川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】セオリー通りの壁を破った #志知孝明 のFKと #清水慎太郎 のアシスト【無料記事】J2第9節 #ヴァンフォーレ甲府 1〇2 #水戸ホーリーホック #mitohollyhock #vfk

志知孝明、準備されていたセオリーの壁を破る直接FK

本文目次
練習通りだった志知孝明と清水慎太郎のプレー
甲府が採用したセオリー通りの壁づくり
セオリーの逆を突いた志知孝明の直接FK

2019明治安田生命J2リーグ第9節
ヴァンフォーレ甲府 1〇2 水戸ホーリーホック
http://www.mito-hollyhock.net/games/13385/

4月14日の日曜日、明治安田生命J2リーグ第9節、ヴァンフォーレ甲府対水戸ホーリーホックが山梨中銀スタジアムで行われた。ホームの甲府は、2017シーズンに大宮アルディージャを率いていた伊藤彰監督が指揮を執る。一方の水戸は、2年目を迎える長谷部茂利が監督を務める。甲府のフォーメーションは「3-4-2-1」。水戸は「4-4-2」で中盤がフラット気味に構える。両チームのシステムを組み合わせた図は、以下の通りだ。

練習通りだった志知孝明と清水慎太郎のプレー

ディフェンスラインを3枚で始めた甲府は、後半の途中から水戸と同じ「4-4-2」で向き合ってきた。最終的には、攻撃的選手を前線に4人並べて、水戸ディフェンス陣にものすごい圧力を掛けてくる。水戸が甲府の猛攻を凌ぐ中、劇的なエンディングが後半アディショナルタイムに待っていた。

得点シーンのポイント

セオリー通りだったヴァンフォーレ甲府の壁。
志知孝明のFKを助けた清水慎太郎のプレー。

90+4分、志知孝明による直接FKがゴールネットを揺らし、これが決勝点となる。志知のFKが素晴らしかったことは間違いないが、その背景には清水慎太郎による“助け”もあった。

FWジョーがペナルティアーク付近で倒され、水戸にFKが与えられる。甲府はペナルティエリア内に8人で壁を作る。一方、水戸が壁の人数に費やしたのは4人。以下のような立ち位置になる。このほか、甲府のフィールドプレーヤー2名が、壁から離れて立っていた。これは水戸の選手が壁の横に走り込み、パスを受けることに備えた対策だが、図では省略している。

志知のFKが成功した理由の1つに、壁の端に立っていた清水のアシストが挙げられる。志知がFKを蹴る瞬間、清水はしゃがみ込んでシュートコースを作っているのだ。もちろん志知のシュートは素晴らしかったが、清水のアシストがなければ生まれなかった得点だろう。長谷部監督が試合後のインタビューで語っていたように、これも練習の成果と言える。

甲府が採用したセオリー通りの壁づくり

これは筆者の想像だが、甲府の選手は、志知がキッカーになると思っていなかったようだ。その根拠は、甲府の守備陣形にある。

直接ゴールを狙える位置からFKに対し、守備側は通常4人から7人で壁を作る。この場面、甲府も最初は7人で壁を作っていた。しかし、離れた場所にいた甲府ピーター ウタカも壁に加わるように促される。こうして壁の人数は8人となった。

また壁を作る場合、中央に背の高い選手を置くことがセオリーとなる。逆に言えば、壁の端には、背の低い選手が配されることとなる。壁の端にいる選手は、壁の横にパスが出された場合、走り込んでくる相手選手をケアする必要がある。しかし、相手が走り込んできたからと言って、そこにパスが出されるとは限らない。相手選手が走り込んできたら、それがフェイクであってもなくても壁の端は崩れるため、端には背の低い選手を置くことがセオリーとなっているのだ。

壁にはもう1つ重要なセオリーがある。GKは壁の間をボールが通過しないと想定して守るため、選手と選手の間に隙間を作ってはいけない、ということだ。GKからすれば、壁の隙間を通されたらお手上げなのである。

さて試合に戻る。90+4分の場面、甲府は8人も掛けて壁を作った。真ん中には背の高い選手を置き、隙間を作らないように密着させて立つ。これは直接FKで蹴られたボールが頭を越える、あるいは低い弾道に備えていたことを意味する。

セオリーの逆を突いた志知孝明の直接FK

ここまでの説明だと、甲府の壁に問題はないように思える。また、志知ではなく白井永地が蹴るだろうという想定も、基本的には間違いではない。

左サイドからFKを蹴る場合、右利きのキッカーはインスイングになり、左利きのキッカーならばアウトスイングになる。セオリーとして、右サイドにボールが置かれている場合、左利きのキッカーに蹴らせて、左サイドにボールある場合は右利きに蹴らせる。なぜならば、直接ゴールを狙える範囲が広くなるからだ。もしボールが左サイドにあって左利きのキッカーに蹴らせると、GKに向かって飛んでいく弾道になるため、GKもセーブしやすくなる。

こうしたセオリーを踏まえ、甲府は壁を作る。そして水戸のキッカーは白井だと想定していた。裏を返せば、志知が蹴ることも、清水がアシストすることも考慮には入れていない。甲府の守備陣形は、そのように想像させるものだった。

実戦では練習でやったことしか成功しない。偶然性や突発性に賭けることはしない。それが長谷部監督のサッカーであって、その体現者の1人であった志知孝明が、この試合のヒーローとなったのだ。

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