大学から加入の浅野雄也は、仲介人の方からの売り込みがありました。練習参加してもらって、試合を見て決めました。平塚悠知は札幌大学卒ですね。北海道コンサドーレ札幌の関係者から話があり、練習参加に2回来てもらって契約しました。あとは、明治大学から村田航一を獲得しました。

移籍してきた選手と契約を継続した選手

――大分トリニータから加入した岸田翔平はどんな選手ですか?

西村 僕は以前から、能力が高い選手だと評価していました。プレーは近代的というか、強さも高さもあるし、ボール扱いもきちんとできる選手ですが、大分では1年間、なかなか出場機会に恵まれなかった。最初は期限付き移籍での加入になると思っていたのですが、完全移籍で獲得できたのは大きい。あとは本人の取り組み方次第です。

――GKは松井謙弥のケガもあり、昨季は苦労しました。

西村 レノファ山口FCから村上昌謙が期限付き移籍で加入しました。第2GKは彼と本間幸司の争いですね。

――FWは、大宮アルディージャから清水慎太郎が期限付き移籍で加入しました。

西村 清水は昨年の夏から獲得できないかと考えていた選手です。良い流れを作れ、周りと絡める選手。そしてゴールのバリエーションを持っている。こうした資質のある選手を探していて、清水ならちょうど当てはまると思いました。そういう選手が必要だと監督とも話をしていました。強さはジェフェルソンバイアーノでしょうが、総合力で言えば彼の方が良い。

――白井永地と契約を延長しました。昨季と同じような使い方になりますか?彼にとって今季は正念場だと思いますが。

西村 昨季後半はほとんど試合に出られませんでした。ポジションはボランチになると思いますが、そこには2年目の平野佑一がいて、小島幹敏(大宮アルディージャへ移籍)と同じタイプの左きき、平塚悠知がいます。木村祐志もボランチの可能性があるため、厳しいポジション争いの中にいます。

――左SBは松本山雅FCから加入した志知孝明ですね?

西村 そうですね、彼を起用するのだろうと思います。

――全体の選手層としては、どう捉えていますか?

西村 年々J2のレベルも上がってきています。その中で、どんな選手を使っていくのかは、1年間やってみないと分からない部分があります。それでも昨季に比べて今季は、監督が好むような選手、あるいはチームに不足している資質を持った選手を獲得しているため、昨季よりは計算できる状況になっていると思います。

――選手獲得の際に、どのような点を見ているのでしょうか。

西村 走る速さ、体の強さ、キックの精度、ボールを止めて蹴る技術とか、あらかじめそこを備えている選手を獲得します。守備のポジショニングとか連係とか戦術面は、あとからでも教えられます。もちろん時間は掛かりますが、戦術面などの習得に着手していない選手だと考えるようにしています。だから頭の中を整理できれば、すごく可能性のある選手となる。

――田向泰輝(徳島ヴォルティスへ移籍)は「ほかでプレーしてみたい」と言っていました。移籍は仕方がなかったのでしょうか。

西村 ずっと「残ってほしい」と伝えていましたが、彼自身は「外を見たい」と言っていました。水戸のスターティングメンバーとして出場を続けていたため、本人にとってのタイミングは良かったと思います。これは水戸というクラブや田向という選手の話に限らず、試合に出続けていれば、必ずどこからか移籍の話はやってくる。それは仕方がないことです。

――瀧澤修平は、強化部長が見つけてきたのですか?

西村 彼は2015年に東洋大学にいる時から注目していた選手です。FC琉球に加入してからも試合に出続けていました。瀧澤は茨城出身。それに左ききのストッパーはなかなかいないので、すごくいいタイミングで獲得できました。

――浜崎拓磨のプレーは、どのように写っていましたか?

西村 昨季はケガに泣かされましたね。開幕してすぐにケガをして、それ以降、彼らしいプレーができませんでした。痛みを抱えたままプレーをしていました。今季はパフォーマンスを上げられる状態をどうやって作っていくのか。それが彼のテーマですね。

――宮本拓弥はDFとしての登録ですね。

西村 CBとしては悪くないと思います。もともとDFをやっていた選手なので。プロに入ってからFWをやっていましたけど、大学の時はストッパーやボランチをやっていました。

――実戦で使えるレベルにある?

西村 それを期待して育てている最中です。フィードも左右で蹴れるし、体も強いし、足も速い。コーチングは学ぶ部分ですね。

――ンドカ ボニフェイスは2年目になりますね。

西村 ボニーはストッパーとして、宮本、瀧澤と争う位置にいます。ストッパーは経験を要するポジションなので、良いメンバーがそろってきています。世代交代も含めてうまく移行できればと思っています。

――大原彰輝と中川洋介のユース出身者は?

西村 なかなか出場機会に恵まれないですが、アカデミー出身者として頑張ってほしいです。

引き継いでいけるチーム作り

――これから補強するとしたら、どこを中心に獲得しますか。

西村 FWと、キャンプに入ってケガ人が出たら、そこを補う必要があります。あるいは実戦をしてみて、機能していないポジションとかですね。

――黒川淳史の契約の発表が遅くなった理由は?

西村 大宮の監督の発表が遅くなったからですね。それを待っての期限付き移籍期間の延長でした。彼には、かなり「残ってくれ」と言いました。監督の要望もありましたから。

――選手獲得で監督からの要望は実現できましたか?

西村 要望を実現できたケースもありましたし、獲得できなかった選手もいます。金銭面で折り合いがつかなかった。

――岸本武流(徳島ヴォルティスへ移籍)が1年間で移籍したのは意外でした。

西村 小島幹敏は2年間、伊藤涼太郎は1年半、水戸でプレーしました。伊藤は「J1からオファーがなければ水戸にとどまる」と言ってくれましたが、今季J1に昇格した大分からオファーがきたため、移籍しました。期限付き移籍で来てくれた選手は、ランディング期間も考えて2年目が飛躍するチャンスだと思っています。その点で岸本の移籍は、考えさせられました。選ばれるチームでありたいと思ってチーム作りをしてきたので、1年で移籍したことは残念ですね。

――フォーメーションやシステムに関しては?

西村 4バックを基本に、5バックでもいいんですが、ゾーンディフェンスをしっかり植えつけて継続してほしい。

――今季は、水戸のどう言ったところを見てほしいですか?

西村 長谷部茂利監督も2年目を迎えます。長谷部さんのサッカーを成熟させる形で、水戸の粘り強さと組織的に守る形、毎年のように選手が変わっていく中で、コンセプトを持ってチームを作り続けていくしかない。選手は、2、3年で変わっていく。それは、どうしようもないこと。それでも1、2年で水戸のやり方を引き継いでいけるような形を作りたいと思っています。

――最後に、今季のチームの目標は?

西村 6位以内を目指します。

川本梅花

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