川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】サッカー戦術の言語化とは?【無料記事】僕はシステムをマッチアップさせて試合分析をする

僕はシステムをマッチアップさせて試合分析をする【孤独の曙と無花果の蕾】

先日、本サイトの渡辺文重編集長(@sammy_sammy)と話をして「ああ、そうなんだ」と思うことがあった。

読者の皆さんは、僕がサッカーの分析本を2冊出版していることを知っているだろうか?

その本は、現在FC今治のU-16コーチをしている林雅人氏(@masatohayashi)との共著である。林氏はオランダのフィテッセのユースでコーチ経験があり、これから紹介する本を出版した時は、日本人で最初のオランダ1級ライセンスを取得し、同時にUEFAのA級ライセンスも持っている指導者だった。彼の分析方法を前面に押し出して書籍にしたのが以下の本である。


『サッカープロフェッショナル 超観戦術』(カンゼン.2010)

この本は好評を得て第2弾が出版さることになり、それが以下の書籍である。


『サッカープロフェッショナル 超分析術』(カンゼン.2013)

あと数日で「平成」が終わる。最初の戦術本(分析本)が出されたのは、いまから10年前であり、2冊目が出版されたのが7年前である。そうした過去の実績を踏まえて渡辺編集長は、僕にこう言った。

「梅花さんが戦術本を出してること、知らない人が多いんじゃないですかね」

確かに、渡辺編集長が言う通りかもしれない。だから、僕が本サイトで戦術を通して試合分析を書いても、過去に分析本を書いたことがあるサッカーライターとは思われていなのだろう。上記の2冊の本を出す動機は、「サッカー戦術の言語化」をいかに分かりやすく読者に届けるのか、というものだった。

いまから10年前もSNS上で戦術分析が盛んに行われ、サッカー戦術を分かりやすく解説しながら、サッカーの見方を伝えようとする機運が高まっていた。木崎伸也氏の『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社.2010)清水英斗氏の『サッカー「観戦力」が高まる』(東邦出版.2011)が注目された時期とも重なる。しかし、この2冊と、僕たちの本では大きく違うところが2つあった。

(1)著者の1人が海外サッカークラブの指導者である。

(2)両チームのシステムをマッチアップさせるところから分析を始める。

(1)については、次のようなことを留意した。

現役指導者は「ここはこうなるから、こうしかならない」というロジックを前提に話すため、しばしば初歩的な部分が省かれてしまう。初歩的な解説抜きに“戦術用語”が出されるという具合だ。しかし、前提を理解していない初心者にとっては、分かりにくい、マニアックな理論の羅列に見えてしまう。そうならないように、言語化できる箇所は、可能な限り言語化する。誰が読んでも分かるようにする。その点について一切の妥協をしなかった。

2つ目は、現在も本サイトで行っていることなので、実際の記事を例に挙げる。

【試合分析】ボールを所持させることで、相手のバランスを崩す【会員限定】J2第10節 #FC岐阜 0〇1 #水戸ホーリーホック #mitohollyhock #fcgifu


両チームの選手を並べると、両チームの両サイドバック(SB)と、岐阜MF中島賢星がフリーになることが分かる。なぜフリーになるのか。岐阜と水戸は同じ「4-4-2」だが、岐阜の中盤はダイヤモンド型で、水戸の中盤はボックス型だからだ。そのことが、図にすることで明確となる。SBの前、そして中島の近くには誰もいない。つまり、彼らはフリーということだ。

岐阜MF中島はアンカー、ビルドアップの要となる存在だ。岐阜は、細いパスでボールを繋(つな)ぐサッカーを志向しているが、中でも中島は、攻撃のハンドルを握っている。

こうした図による確認は、試合前のミーティングでも行われる。監督やコーチはこの図を使い、選手たちに注意点を伝達していく。岐阜MF中島がフリーになることは、水戸も想定済み。どうやってケアするかがポイントになる。次の図を見てみよう。

試合が始まると、水戸FW清水慎太郎が岐阜のセンターバック(CB)の間、あるいは横に立つ。もう1人のFW黒川淳史はポジションを下げ、中島をケアできる位置に移動する。こうすることで、水戸は岐阜MF中島がフリーになることを妨げようとした。

こうした解説を、林雅人氏との共著で行っていた。いまでは普通に行われている分析方法だが、当時書籍の解説としては珍しかったと自負している。また、この共著に記された内容は、本サイトの試合分析の下敷きにもなっているのだ。

10年前、林氏と一緒に試合を見て「ああだこうだ」と話をしたことを思い出す。本を作るため、僕らは週に一度、僕の住むマンションで試合分析を行ったのだ。僕は戦術を言語化するため、林氏に何度も言った。

「初心者にも分かるように説明するには、どう言えばいい?」

すると林氏は「じゃあ、こう言い換えます」と言い、全ての知識を惜しみなく提供してくれた。僕がこうして、自分のサイトで試合分析を書けるのも、林氏と「話題を深掘りした」やり取りがあったからだ。

「戦術の言語化」とは、誰にでも分かる用語を使い、観戦初心者にも上級者にも納得してもらえる分析を行うことである。「戦術の言語化」を実行するため、僕は、僕の言語空間と僕の視点を提供するしかない。打ち合わせの席で、渡辺編集長の話を聞きながら、林氏と時間を重ねた10年前を僕は思い出していた。

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