川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】記者会見の風景…予想外の解任と継続された攻撃戦術【無料記事】J2第4節 #水戸ホーリーホック 1△1 #ジェフユナイテッド千葉 #mitohollyhock #jefunited

フアン エスナイデル監督、最後の戦い

本文目次
解任を予想させなかった記者会見でのやりとり
継続された長谷部茂利監督の攻撃戦術
千葉の得点はどうして生まれたのか?

2019明治安田生命J2リーグ第4節
水戸ホーリーホック 1△1 ジェフユナイテッド千葉
http://www.mito-hollyhock.net/games/12997/

3月17日の日曜日、明治安田生命J2リーグ第4節、水戸ホーリーホック対ジェフユナイテッド千葉戦が行われた。

連敗中の千葉は、フアン エスナイデル監督が指揮を執る。千葉のフォーメーションは「4-3-3」の中盤が逆三角形型。一方の水戸は「4-4-2」のフラット型で臨む。プレビューではシステムを変えずに「4-2-3-1」を選択すると記したが「4-3-3」で構成してきた。両チームのシステムを組み合わせた図は以下の通りとなった。

解任を予想させなかった記者会見でのやりとり

試合が終わってからエスナイデル監督の解任が発表された。翌日になって江尻篤彦新監督の就任が告知される。

https://jefunited.co.jp/news/2019/03/top/155287002012286.html

これまで筆者は、監督会見の中で二度、監督自らが辞任を告げる場面に遭遇したことがある。

一度目は2011年、浦和レッドダイヤモンズのゼリコ ペトロビッチ氏が自らの進退を口にした時だった。二度目は2016年、柏レイソルのミルトン メンデス氏が辞任した席である。彼らは、チームの不振を背負って辞任する可能性はあったが、監督会見が辞任の場所となってしまったことには驚かされた。今回のエスナイデル監督の場合、会見の中の本人の表情には、全く「辞任」という雰囲気はなかった。逆に、引き分けになった試合結果には落胆の色があったけれども、試合内容には満足しているようだった。ある記者の質問への返答が、そのことを示している。

その記者は「キャンプから取り組んできたことがこの試合では表現されていたように思われたのですが、監督の評価を聞かせてもらいますか?」と質問。それに対してエスナイデル監督は「具体的に何?」と通訳を介して聞き返す。すると記者は次のように説明する。

「守備に関して、前から行く時と行かない時、守備の安定の部分についてです」

監督は、記者の顔を見ながら頷(うなず)く。

「それは、トレーニングしてきたことですから。良かったと思います。ただ、それだけでは十分ではありません。勝たなければいけない試合でした」

そう言って席を立ったエスナイデル監督は数時間後、監督の名称に“前”が付く立場になってしまう。

筆者は、上記の記者の質問を聞いて答えようとしたエスナイデル前監督の表情が脳裏に焼き付いている。本人は、この試合が千葉での最後の試合になるとは想像もしていなかったように感じられたからだ。結果には落胆だけれども、内容はやってきたことが実現化される予感を持たされた。筆者には、そう受け取られる質疑応答の様子だった。

では、実際に、この試合で何が行われていたのかを検証していこう。

継続された長谷部茂利監督の攻撃戦術

エスナイデル・サッカーの特徴は、前線の選手が激しいプレスを仕掛けて、最終ラインを高く保ち、相手陣内でボールを回して得点を奪うというものである。そのためのシステムとして、ウイング(WG)を左右に置いた「4-3-3」が好まれて使われてきた。このシステムの特長として、WGがサイドラインに張ってポジショニングすることである。まさにこの点は、マンチェスター・シティのジョゼップ グアルディオラ監督の考えに通じる。

「ビルドアップの目的は、ウイングが1対1で突破を仕掛ける状況を作り出すことだ」

しかし、このやり方がうまく機能しなかったので、記者の質問にあったように「キャンプから取り組んできたこと」をやろうとしていたのだ。それが「ハイプレスとハイラインを捨てる」ことだった。皮肉にも、前監督が望んでいたやり方では通用しないので別のやり方で臨んだ結果、以前よりも成績が上がらずに解任の憂き目となってしまう。

水戸の長谷部茂利監督は、以前のようなハイライン・ハイプレスをやってこないと、ある程度予測していたようだ。予測した中で、攻撃戦術を2つに置いた。

1.前線の選手はGKまでプレスに行き、その間にボールを奪えたら素早くショートカウンターを仕掛ける。

2.FWの清水慎太郎を基準に、ロングパスやミドルパスを相手センターバック(CB)の裏のスペースに送る。

水戸がなかなか得点できなかった原因は、この2つのやり方に固守したからである。千葉にとっては、水戸のこのやり方で助けられた感がある。筆者は、後半になってやり方を少し変えるだろうと思っていたが、長谷部監督は2つの攻撃戦術に固執した。監督会見で筆者は、次のような質問をした。

「攻撃に関してですが、前線の選手がプレスに行ってボールを奪ってショートカウンター、もう1つはロングボールかミドルボールで相手の裏にボールを出す。2つのパターンだったと思いますが、まあ、ゲームの状況もあるとは思いますが、最初から最後まで貫徹させる考えだったのですか?」

対する監督の答えは、以下の通り。

「まあ交代も含めて、われわれは90分交代も含めて、われわれは90分走り切ることができると信じています。それは大きな相手との差だったと思います。われわれには足をつるような選手は見受けられなかった。相手選手の何人かは足をつっていた。その辺の差があると思うのです。やって得をするプレーは継続した方がいいと思います」

「当然、試合の中で私が感じることや選手が感じることがある。ベンチワークを含めて変えるべきことは変えていきます。もっといい策があったと思いますし、もっと効果的に相手のペナルティエリアに入っていく方法もあったと思いますけれども、ただ、やっていたことが全然うまく行ってなかったとは思っていませんので、継続させました」

結果論ではあるが、筆者は、サイドアタックをもっと仕掛けても良かったと考えている。2つの攻撃パターンを継続させた判断は、決して間違っていなかったのだが、ゲームが進むにつれ、相手DFも対処に慣れてきていた。そのため、視線を変えるやり方があっても良かったと考える。なぜならば、千葉の両WGの船山貴之も為田大貴もサイドラインにポジショニングしないで、比較的、ピッチの中に入ってプレーしていたからである。つまり、水戸がボールを持っている時に、両サイドバック(SB)の岸田翔平も志知孝明も高い位置を取れるチャンスがあったからだ。

千葉の得点はどうして生まれたのか?

千葉にとって得点した場面は、水戸にとって失点を喫した場面になる。両チームのシステムを組み合わせると、中盤が3対2になり千葉の数的優位となる。千葉のインサイドハーフの小島秀仁と熊谷アンドリューは、水戸の前寛之と平野佑一がマッチアップするが、アンカーの佐藤勇人はフリー。3対2の状況となり、誰が誰をマークするのか、水戸には迷いが生じる。千葉の得点の場面は、あやふやになったマークのズレから生まれたのだった。

ペナルティエリア内を見ると、水戸の選手3人に対して千葉の選手は2人。伊籐槙人を含めれば、水戸は4対2の数的優位となる。それなのに、なぜ為田はシュートを決められたのか?それは、マークする選手に付いていくのか、それとも付いていかないのか、迷いが生じたからだ。問題は2点ある。

1.平野が熊谷に付いていかなかった。

2.ボニーがもっと早く右にポジショニングして熊谷をケアできなかったこと。

ボニー(ンドカ ボニフェイス)は船山の動きが気になっていた。それが右にスライドできなかった理由だろう。しかし、志知が1対1で船山を警戒していたため、早く決断しなければならなかった。ボニーが熊谷をケアできないと分かったなら、平野が熊谷に付いていて、コーチングしてボニーを自分がいたポジションに動かすべきだった。

ボニーと熊谷の距離に開きがあったため、あの状況ではボニーが熊谷に付いていくのは無理。それならば、熊谷がピッチ深くに入ってボールを受けた時に、平野が熊谷に付いていかないとならない。付いていかない選択をしたならば、少なくとも為田の前にもっと詰めてケアしないといけない。

試合のポイント

千葉は、システム上の優位点を生かして得点を挙げた。

水戸は、ケアすべき選手の判断をミスしたことで失点を喫した。

この日の試合が、エスナイデル前監督の最後の戦いになった。厳しく言えば、与えられた環境と時間を生かせなかった彼に、千葉の低迷の責任はある。しかし、今季を任せようと決断した首脳部に大きな問題があったと考えるのが普通だろう。

#川本梅花

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ