川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】どうすれば後半アディショナルの失点を防げたのか?【無料記事】J2第8節 #水戸ホーリーホック 1△1 #徳島ヴォルティス #mitohollyhock #vortis

後半アディショナルタイム、なぜ水戸ホーリーホックは失点を喫したのか?

本文目次
後半アディショナルタイムの被弾。それまでに起きた6つの事象
6つの事象を検証。浮かび上がる最大の原因は?
課題克服に必要なことは?

2019明治安田生命J2リーグ第8節
水戸ホーリーホック 1△1 徳島ヴォルティス
http://www.mito-hollyhock.net/games/13327/

4月7日の日曜日、明治安田生命J2リーグ第8節、水戸ホーリーホック対徳島ヴォルティス戦が行われた。

ホームの水戸は、就任2年目の長谷部茂利監督が指揮を執る。一方の徳島は、今季で3シーズン目を迎えるリカルド ロドリゲス スアレス監督を務める。水戸のフォーメーションは「4-4-2」でFWが縦並びになって攻撃し、守備の際は横並びになる。一方の徳島も「4-4-2」の中盤はボックス型を採用する。両チームが同じシステムで戦う。システムを組み合わせた図は、以下の通りとなる。

後半アディショナルタイムの被弾。それまでに起きた6つの事象

後半アディショナルタイム4分間に起こった同点劇。その直前までのプロットを記そう。

ロドリゲス監督は0-1で迎えた90分、左サイドバック(SB)の内田裕斗を下げ、MF藤原志龍をピッチに投入。徳島はペナルティエリアに3人の攻撃的な選手をそろえる。

3トップにするための交代を見ていた長谷部監督は90+1分、MF茂木駿佑を下げてDFンドカ ボニフェイス(ボニー)を投入。ボニーを細川淳矢の左横にポジショニングさせ、はっきりと5バックを敷くように指示する。90+2分を過ぎて、ロドリゲス監督はDFヨルディ バイスにペナルティエリアへ入ってパワープレーに参加するように指令する。徳島の4人の攻撃者に対して水戸は5人の守備者で防御しようとする。そして同点劇が生まれた。

90+4分、右SB藤田征也からクロスが上げられる。ペナルティエリア左に位置していたバイスが、ゴールエリア中央に落ちてくるボールに右足をかぶせてゴールネットへ叩き込む。水戸は、この同点弾を食い止められたのか。それを解明する。

失点を招くまでに起きた事象を挙げる。

(1)4バックで守っていたところを5バックに変えた。

(2)徳島が3トップから4トップにした後、ボールアウトオブプレーにできなかった。

(3)ヨルディ バイスがペナルティエリアに入ってきた時、マークの確認が間に合わなかった。

(4)選手全員が下がって守備をした結果、バイタルエリア中央の徳島MF岩尾憲が、水戸のクリアボールを前向きで収める。そして右サイドの藤田征也へボールを供給する。

(5)左SB志知孝明の藤田に対する寄せが甘く、クロスを上げられる。

(6)右SB岸田翔平がバイスのマークから外れてしまった。

6つの事象を検証。浮かび上がる最大の原因は?

(1)から検証しよう。

J2第8節まで1-0で勝利を収めた試合は3つ。そのいずれもDFを投入して5バックにはしていない。J2第6節・鹿児島ユナイテッドFC戦のように「4-1-4-1」でゲームをフィニッシュした例もある。つまり中盤のポジションを変えても、ディフェンスラインは基本的に4人でゲームを締めくくっている。ではなぜ徳島戦は、5バックでゲームを締めようとしたのか。それは守備のオプションを増やそうと、長谷部監督が考えたからだろう。

長谷部監督の性格からして、練習していないことは公式戦で行わない。実際、5バックで守り切るというシミュレーションは、トレーニングで繰り返されていたようだ。つまり5バックシステムの逃げ切りは、ある程度想定していた戦い方となる。ぶっつけ本番で5バックを試したのならば、システム変更も失点の原因となるが、想定してトレーニングされた結果のため、これを直接の原因とすることはできない。

(2)と(3)はどうか。

90+3分、水戸GK松井謙弥がボールに触ったものの、それ以降は基本的に徳島がボールを保持。ボールアウトオブプレーにはならなかった。そのため、徳島DFバイスがペナルティエリアに入り、攻撃側の選手は3人から4人に増えたにもかかわらず、守備側の水戸は、マークを明確にするためのコミュニケーションが取れなかった。

(4)は最後に記すとして(5)について。

サイドの守備で一番肝心なことは、相手にクロスを上げさせないことだ。ボールを体でブロックしてボールアウトオブプレーにするなど、キッカーとの距離をできる限り詰めて守備する必要がある。その点では、志知の寄せが甘かった部分は否めない。もっと相手に対して粘り強く守備をしてほしい。

(6)についての考えを示そう。

バイスの近くいたのは、岸田翔平と伊藤槙人の2人。バイスは伊藤の背後にいたため、伊藤の視界には入らない。逆に、岸田はバイスの背後に立っていた。そのため、岸田はバイスの動きに合わせ、移動できたはずだ。しかし、そうしなかったのは、伊藤に任せようと考えたのか、それとも経験不足が露呈したのか。いずれにせよ、バイスをフリーにしてしまった。

最後に(4)についてだが、これは志知のサイドにおける守備や、ペナルティエリア内でバイスをフリーにしたことよりも深刻な問題だと考えている。

課題克服に必要なことは?

「相手の勢いを止めるには、どうすればいいのか?」という問題がある。その回答として「選手全員が下がって守備をする」を選んだのが、後半アディショナルタイムにおける水戸だった。しかし、相手の勢いを止めるためには、まず「立ちはだかる」ことを考えなければならない。下がって守備をしているだけではダメなのだ。

全員が下がるのではなく、ボールの近くにいる選手は、その場にステイして相手の勢いを止める。止める“だけ”で良い。前へプレスに行く必要はない。前に行けば、かわされる確率が高くなるため、相手の前に立ちはだかり、勢いを止める選択をしなければならない。相手が前を向いた状態でフリーになることを避ける。これが第一目標となる。

ボールを奪うよりも簡単に思えるが、これを90分間遂行するためには、徹底した規律と選手間のコーチング、激しい運動量が必要となる。失点を喫した時間は後半アディショナルタイム。中3日の試合日程が続いたため、フィジカルの低下もあったのだろう。しかし、よく考えてもらいたい。この条件は相手も同じだ。身体的にも精神的にも困難で窮屈な状態だとしても、勝利という結果を残さなければならない。それができてやっとJ1への道が開けるのだ。

失点シーンのポイント

粘り強い守備を試合終了までやり遂げられなかった。

この課題を克服するには、選手の経験がまだ足りていない。そのことが露呈した。負けて経験する糧と、勝って経験する糧には、大きな違いがある。選手たちは、勝って得られる糧で経験を積まなければならない。そのために必要なことは「徹底した規律と選手間のコーチングと激しい運動量」である。いまの水戸の選手ならば、それらを手に入れ、勝利から得られる糧を受け取れるはずだ。

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