川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】#リカルドロドリゲス 監督の会見から見えるチーム戦術【無料記事】J2第13節 #柏レイソル 1-0 #徳島ヴォルティス

監督会見から見えるチーム戦術

目次
徳島の課題は、どのチームにも当てはまる
「ボール保持」で問題解決を目指す
徳島の変則的な守備戦術

2019明治安田生命J2リーグ第13節
柏レイソル 1-0 徳島ヴォルティス
https://www.jleague.jp/match/j2/2019/051211/live/

5月12日(日)に三協フロンテア柏スタジアムで行われた明治安田生命J2リーグ第13節、柏レイソル対徳島ヴォルティスの後、徳島DF田向泰輝は、前所属・水戸ホーリーホックとの違いについて「徳島は戦術の中でプレーする感覚」だと話していた。

この言葉をヒントに、今回は徳島のリカルド ロドリゲス監督による試合後記者会見から、試合分析を試みてみる。実際の会見では、丁寧語や日本語特有の婉曲(えんきょく)的な表現も使われていたが、ここでは、そうした部分を意図的にそぎ落としている。

徳島の課題は、どのチームにも当てはまる

まずは監督の試合総括から確認する。

「今日の相手(柏レイソル)が強いことは知っていて、さらに最近、あまり良い結果が出ていなかったこともあって、だからこそ高い気持ちを持って臨んでくるだろうと思っていた」

柏は5試合勝ちなし。4引き分けの後の前節・鹿児島ユナイテッドFC戦で黒星[1●2]を喫している。「最近良い結果が出ていない」、つまり柏が不調という認識に間違いはない。

「前半の立ち上がりは良くなくて、相手に押し込まれてしまった。15分以降くらいから少しずつボールを持てるようになってきたが、前半を通して見ると、落ち着きがなく、簡単にボールを失うことが多く見られた。そこは、今後変えていなければならない」

この言葉通り、柏の前線の選手は試合開始より、徳島DFにプレスを仕掛ける。徳島は激しい寄せに耐えられず、パスミスが目立っていた。柏にボールを奪われるとサイドから早めにクロスを入れられ、何度かピンチを招く。リカルド ロドリゲス監督は「変えないといけない」と言っているので、どのような修正を行うのか。これは次節・モンテディオ山形戦の注目点となる。

「後半に関して、2、3本はチャンスを作れたと思う。相手にもチャンスがあったが。我々はチャンスをうまく生かしきれなかった。決めきるところは、今後改善しなければいけない。ただ後半だけを見れば、割と良かったと思う。相手が柏レイソルだということで(そんなチームと戦って)良いプレーを見せられたと思う」

後半になって徳島にゲームの流れが傾いたのは事実だ。ただし、徳島は45分に失点を喫しているため、同点にできるかがポイントだった。「チャンスは作れた」ことを指して「割と良かった」という評価なのだろうから、今後改善すべき課題は「決めきるところ」となる。

リカルド ロドリゲス監督の会見をまとめると、次の2点となる。

(1)開始15分をどのように乗りきるのか。

(2)いかにチャンスを決めきるか。

この課題は徳島に限らず、どのチームにも当てはまる普遍的な課題となっている。

「ボール保持」で問題解決を目指す

記者会見では、記者からの質問もあった。

「今日の試合は、自陣でビルドアップのところで相手を引き出そうとする意図があったのか。それとも敵陣でプレーしたいという意図があったのか」

リカルド ロドリゲス監督は次のように答える。

「相手を引きつけることと、相手を押し込むことの両方あった。相手を押し込むことで、相手の長所であるセットプレーや高さを生かしたプレーをより減らしたかった。しかし、なかなか押し込むことができなかった。もしかしたら焦りがあったのかもしれない。簡単にボールを失い、再び後ろに走らなければいけない。そういう風になってしまった」

「ハーフタイムでは、そこを修正しようと話をした。いくつか立ち位置を修正した結果、本当は1試合通してやりたかったことだが、後半はそれができたかと思う。ビルドアップについては、相手には前へ出てくる特徴があるため、相手を引きつけることで、中盤の背後を突きたいと話をした。これも後半の方ができていたと思う」

問題が起きたら「ボールを保持」することで解決する。これがリカルド ロドリゲス監督の考えだ。後半の徳島がボールを持てた理由は「意図的にボールを持とうとしたから」である。細かく説明すると、柏の前線がプレスを仕掛けてきた場合、ボールを大きく蹴る「安全策」を採るのではなく、ボールを保持することで相手を釣り出す作戦を採用した、となる。

最終ラインでボールを回し、柏のFWがプレスに行くことでMFとの距離を広げた結果、アンカーのような役割を担った徳島MF岩尾憲が、フリーでボールを受けられるようになる。フリーの岩尾は、前を向いてドリブルできるため、ビルドアップの基軸、チームのハンドル役となった。

また、記者からは次のような質問も出た。

「先に失点を喫するとゲームプランは難しくなると思う。失点後のプランはあるのか?」

これは“プランB”に関する質問だ。リカルド ロドリゲス監督は次のように答える。

「先ほども言った通り、相手の高さを警戒していたため、相手を引きずりだし、中盤の背後を突いて押し込んでいきたいと考えていた。しかし、前半に失点を喫したため、相手が出てこなくなったという難しさがあった。プランBという次の選択肢は、今回の試合でもやったことだが、それを進めていこうと話した。ただ、前半最後の嫌な時間帯に失点を喫してしまい、本来やりたかったプランは、うまくできなかったと思う」

リカルド ロドリゲス監督が「今回の試合でもやったこと」と話す“プランB”は、最終ラインでのボール回し、柏の選手が我慢できないくらいボールを前に出さないことで誘い出すという作戦だ。柏は先制したことで、前線から無理にプレッシャーを掛ける必要がなくなったため、0-0で後半を迎えたら、よりプラン通りの戦いができたと考えていたのだろう。

徳島の変則的な守備戦術

記者からはシステムに関する質問もあった。リカルド ロドリゲス監督の応答をまとめてみる。

「(前半は1トップだった?)そうですね、前半は前線に1人いて、両サイドに2人いるという形。攻撃と守備では少し形は変わった。(そうした並びにした狙いは?)まずウイングをうまく使いたかった。幅を使っていきたいという狙いがあった。相手は5バックで来ると予想していたので、両サイドの選手を使い、そこからサイドバック(SB)の攻撃参加をうまく生かしていこうと話をしていた。守備時は後ろが5枚並ぶような形だったが、前からはめていく狙いを持っていた」

徳島は右サイドの藤田征也と左サイドの清武功暉をタッチラインに張らせ、柏の3バックのうち、左右のセンターバック(CB)をサイドに引き出す。そして左右どちらかのサイドで、SBが攻撃参加する。これが徳島の狙いだと話している。ここは重要なポイントだ。

“左右どちらか”と記したが、徳島の左SB内田裕斗は最初から高い位置を取っていて、右SB田向泰輝はディフェンスラインがスタートポジションとなっている。つまり、攻撃参加は実質、左の内田に課せられたタスクとなっているのだ。

徳島は変則的な守備戦術を採用している。攻撃の際は4バックからスタートするが、左SBの内田は高い位置を取り、右SBの田向はディフェンスラインにステイしている。右SBの田向は、ボールが右サイドに来た時だけ前線の選手と絡むことになるが、敵陣深くまで進入することはない。徳島はCB2枚と田向の3人でディフェンスラインを形成。柏の攻撃時は、内田と藤田が戻り、5バックを作っていた。

リカルド ロドリゲス監督は「前からはめていく“狙い”を持っていた」と話していたが、現実問題として「前からはめていく」だけの人数を割けなかった。この課題をクリアした時、システムは完成となるのだが、もう少し時間が掛かるだろう。田向が話した「戦術の中でプレーする感覚」とは、システムを成熟させることで問題の解決を図ろうとする、リカルド ロドリゲス監督のサッカーを的確に表現しているように思えた。

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