川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】ボールを所持させることで、相手のバランスを崩す【会員限定】J2第10節 #FC岐阜 0〇1 #水戸ホーリーホック #mitohollyhock #fcgifu

相手にボールを持たせてバランスを崩させる

本文目次
ポゼッションサッカーの目的
ボールを保持することでバランスが崩れる

2019明治安田生命J2リーグ第10節
FC岐阜 0〇1 水戸ホーリーホック
http://www.mito-hollyhock.net/games/13467/

4月21日の日曜日、明治安田生命J2リーグ第10節、FC岐阜対水戸ホーリーホックが岐阜メモリアルセンター長良川競技場で行われた。ホームの岐阜は、2017シーズンから指揮を執る大木武監督がベンチに座る。一方の水戸は2年目を迎え、今季ここまで無敗のチームを長谷部茂利監督が率いる。岐阜は「4-4-2」の中盤がダイヤモンド型を採用。水戸は「4-4-2」で、中盤がフラット気味に構える。両チームのシステムを組み合わせた図は、以下の通りだ。

ポゼッションサッカーの目的

両チームのシステムを組み合わせると、岐阜のアンカー・中島賢星がフリーになる。水戸にとって中島が厄介な存在になることは、試合前から予想された。そこで、2トップを組むFW清水慎太郎と黒川淳史の関係性をはっきりさせる。清水をトップに張らせ、黒川との縦関係を築く。そして黒川に中島を「見る(ケアする)」役割を与える。

しかし、ここで大きな着目点が現れる。ハーフウェーラインを中島が超えて前に進むと、黒川は「見る」役割をやめ、MFに任せる。つまり深追いはせず、岐阜の選手にボールを所持させるのだ。

岐阜は「ポゼッションサッカー」を志向している。大木監督のサッカー哲学を実践する場と言える。「ボールをポゼッション(支配)する」とは、パスを連続して繋(つな)ぐことにより、ボールを保持し続けることを意味する。得点を挙げるためには、ボールを保持しなければならない。ボールを保持するメリットは、得点の可能性を持ち、失点のリスクを回避できることである。

それでは、ボールを保持することと、勝利を手にすることは等しいのか?

実は「ボールを保持すること」と「得点すること」に因果関係はない。いくらボールを所持していても、シュートを打つ機会を作らなければ、得点は生まれない。逆に、ほとんどの時間帯で相手にボールを保持されていても、一瞬のカウンターから得点を奪うことが可能だ。「ボールを保持すること」は得点の手段であり、それ自体は目的ではない。

では「ポゼッションサッカー」の目的は何か。3つ挙げられる。

(1)試合のリズムをコントロールする。

(2)数的優位を作り出す。

(3)時間を稼ぐ。

ビハインドなど、得点が必要な状況では、リズミカルにボールを回すことでゲームのテンポを上げ、リードしている場面では逆に、スローダウンして相手の勢いを削(そ)ぐ。ボールを保持していれば、(1)で挙げたゲームのコントロールがたやすくなる。

ダイレクトパスやワンタッチパスを使い、リズミカルにボールを回せば、相手を動かして自分たちが利用できるスペースを作ることが可能だ。そのスペースに、より多くの味方選手が進入すれば(2)で挙げた数的優位を作り出せる。

リードした状況で残り時間僅かとなれば、スローダウンして相手の勢いを削ぐより露骨な“時間稼ぎ”も、選択肢に加えられる。コーナーフラッグの角にボールを運び、ボールを奪われないように努める行為などが(3)に該当する。

以上がポゼッションの目的となるが、この試合では「ポゼッションサッカー」を志向する岐阜ではなく、水戸がこれら3つの目的を遂行していた。

ボールを保持することでバランスが崩れる

全ての戦術に当てはまることだが、ボールポゼッションにもメリットとデメリットがある。

ボールポゼッションには「オフ・ザ・ボール」の動きが不可欠だ。しかしオフ・ザ・ボールの動きを繰り返していくと、選手がボールよりも先に前方のスペースに移動する、いわゆる“前がかり”の状態となり、チーム全体のバランスを崩すことになる。

試合のポイント

水戸ホーリーホックは、「ポゼッションサッカー」を志向するFC岐阜にボールを保持させることで、岐阜のバランスが崩れることを誘った。

岐阜の右サイドバック(SB)会津雄生が、水戸陣内の深くまで上がったことにより、岐阜のバランスが崩れる場面があった。それは33分のことで、ボールを奪われた岐阜は選手の足が止まり、守備の人数が足りない状態となった。足が止まった岐阜に対し、水戸の選手は「パス&ゴー」を行っている。最後はMF木村祐志のシュートで終わるのだが、右SB岸田翔平から始まったパス交換は、岐阜の選手に一度も触れられることなく行われた。

ボールが岸田に渡った時、岐阜の右SB会津は高い位置を取っていたため、水戸の左SB志知孝明を後追いする段階にいない。志知はフリーで左サイドを駆け上がる。岸田からMF白井永地、木村までダイレクトパスが通る。木村から清水へボールが渡ると、体を張ってボールを足下に抑え、志知が上がる左サイドにボールを送り込む。志知はボールに触れるとドリブルを開始しながらマイナスのパスをペナルティエリア中央に出す。

一連の流れは、ポゼッションサッカーの目的で挙げた(2)そのものだった。また後半アディショナルタイム、1-0でリードしている水戸は、岐阜のコーナーでボールを抱え、試合終了の時を待った。これは(3)である。水戸は岐阜にボールを持たせることで、逆に(1)試合のリズムをコントロールしていたのだ。

ポゼッションの要素を利用して勝利を収めた岐阜戦。「勝利のために」という意識がチームに浸透している。そう思わせる一戦であった。

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