川本梅花 フットボールタクティクス

【連載】ボールをキープすることがポゼッションの目的ではありません【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】

【1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識】

ボールをキープすることがポゼッションの目的ではありません

A監督は、H選手をはじめ選手全員に、口を酸っぱくして伝えていたことがありました。

「ボールをキープしながら、シンプルに前に進んで行こう。その際に、相手に簡単にボールを奪われてはいけない」

H選手は、A監督の話を聞きながら、ポゼッションの意味を考えます。H選手は、ポゼッションを「ずっとボールをキープすること」だと理解していました。しかし、H選手の理解は、ポゼッションの真の目的を見失っているものでした。H選手がそのことに気づいたは、オランダから招かれたYコーチの指摘があったからです。

Yコーチが、サイドライン近くに立って紅白戦を見ていました。Yコーチは突然に、大きな声で試合を止めます。H選手は、自分の前のスペースが空いているのに、横にいる味方の選手にパスを出した瞬間でした。

Yコーチは、H選手に詰め寄りながらこう叫んだのです。

「君はいったいどこを目指しているんだ!」

H選手は答えます。

「もちろん、ゴールです」

Yコーチは、すぐさま言葉を返します。

「じゃあ、ゴールに向かいなさい」

そう言って、敵陣のゴールを指差しながらこのように話しました。

「ポゼッションを志向していると言って、ボールをキープしていても、ゴールに辿りつけなかったら、まったく意味がないことなんだよ」

Yコーチの指摘の後に、H選手は、ボールを持ったら前を向いてパスコースを探しながらプレーするようになりました。

ポゼッションの目的は、ゴールを奪うことにあります。ゴールを奪うというサッカーの本来の目的を忘れて、ポゼッションをしていたとすれば、たとえ1 本のパスを出したとしても、そのパスはまったく意味のないパスになってしまうのです。ポゼッションを志向していても、ゴールキーパーからの1本のパスでゴールを奪えたら「それは価値があるプレー」だと考えます。つまり、ボールを回して回してというのをポゼッションとは言いません。無駄なボール回しをけっして行わない。H選手の横パスは、Yコーチから見たら「無駄なボール回し」に映ったのです。だから、練習試合であっても、プレーを止めて注意したのでした。

ポゼッションと言った場合、ボールをキープしながら前に進むということが重要になってきます。そのために、あえてマークされている味方の選手にボールを出して、相手選手を引き寄せておいて、その味方の選手を経由することでフリーの味方の選手を作ることをします。そして、フリーになった選手にボールが渡り、その選手は前を向いてゴールを狙っていけるのです。2手3手先まで読んだ意図のあるパス交換が行われなければ、ポゼッションサッカーとは言えないのです。

A監督とH選手の登場は、以下から始まっています。

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川本梅花

 

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