川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】#伊藤槙人 Good-byeではなくSee you. #水戸ホーリーホック #mitohollyhock #fmarinos

伊藤槙人 Good-byeではなくSee you.

Good-bye というあいさつには、「次にいつ会えるか分からない」「もう会うことがないかもしれない」の悲観的な意味合いが含まれている。次に会う約束をしていない人にGood-bye と告げたら、「もう会いたくないから、これで最後にしたい」のより否定的な意味作用が働いてしまう。

一方でSee you というあいさつがある。この言葉は、I’ll see you.のI’ll を省略した語なので「未来に」の意味内容がある。日本語に当てると「またね」のニュアンスを持つ。See you は、相手との再会に制限がない。例えば、数分後、数日後、数カ月後でもかまわない。いつ再会することができるのか分からない場合でもSee you と言える。

http://www.mito-hollyhock.net/news/14643/
https://www.f-marinos.com/news/category=5_id=6222

横浜F・マリノスに移籍する伊藤槙人には、「Good-bye」ではなく「See you」であいさつをしたい。なぜならば「伊藤くん」には、思い入れが強いからだ。僕は、時々思う。僕自身、サッカーライターに向かない性格なのではないのか、と。どちらかと言えば、サッカーライター失格なのかもしれない。僕は選手を平等に評価するバランスを保ちにくい。気にいった選手に、ついつい肩入れしてしまう。

「伊藤くん」もその1人だ。本サイト内で「伊藤槙人」と検索すれば、試合後のインタビューがたくさん現れる。僕は水戸ホーリーホックの試合を取材した後は、必ず「伊藤くん」と言って話を聞くようになった。伊藤くんも、僕が話を聞きに近づくと「あっ来ましたね」という感じで話をしてくれる。

「伊藤選手」「槙人」といくつかの呼び名のパターンがある。僕は、ほとんどの選手に「くん」を付けて呼びかける。「伊藤くん」も例外ではなく、どんなに距離が近づいても「伊藤くん」で通していた。「槙人」と呼んでも良かったんだけど、呼び捨てはプロ選手に対して失礼な気がした。本当は、そんなこだわりなんて、どうでも良かったのかもしれない。でも、呼び名にこだわったのは、プロフェッショナルである存在を尊敬したいという僕の熱が強かったからだろう。

僕が先に「サッカーライター失格なのかもしれない」と書いたのは、別な言い方をすれば「水戸サポーターに失礼なのかもしれない」と同義になっている。伊藤くんの移籍話を知って、「とうとうこの時が来たのか」という寂しさはあった。でもそれよりも「良かった、おめでとう」という喜ばしい気持ちを抱いた。実は僕は、「伊藤くんは、必ずJ1から声が掛かるから。このまま努力を続けな」と励ましていた。プレーに関して具体的な対策を話たこともあった。

僕が伊藤くんと最初に言葉を交わしたのは、2016シーズンが開幕してすぐだった。水戸ホーリーホック強化部長に就任したばかりの西村卓朗氏に「インタビューしたいんだけど、誰かオススメの選手はいる?」と尋ねた。西村強化部長は「槙人は面白いんじゃないですか。今後注目されると思いますよ」と教えてくれた。

【インタビュー】再出発を誓って―伊藤槙人が“原点”を取り戻すために旅立つ―【無料記事】

上記は西村強化部長の推薦により、伊藤くんにインタビューした記事だ。

2017年に藤枝MYFCへの期限付き移籍を終えて戻ってきた伊藤くんのポジションは、細川淳矢選手と福井諒司選手(現FC琉球)が堅持していた。この2人の壁を越えることは、かなり厳しかった。実際、なかなかセンターバック(CB)で出場できずにいる。そうした中で、サイドバック(SB)での出場チャンスがあった。試合が終わった後に、僕は伊藤くんとこんな話をした。

「ボールを持って前が空いていたらドリブルをしてボールを進めた方がいい。ゴールラインまで行かなくてもいいから、アーリークロスでも1本はクロスを上げたらいい。高い位置を取って裏が心配になったら、全力でバックしてポジションに戻る」

すると伊藤くんはこう話した。

「監督からは、『7対3の割合で左SBを攻撃参加させたい』と言われているんですよね」

僕は続けて話す。

「無理に突っ込んでボールを奪われることをしなければ、チャンスを見て1回はクロスを上げないと。監督に、指示は守っていることとそれとは別にドリブルができてクロスが上げられると印象付けるためにも必要だと思う。SBで使われた時に守備力の強さを見せられたら、次はセンターバック(CB)で使ってみようと思うから。1対1になったら相手にクロスを上げさせない。あわよくばボールを奪う。そうしたら監督は必ず使うから」

伊藤くんは「そうですね」とうなずいたが、そうしたやり取りも過去のこと。今季になってからの成長は目覚ましく、経験不足のSBとCBをコーチングで引っ張っていた。伊藤くんは「そんなことはないですよ」「まだまだです」と謙遜しながらも、「僕1人じゃなくて、4枚で守るので4人の連係も大事」だと話していた。

横浜FMに旅立つ前、僕は伊藤くんにショートメッセージを送った。すぐに伊藤くんから返信がきた。その内容は僕と伊藤くんの秘密にしておこうと思う。See you. 伊藤くん。また会おう。

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