川本梅花 フットボールタクティクス

【プレビュー】ミラーゲームを制するための策【無料記事】J3第29節 #藤枝MYFC に対する #ヴァンラーレ八戸 @vanraure @fujiedamyfc_pr

ミラーゲームを制するための策

11月3日のJ3第29節、藤枝MYFC戦を前にして、ヴァンラーレ八戸がどのように戦うのかを考えてみたい。そのために、対戦相手が同じ3バックであるAC長野パルセイロ戦とブラウブリッツ秋田戦を参考にする。

2019明治安田生命J3リーグ第28節
ブラウブリッツ秋田 0◯1 ヴァンラーレ八戸
https://www.jleague.jp/match/j3/2019/102710/live/

ビルドアップをいかに成し遂げるのか

J3第28節・長野戦と同じく、J3第29節・秋田戦もミラーゲームになった。ミラーゲームとは両チームが同じシステムで戦うことを言う。八戸は「3-4-2-1」のシステムで戦っている。長野も秋田も同様に「3-4-2-1」のシステムである。以下は秋田とのシステムをマッチアップさせた図を提示する。

同じシステムを持つチームとの戦いは、メリットもデメリットも同じものになる。違いがあるとすれば、選手個人のタイプと力量である。1トップの選手がボールキープにたけていれば、その選手にボールを預けて攻撃を仕掛けられる。または、1トップの選手にスピードがあって相手ディフェンスの裏を狙うのが得意な選手ならば、相手のGKとDFの間にボールを放り込む。しかし、サッカーは相手がいることで初めて成立するスポーツなので、相手との力量を相対的に見れば、一個人のスキルで状況を打開できるほど簡単にはいかない。そこで重要なのは、組織でどのように局面を打開するのかである。そのための第一歩が、ビルドアップをどのように成し遂げるかにある。

ここからは、大石篤人監督がどのように考えてミラーゲームに対処しているのかを、筆者と大石監督の対話からひもといていく。読者に分かりやすいように筆者の解説を付け加える。大石監督は「ミラーゲームをどのように攻略しようとするのか?」という問いに対して、以下のように話す。

監督談話

「基本的には3-4-3のミラーゲームでも、(近石)哲平、須藤(貴郁)、小牧(成亘)のところで3枚をうまくはがせれば、次のところで数的優位はできるので、そこは基本的にはやってほしいなと思っています」

解説

「3-4-3」の表記と「3-4-2-1」の表記は同じシステムを指すのだが、「3-4-3」の最後の[3]はFWやウイング(WG)、シャドーストライカーを含んでいる。「3-4-2-1」の[2]と[1]は、2人のシャドーストライカーと1人のFWを指している。通常は「2シャドー1トップ」と述べるポジションである。読者に分かりやすいように筆者は、ポジションの役割分担を示すために[3]を[2-1]に分けて表記しているだけである。

ここで監督が指摘しているのは、八戸がボールを持っている時に、ビルドアップの際に3バックの3人のDFが、相手の「2シャドー1トップ」の3人をはがしてボールを運べたなら、その時点で数的優位になるので、八戸の攻撃パターンの選択肢が増えることを意味している。つまり、監督の発言には、3人のDFが工夫して目の前にいる敵3人をかわしてボールを前に運ぶというチャレンジをしてほしいとの意図がある。

次に、大石監督は、ビルドアップの手順について話す。

監督談話

「差波(優人)と前田(柊)に関して、ウイングバック(WB)と3バックの脇に入ることに関してはOKを出しています。ただ僕は、3バックにボランチが落ちて、ビルドアップするのをあまり好んでいないんです。それはなぜかと言うと、切り替えの時に人がそのポジションにいないからです。そこら辺は、3バックは3バックでちゃんと運んでもらいたい。WBはWBの位置で対応してもらいたい。もしボランチが受けるんであれば、最悪、シャドーの脇くらいのあたりではがすことは差波と前田に関しては言っています」

解説

3人のDFでボールを運ぶことが難しいならば、センターハーフ(CH)の差波か前田が、DFとWBの間に降りてきてボールを受けてビルドアップに参加することも認めている。ただし、大石監督は北海道コンサドーレ札幌監督のミハイロ ペトロヴィッチが発明した可変式のシステムを好まない。ビルドアップ時に3人のDFの間にCHが落ちてきて4バックになる「ミシャ式」と言われるシステムは、その後多くのJクラブで汎用されているのだが、大石監督は、「3バックは3バックで」「WBはWBの位置で」対処することを望んでいる。その理由も明快で、「切り替えの時に人がそのポジションにいないから」だと述べる。

ボールを前に運べた場合、大石監督は、具体的にどのように攻めるのかに言及する。

監督談話

「(中村)太一はボールを引き出す能力を持っているので、太一に『(國分)将を上げて脇に落ちるのはいいから』と言って、試合の中で自動的に落とすようにします。八戸の攻撃の起点は右サイドからすごくできていると思います」

解説

中村太一は、八戸の中でも最も安定したパフォーマンスを発揮する選手だ。彼は、ラインメール青森FCに所属していた時よりも、あらゆる面でレベルアップしている。大石監督は、そんな中村の能力を生かすために、WBの國分を前に出して、あえて一歩引いた場所にポジショニングするように策を打っている。中村がポジションを移動することで、相手のCHなりDFが中村に付いていくケースが出てくる。そうすれば、國分が前に進む道が生まれるし、右ストッパーの小牧が攻撃参加するチャンスが生まれる。同じシステム同士の場合、どこに「ズレ」を作り出すのかがポイントになる。八戸は、右サイドから攻撃に威力がある。それを生かすために、中村のポジションを移動させて國分を前に出すやり方をして「ズレ」を作り出す。これは、論理的で具体的な攻め方である。八戸の1-0と2試合続いた勝利は、理にかなった攻撃の結果だと言える。

次節の対戦相手の藤枝MYFCは、同じ3バックでも攻撃陣が2トップでくると予想される。11月1日現在で2位の藤枝にどこまで善戦できるのか。八戸の今後を占う試合であり、真価が問われる一戦であることは間違いない。

川本梅花

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