川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】#大石篤人 監督の2つの決断【無料記事】J3第25節 #いわてグルージャ盛岡 0◯2 #ヴァンラーレ八戸 @vanraure @grulla_staff

大石篤人監督の2つの決断

2019明治安田生命J3リーグ第25節
いわてグルージャ盛岡 0◯2 ヴァンラーレ八戸
https://www.jleague.jp/match/j3/2019/100507/live/

10月5日の土曜日、明治安田生命J3リーグ第25節、いわてグルージャ盛岡対ヴァンラーレ八戸の試合が北上総合運動公園北上陸上競技場で行われた。青森県のチームと岩手県のチームの戦いから南部ダービーと呼ばれる戦いは、2-0で八戸に軍配が上がる。先制点は51分に生まれた。PKを得た八戸のキッカーとなった須藤貴郁が、ゴール右側にボールを蹴り込む。八戸の追加点は、63分に谷尾昂也がGKと1対1になって落ち着いてゴールを決める。試合の勝った八戸は、2連勝を飾り直近5試合を3勝2敗と勝ち越す。一方の岩手は4連敗と苦しい立場に立たされてしまった。

小牧成亘のコンバートと差波優人のスタメン

八戸・大石篤人監督の2つの決断が、チームに活力を与えた。7月3日に行われた天皇杯2回戦の松本山雅FC戦[3〇2]で、大石監督は3バックの右ストッパーとして小牧成亘を起用した。それまで小牧は、右のウイングバック(WB)として起用されている。このコンバートは、大石監督の英断だった。右ストッパーとして、試合を重ねるごとに彼の潜在的な能力は開花していった。小牧のコンバートが成功しているのは、成績を知ればすぐに理解できる。リーグ戦では、7月14日の第16節のカマタマーレ讃岐戦から岩手戦までの9試合で、第21節・ギラヴァンツ北九州戦[0●3]と第23節・ロアッソ熊本戦[1●2]で2回敗れただけである。

攻撃参加が好きな小牧本人にしてみれば、國分将が中村太一と絡んで前線深く進入するので、ポジションにステイする時間が多くなっている。その点はストレスがあるかもしれない。しかし、岩手戦での小牧のプレーは安定していて、ほとんど右サイドを崩されることはなかった。チームとして「同点にしたい」「逆転したい」という劣勢の時に小牧の攻撃力は活かされると思われるので、試合に勝っている時は、岩手戦のようなスペースを与えないポジショニングが必要とされる。そうしたゲームの状況を伺いながらプレーしている小牧は、大きなチームの躍進力になっている。

2つ目の大石監督の決断は、内心相当に厳しいものだったことが想像される。それは、ミスター・ヴァンラーレ八戸と呼ばれる新井山祥智をベンチに下げたことである。差波優人が8月に八戸に加入してから、新井山とのダブル・センターハーフ(CH)だったのが、前田柊か貫名航世を相方に起用するようになった。大石監督のこの采配によって、差波が躊躇なく攻撃参加できるようになる。その表れが、先制点になった左サイドからのクロスに繋がっている。

差波は、八戸市出身で青森山田高校を卒業して明治大学蹴球部に入った。2016年にベガルタ仙台に加入するが、翌年の2017年にグルージャ盛岡へ期限付き移籍をして、さらにカターレ富山に移ることになる。そして、2019年にクロアチアのNK BSKベリカに所属するが、同年8月になって八戸に加入した。2018年に所属した富山では、リーグ戦31試合で3得点を挙げている。差波のプレーを見て、Jリーグのクラブが「なぜ」解雇したのか分からない。それほど、ドリブルにおいてもパスにおいても卓越した要素を持ったプレーヤーだと思えた。

差波のような選手は、Jリーグにはけっこういる。彼の「ような選手」とは、そのクラブで試合に使われていなかったのに、移籍してきたチームでは活躍できる選手のことである。例えば、水戸ホーリーホックの木村祐志が、「のような選手」に当たる。ロアッソ熊本では試合に全く使われなかった。そのために木村は、トライアウトに参加することになる。そこで、水戸の現GM(ゼネラルマネジャー)の西村卓朗の目に留まってエースナンバーの10番を与えられる。水戸に来た木村は、全くの別人のいように新しいキャリアをスタートさせた。おそらく、差波も同様に、クラブの戦術や選手雇用の条件にマッチングしなかったからだろうと思われる。差波にとっては、第二のプロキャリアのスタートに立ったと考えて、地元の八戸のクラブに貢献してもらいたい。

以上のことから、大石監督の2つの決断は、八戸の大きな力をもたらすものだ、と筆者は考えている。

川本梅花

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