川本梅花 フットボールタクティクス

【コラム】#ヨコハマ・フットボール映画祭2020 『 #ヴァトレニ -クロアチアの炎- 』を見る前に【無料記事】未来は誰のためにある? @yffforg

映画『ヴァトレニ -クロアチアの炎-』を見る前に −未来は誰のためにある?−

ヨコハマ・フットボール映画祭2020が、1月25日と26日に開催されます。今年で10回目となる映画祭の中で、上映作品のひとつの『ヴァトレニ -クロアチアの炎-』について少し話したいと思います。なお、映画祭の内容は、以下のWeb「サッカーキング」でも詳しく紹介されています。

「ヨコハマ・フットボール映画祭2020」が1月25日、26日開催…トークショーなどのイベントも充実

映画

『ヴァトレニ -クロアチアの炎-』

原題:Vatreni
監督:エドソン・ラミレス
出演:ブラジェヴィッチ、ビリッチ、シュティマッツ、ヤルニ、プロシネチュキ
87分/2018年/メキシコ、クロアチア

プロット

サッカーは人々を結びつけるが、時に社会を分断することもある。ユーゴスラビア連邦からの離脱の引き金となったマクシミールスタジアムでの暴動、泥沼の独立戦争、そして初のワールドカップでの国民の期待と歓喜。激動の日々を過ごしたクロアチア代表の監督、選手たちが重い口を開いた。

 

未来は誰のためにある?

まず、次のコラムを読んでもらいたいのです。ドキュメンタリー『引き裂かれたイレブン~オシムの涙~』は、旧ユーゴスラビア代表の最後の監督となったイビチャ オシムを中心に、フットボールが政治的プロパガンダとして民族紛争に関わってしまう姿を描いています。

【無料記事】どんな状況でも、この世にはフットボールがある【コラム】ドキュメンタリー『引き裂かれたイレブン~オシムの涙~』を見て

 

ドキュメンタリー『ヴァトレニ -クロアチアの炎-』のタイトルにあるヴァトレニ(Vatreni)は、サッカークロアチア代表の愛称で「炎」の意味になります。この作品の時間的な流れは、以下のように場面を3つに分節できます。

一次的視点

過去

過去

現在

内戦状態

1998年フランスW杯

クロアチア独立後の今

物語は、最初に過去の「内戦状態」を描いて、次に過去の「1998年フランスW杯」にスポットを当てて、最後に「クロアチア独立後の今」という現在を映し出します。選手を含めたサッカー関係者の言葉で綴られていきます。フラットな状態での視点は、場面を3つに分節できるのです。これは、一次的な視点と言えます。現実の時間軸の進行に従った視点になります。そして、私たちは、別の視点でこの作品を見ることができます。それが以下の視点になります。

二次的視点(副次的視点)

過去

現在

未来

内戦状態

1998年フランスW杯

クロアチア独立後の今

私たちは、まず「内戦状態」が過去の出来事だと知っています。もちろん「1998年フランスW 杯」も過去の出来事です。当然「クロアチア独立後の今」は現在となります。しかし、映像を見ていくと、二次的な視点で作品が見られるのです。それは、作品の中で「1998年フランスW 杯」の出場が、クロアチアにとって物凄い価値がある出来事として描かれているからです。作品の構成上、物語のピークに「1998年フランスW 杯」の場面が設定されています。それによって、私たちは、過去の出来事と知っているのに、「昨日今日」の現在であるかのような錯覚さえもたらされるのです。

また、物語のポイントとして、サッカークロアチア代表の選手たちは、「内戦状態」であった自国クロアチアに「いない」ことです。彼らは、イタリアやスペインやイングランドのクラブチームに在籍しています。自分たちの幼なじみや知人たちが命を落としていく中、他国でサッカーをやっているのです。そのことへの「複雑な想い」や「矛盾した想い」を、彼らは抱えるのです。映像の中で、そうした選手たちの内なる言葉が綴られていきます。

内戦が終わった後に、「1998年フランスW杯」が開催されて、クロアチアがW杯初出場を遂げます。動的な映像のつなぎ方と静的な選手のコメントのコントラストによってインパクトを与えて、この作品は「出来事の現在性」を作り出しています。「動的映像(内戦や試合)」と「静的映像(インタビュー)」のコントラストが、「1998年フランスW杯」での時間軸を「現在」と認識させてしまう。そんな力が映像にはあるのです。

未来は誰のためにあるのか? その答えは簡単です。どんなに政治的な思想が違っても、共通される普遍認識は、「次の世代のためにある」ということです。選手たちは、作品の中で語ります。すべては、「未来のために過去と現在がある」のだと。

1998年のフランスW杯は、サッカー日本代表も初出場を成し遂げました。そして、クロアチアと同じクループに入った日本は、第2戦で戦うことになりました。この作品を見れば、あの当時の「日本代表はこのチームとよく戦った」と思うことでしょう。それだけ、相手チームのクロアチアは、私たちと背負うものが違っていたのですから。

川本梅花

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