川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】久しぶりの再会【無料記事】取材は正田醤油スタジアム群馬より #ヴァンラーレ八戸(@vanraure)

2019明治安田生命J3リーグ第4節 ザスパクサツ群馬対ヴァンラーレ八戸

取材は正田醤油スタジアム群馬より

試合が終わって、ヴァンラーレ八戸の選手たちがロッカールームから出てくるのを待っていた。選手たちがなかなか顔を見せなかったので、手持ちぶさたになってスタジアムの関係者入り口に目をやった。

「いやー」と言って僕は彼に右手を差し出した。彼の大きな手は僕の手を握って離さない。本当に、久しぶりの再会だった。この試合に彼が帯同しているだろうし、その時に会えるはずだと考えていた。僕は彼の状態をずっとある選手から間接的に聞いていた。だから、体調はもう大丈夫だと知っている。

「電話しようと思っていたんですが、忙しいだろうと思って控えていたんですよ」

と僕が言う。

「電話してよ」

と彼は答える。

「S級ライセンスの講習会に行くんですね」

「来月からなんだよ」

「強化部長は忙しいでしょ」

「バスの運転から何から何までやっているんだ」

「そうなんですか」

「いや、ほんとほんと」

僕らはなぜか笑いながら話していた。

葛野昌宏と最初に会ったのは、彼がラインメール青森FCの監督だった時である。ラインメールはまだその頃、東北社会人1部リーグにいた。そこから昇格してJFL(日本フットボールリーグ)に在籍することになる。葛野がラインメールに残した実績は大きなものだった。アマチュア色の強かったラインメールにプロフェッショナルな色を描いていった。特に、2017年は目覚ましい成績を積み重ねた。青森県代表の監督としてチームを国体で優勝させる。JFLの年間順位を、ラインメールが2位でフィニッシュする。

青森に取材に行った時は、練習後にカフェでコーヒーを飲みながらチーム改革の話を聞いた。とにかく彼と会うと、いつもサッカーの話ばかりだった。

ラインメールとの契約が終わった時も、すぐにほかのクラブから声が掛かると思っていた。だからヴァンラーレから声が掛かったと聞いた時は「当然だ」と思った。もしもJ3にクラブが昇格しても、S級ライセンスを持っていないから、チームを監督として指導できない。僕はその時に、彼に尋ねたことがあった。

「J3に昇格できても、監督は続けられないわけじゃないですか。その後のことは何か提案があったんですか」

彼は「いろいろ言われているんだけど、とにかくクラブをJ3に上げることしか考えていないんだよね。その先は、特に希望もないし」と話した。

ザスパクサツ群馬戦の監督会見で、ラインメールの大石篤人監督は、「今年の12月まで」というフレーズを何度も口にしていた。その言い方に、僕は少し違和感を覚えた。もしかしたら、S級ライセンスを取得した後は……。そうしたことを考えているのではないかと思わせた。

本当のところは分からない。確約などはないのだが、暗黙の了解が、そこにはあるのかもしれない。

正直に言えば、彼が監督に復帰して、彼が作るチームを見てみたい。Jというリーグの中で、どんなチームを作っていくのかをこの目で見てみたいのである。

選手たちがロッカールームから出てきて、何人かの選手に話を聞き終えた僕は帰り支度をする。そして、関係者入り口を振り返ると、彼と大石監督と平畠啓史氏が並んで写真を撮っていた。

帰りの「あいさつをしようか」と考えたが、「電話するからいいか」と思ってスタジアムをあとにした。

駅までのバスの中で、彼の「体調が戻って良かった」と僕は心底思った。

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