川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】#黒川淳史 の頭脳的なプレー戦術が勝利を呼び込む【無料記事】J2第2節 #水戸ホーリーホック 3〇0 #栃木SC #mitohollyhock

黒川淳史の頭脳的なプレー戦術が勝利を呼び込む

2019明治安田生命J2リーグ第2節
水戸ホーリーホック 3〇0 栃木SC
http://www.mito-hollyhock.net/games/12745/

3月3日の日曜日、明治安田生命J2リーグ第2節・栃木SC戦が行われた。開幕戦、水戸ホーリーホックはファジアーノ岡山戦に1-0で勝利を収めている。一方の栃木は、ツエーゲン金沢とスコアレスドローだった。

新監督の田坂和昭が指揮を執る栃木。そのフォーメーションは「3-4-2-1」(3バック)だった。一方、ホームの水戸は、いつもの4バック「4-4-2」で臨む。両チームのフォーメーションを組み合わせた図は以下の通り。

黒川淳史の頭脳的なプレー戦術が勝利を呼び込む

この試合の主導権を握るキッカケを作ったのは、黒川淳史のプレーだった。それは、黒川が試合中に「こうすればいい」と思い立って決断したプレーにある。そのことは、栃木の田坂監督の頭を悩ませる種にもなった。

田坂監督のハーフタイムコメントは以下である。

「サイドの攻撃に気を付けること」

試合後の監督会見で、筆者は田坂監督にこのような質問を投げかけた。

「ハーフタイムのコメントに『サイドの攻撃に気を付けること』とありますが、具体的にどちらのサイドを指しているのか教えてください」

田坂監督は、以下のように答えた。

「栃木の左サイドの対応です。32番の黒川が我々の左サイドに張ることによって、うちの左ワイド(ウイングバック/WB)の福田健介がそこ(32番)に出させないポジションを取っているので、相手の右サイドバック(SB)が空いてしまう。この時に相手の27番の右サイドハーフ(SH)の茂木が中に入ってきているので、そのマークの受け渡しが大事になる。この時にそのまま引いてしまうとプレッシャーが掛からないので、その時の守備、うちの左シャドー(西谷)和希と、左ウイングバック福田健介、左センターバック(CB)温井の連係をうまく気を付けなさいと言いました」

監督のコメントを(水戸側から見て)右サイドに図に限定すれば次のような形になる。

黒川は、自分がタッチラインに張ることで3バックの左CB温井を「タッチライン近くに寄せることができる」と考えた。それによってWBの福田は上がれない。茂木がピッチの中に入って行くとセンターハーフ(CH)の岩間が茂木を見る。岸田の前のスペースが空くので前進すると西谷がついてくる。「黒川・茂木・岸田」とトライアングルになれてボールを回しやすくなる。

ここまで具体的な攻略イメージを黒川は持っていたようだ。

1つ目の勝利のポイント

黒川がタッチラインに張ったことは、さまざまな変化をもたらした。

この判断が試合を左右した。水戸の先制点は左サイド、敵陣深くから木村が上げたクロスを、清水がアクロバティックに右足で決めたものだ。しかし、木村が敵陣深く進入できた背景には、右サイドからの攻撃を意識させたことで、左サイドのスペースが空いたことがあるのだ。

伊藤槙人が「まだまだ改善の余地はある。もっともっと良くなりますよ」と述べた理由

最初に示した図を見てもらいたい。両チームのシステムをマッチアップさせると、誰とも対面しない選手がいる。

水戸では、両SBの岸田翔平と志知孝明の2人。

栃木は、2シャドーの浜下瑛と西谷和希2人。

栃木の2シャドーに関しては伊藤が試合後に語っている。

「守備に関して、ミスマッチの中で、自分たちからボールを奪う場面をもっと作りたい。シャドーの選手をうまく使われた場面があったので、試合中でも声を掛け合って改善できたらいいと思います」

伊藤が指摘した「シャドーの選手をうまく使われた場面があった」とは、水戸のSBが高い位置を取ると、SBの裏のスペースが空くことを指す。空いた裏の場所にシャドーが入り込む。そうしたプレーをやられたので、対処として誰がシャドーの選手を捕まえに行くのかを、コーチングする必要があることを述べている。

SBが攻撃参加して高い位置を取らないとサイドからのクロスは上げられない。しかし、高い位置を取ったならば必然的にSBの後ろのスペースが空くので、その場所を対処する必要がある。水戸は、主にSBの裏のスペースには3つのパターンで対処する。

(1)SHの選手が下がって裏のスペースをケアする。

(2)CBの選手がサイドに寄って裏のスペースをケアする。

(3)SBの選手がステイして裏のスペースを空けない。

この日の栃木戦は(3)のやり方を選択する。左SBの志知が高い位置を取る時は、右SBの岸田は前に上がらないで(攻撃参加しないで)その場にステイする。

2つ目の勝利のポイント

片方が上がったら、もう一方は上がらずに様子を見るという、オーソドックスなやり方を取った。

なぜ(3)を選んだのかと言えば、栃木にはシャドーのポジションに選手がいるので、バランスを保つためだと考えられる。伊藤が「まだまだ改善の余地はある。もっともっと良くなりますよ」と述べた理由には、上記の状況も加味されている。

SBが高い位置を取ろうとすると、そのSBをケアする最初の選手はシャドーの選手になる。具体的には、岸田が攻撃参加のために上がろうとすれば、近くにいる西谷がケアしなければならない。もし、水戸が攻撃途中で栃木にボールを奪われたら、岸田の裏にボールが出される。そこには西谷が走り込む。その時に、CBの伊藤がスライドしてスペースを埋める。そこで、栃木の1トップの大黒をケアしないとならないので、伊藤はコーチングしてボニーに大黒をケアするように指示をする。こうしたコーチングが、まだスタメン2試合目のボニーとは完璧にうまく行っていない。

試合を重ねることで、コーチングを含めた連係のレベルアップが見込めるので「もっと良くなる」と伊藤は言うのである。

攻撃面や守備面のバランスの良さが勝利をつかみ取った栃木戦は「完璧な勝利」と言える。就任2年目にして、長谷部サッカーをチームに浸透させた監督の力量は計り知れない。

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