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【試合分析】#清水英斗 が語る水戸のサッカー【無料記事】J2最終節 #水戸ホーリーホック 1○0 #ファジアーノ岡山 @hollyhock_staff @fagiano_koho

清水英斗が語る水戸ホーリーホックのサッカー

分析対象試合:明治安田生命J2リーグ最終節 水戸ホーリーホック1○0ファジアーノ岡山

11月24日日曜日 14:03 キックオフ ケーズデンキスタジアム水戸
2019明治安田生命J2リーグ第42節 水戸ホーリーホック1○0ファジアーノ岡山
https://www.jleague.jp/match/j2/2019/112402/live/

清水英斗が語る水戸ホーリーホックのサッカー

――今回、サッカーライターの清水英斗さんを迎えて、水戸ホーリーホックの戦い方について話してもらいます。普段は、サッカー日本代表や海外サッカー、J1リーグの試合観戦や試合分析をしているわけですが、J2リーグって見ます?

清水英斗 地元のFC岐阜はたまに見ますが、それ以外はほとんど見ないです。見られないと言った方がいいかな。日本代表戦の前には、対戦国の試合も3試合はチェックして準備しますが、それにJ1と海外サッカーも含めたら、なかなかJ2まで手が回りません。

――J2の試合を見て、どんな印象を受けましたか?ある意味で新鮮だったんじゃない。

清水 J1との違いは明白で、ロングボールが多いことですね。ロングボールにまたロングボールで返ってくる。あの応酬はJ1や日本代表ではなかなか見られないので、新鮮でした。

――水戸のサッカーの第一印象は?

清水 サッカーの質の高さや、守備が整備されている点が印象に残りました。

――試合を見ての感想は?

清水 この試合に限って言うと「もったいない」としか言えません。特に終盤ですね、どうやってゲームを作っていくのかが曖昧だったように見えました。

――「曖昧だった」というのはどういった意味で?

清水 そもそも、得点を取りに行くのか、それとも時間を消費させたいのか。終盤、積極的に行けていなかったと感じました。監督(長谷部茂利)さんも指摘していました。DAZNで見ていると、他会場の経過がどんどん入ってくる。他会場の経過に対して、水戸の戦い方がマッチしていないと、後半はすごく感じましたね。

――インカム(インターカム)でスタンドから、スタッフと監督はやり取りができるはずなのにね。

清水 今はベンチにも電子端末を持ち込めます。そうした手段はあるのですが……。昔だったら、2階席からサインを出したり大声で叫んだりしたものですが、今は直接電話もできるので、細かく情報を共有できるはず。その割には、あまり情報共有できていなかったように映りました。それは、残念だったと思います。

――アディショナルタイムになって、ゴールキーパー(GK)の松井謙弥選手が、ボールを抱えてなかなか起き上がろうとしなかった場面もあった。

清水 あれは本当に象徴的な場面です。その前の場面でも、いくつかありましたから。攻撃に行き切れていなかったりとか。わりと「時間を消費すればいい」という戦い方を選択している選手がいたように見られました。

――戦術的に気になった場面はありますか?

清水 水戸というチームに関していうと、結果が表しているように、いいサッカーをしていると素直に感じました。選手間の距離が近くて、ディフェンスが整備されている。逆サイドもしっかり絞って、ゴール中心の守備ができています。日本代表の試合を見ていると、この辺がすごく甘いので、水戸の守備は特に整備されていると感じました。年間42試合も戦っているので、組織的なものはすごく整備されてきます。日本代表だと、守備の部分が曖昧で、試合ごとに変わってしまう。そういう意味では、J2ならではの積み重ねを感じましたね。

――攻撃では、あと1点を奪えなくて、J1参入プレーオフに進出できなかった。

清水 攻撃に関してですが、ビルドアップは良いと思います。「4-4-2」で、左サイドバック(SB)が上がったら右SBを残して3人で守る。攻撃に行く際は、幅を取ってやるというのは見えているし、ボランチ2人の配球も良いです。ただ、アタッキング・サードに入った場面での崩しは、僕にはよく分からなかった。わりと選手のアイデアに任せているように見られました。

最後の局面で、中央、中央に寄ってしまう。最終局面で、幅をうまく使った攻撃、特にサイドを起点にした攻撃は、あまりなかったですね。遠目からシュートを打ったり、逆に細いところを無理に通したりとか、中央をゴリ押ししたやり方になってしまっていました。サイドでいえば、左SBの志知孝明選手からのクロスはあったんですが、全部同じような狙いで、ほぼ相手にコースを切られた。ちょっと違う狙いを考えても良かったかな、と思います。最後の崩しは、物足りなさがありましたね。

――「違う狙い」とは?

清水 志知選手はアーリークロス気味に、相手のGKとディフェンダー(DF)の間を狙っていたと思います。足元で低いボールに合わせるイメージだった。ただ、相手DFは下がって守備をしていたので、その狙いだとコースがない。もうひと崩し、欲しかったですね。誰かに斜めに走ってもらってペナルティエリアの角を突くか、志知選手自身が縦に走って、最後はマイナス方向に折り返しのボールを入れるか。あるいはペナルティエリア内に入れば、ドリブルで突っかけてもいいですね。相手DFはPKを与える危険を恐れますから。

そうしたことを何度かチャレンジすれば、ゴール前を固めた相手に対し、空いたスペースをうまく使えたと思います。その点、少し物足りなさを感じました。ペナルティエリアの角については、狙った選手もいたけど連係が合わず、ミスになる場面も多かったですね。

――1点足りなかった。1点差は、けっこう重いよね。相手を崩そうとしても、中央からフォワード(FW)がミドルシュートを打つとか、攻撃の手順が少なかったように思いました。だから、点数が入る要素が試合の中で見えてこなかった。

清水 ゲームは水戸が完全に支配していましたが、点が入る要素は見えてこなかったですね。

――気になった選手とかプレーとかはありましたか?

清水 この試合は、細川淳矢選手と瀧澤修平選手とのコンビが効いていたと思います。岡山は、ロングボールを蹴ってきたので、そこでセンターバック(CB)がしっかりと跳ね返せることが重要だった。ハーフタイムに岡山の有馬賢二監督が「ロングボールはあまり効果的じゃないから控えろ」と言っていましたが、そういう状況にしたのは、あのCB2人の働きが大きいと思います。イ ヨンジェといういいFWがいるところをしっかりと封鎖していましたしね。

以前、横浜F・マリノスなどで活躍された中澤佑二さんにインタビューしたことがあり、その時、次のような話を聞きました。

「今の若いヤツは足元はうまいんだけど、ヘディングが下手なヤツが増えてきている」

ヘディングで競り合ってボールに頭を当てる、そこで相手に競り勝ち、どこまでボールを飛ばせるかが問題なんだと。「競り合っている選手だけじゃなくて、近くでこぼれ球を拾おうとしている敵の頭も越えないと、その局面を変えたことにならないから」と話していました。10メートル飛ばしてこそ、ヘディングだと。

確かに、今の若い選手は、そこまでヘディングでボールを飛ばせず、競り合ってセカンドボールを相手に与えるような場面が多いかもしれません。でも、細川選手と瀧澤選手はヘディングをきっちりと遠くに飛ばしていました。そういうところも岡山のゲームにさせなかった要因だったと思います。サイドに流れるプレーはある程度やらせても、中央に起点は作らせませんでした。

――来季の水戸は新監督を迎えることになります。水戸が昇格するのに必要なものは、やっぱり得点力ということになるのかな。

清水 でも、水戸の場合は、いろんな選手が得点を奪っていますよね。

――いろんな選手が得点を奪っているけど、10得点以上の選手はいない。FWというポジションにいる選手は、1チームで2人は10点以上の得点力を持った選手がいないと厳しい。今回、あらためて感じました。

清水 いろいろな選手が点を取っているから良くないかと言えば、それだけでは判断することは難しい。現北海道コンサドーレ札幌監督のミシャ(ミハイロ ペトロヴィッチ)さんが指揮をしていた頃、それは浦和レッズが最も強かった時期の1つですが、この時もさまざまな選手が得点をしていました。就任して3、4年目くらいですが、ミシャさんが攻撃のパターンをいろいろ仕込んでいたことが理由でした。

ただ岡山戦の水戸に関しては、それとは違って、最後の崩しに形がないから、いろいろな選手が点を取っているという気がしました。そう見えてしまった。もしも形があるチームだったら、岡山戦のような状況になれば、1人の選手にボールが集まっていったと思います。それがないから、得点者がバラけているのかもしれない。そうならば、必ずしも得点者が多いことが、いいことではない。

――FWでいえば、ジュビロ磐田から期限付き移籍で加入した小川航基選手を見て、どう思いましたか?

清水 小川選手は、基本的にチームプレーヤーだとずっと思っています。東京オリンピックでポジションを争っている上田綺世選手(鹿島アントラーズ)に比べると、ゴールを直線的に突く駆け引きについては物足りない。サイドに膨らんだりとか、サイドに流れてキープしたり収めたりとかは、たぶん上田選手よりも小川選手の方がいい働きをすると思います。ただ、ゴールへの直線的な駆け引きで、ゴールの枠を外さず、小さな動きで相手を外してゴールに迫るといった部分では、小川選手はまだまだかなと思います。

――そうなんだよね。もっとガツガツゴールを狙うストライカータイプかと思ったら、実際、見てみたら、岡山戦もそうだけど、清水慎太郎選手へ横パスを出してシュートを打たせるなどしていた。清水くんの言う通り、もっと直線的な動きをするのかなと思っていました。清水選手の引き立て役を買って出ていたようなフシがあった。

清水 ありましたね。ただ、岡山戦のようなプレーがいつものプレーかどうか、僕はそこまで見ていないので分からないけど、スケールの大きさを持て余している印象は受けます。

――小川選手と同じ年代で、黒川淳史選手がいるのですが、試合を重ねるごとに、だんだんゴールへ直線的に向かう動きがなくなってしまった。相手に対策されていることも原因だと思いますが、それにしても、迫力がなくなってしまった。それは、実は、水戸は攻めのパターンが少ない、ということに関係するのかな。試合自体は、水戸がゲームを握っていたんだけどね。

清水 そこは感じました。アタッキング・サードに入った後ですね。白井永地選手が前に出てきてサイドに流れた時などは、崩せるチャンスを感じたのですが。そういうプレーが出てこないと、なかなかチャンスにはならない。

――水戸がJ1に上がるためには、何が必要だと思いますか?

清水 必要なのは、間違いなく得点力。守備はいい。岡山戦だけを見れば、セットプレーではどうなんだろうとか、そういった疑問はありますが、課題は得点力です。この長いリーグ戦の中で、ビルドアップからの攻撃を突き詰めていかないと、なかなか高い勝ち点は取れないのかなと思います。特に自動昇格を狙うのなら、そこですよね。

湘南ベルマーレの前監督のチョウ(曺貴裁)さんが指揮して、J2からJ1に上がった時、湘南はJ1でカウンターからチャンスを作る機会が増えました。「湘南スタイル」と騒がれた時期のことですね。J1のチームは足元に繋ぐチームが多いので、前線からのハイプレスがハマった。でもJ2で勝ち抜いた時の湘南は、カウンターが特に多かったわけではない。J2のチームは、ロングボールをよく蹴り、無理して足元に繋がないので。そうしたカウンターが難しい中で、相手を押し込んだ先に、どうやって得点を取るのか。昇格するには、ここを突き詰めないと、なかなか得点が積み重なっていかないと思います。最初にも言いましたが、サッカーの質の高さとか、守備が整理されているという点は、見えました。

川本梅花

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