川本梅花 フットボールタクティクス

サイドアタックの鹿島とディフェンスラインの裏を狙う水戸(後編)【無料記事】#いばらきサッカーフェスティバル #水戸ホーリーホック 0-1 #鹿島アントラーズ

サイドアタックの鹿島とディフェンスラインの裏を狙う水戸(後編)

2月1日に開催されたADASTRIA いばらきサッカーフェスティバル2020、水戸ホーリーホック対鹿島アントラーズを観戦しました。

以下のコラムは、試合を分析した前編です。

サイドアタックの鹿島とディフェンスラインの裏を狙う水戸(前編)【会員限定】#いばらきサッカーフェスティバル #水戸ホーリーホック 0-1 #鹿島アントラーズ

次に、両チームのシステムを組み合わせた図です。

試合後の監督会見における、秋葉忠宏監督への質疑応答を記します。監督が答えてくれた内容に筆者思うところを書いています。
http://www.mito-hollyhock.net/games/17423/

監督会見からうかがえる今季の水戸

監督会見は非常に貴重な内容を得られます。筆者は、質問が多い記者だと認識されていることでしょう。主に試合で気になった戦術的な部分など、2~3つは質問します。一方で、選手個人評はしません。「あの選手のプレーは良かったと思いますが、監督はどう感じていますか」といった質問はせず、「あの選手をなぜ交代したのか?」という風に質問します。

筆者コメント1
この試合で一番気になったのは、後半からビルドアップが円滑になったので、ボールを保持する時間を持てるようになったことです。前半は鹿島がパスコースを消すポジショニングで、水戸は相手の網に引っ掛かってすぐにボールを奪われました。

会見の冒頭で監督は「臆病になっていた」と語りましたが、これは「文字通り」の意味なのでしょう。鹿島がボールを奪うためにガンガンと激しく寄せてきた映像を見せたことから、「相手に臆してしまった」。言葉を換えれば、「バカ正直にプレーした」となります。見せられた映像から相手が「こう来るだろう」とイメージを持った。しかし、相手は意に反して「そんなに激しく来なかった」。想定外の出来事に、選手たちは戸惑ったのです。

以下の監督の言葉にもある「自立して」という「状況の変化を自分の頭で考えるプレー」が前半に求められていたのでしょう。後半になって、得点チャンスも何度か演出しました。それは、ボールを自分たちが持てるようになったからです。その1つの要因が、ビルドアップのやり方の変化だと筆者は考えたのです。

筆者 後半になってビルドアップが円滑になったのですが、センターバックの細川(淳矢)とボニー(ンドカ ボニフェイス)が両サイドに開いてセンターハーフの安東(輝)が、彼ら2人の間に降りてくるやり方は、ハーフタイムでの監督の指示だったのですか?

秋葉監督 もともといろんな準備はしていますので、いつも言っているのですが、自立して相手を見てサッカーをしてくれと言っています。基本的には、システムを動かさずにできるのであれば、やってくれと。できないのであれば、ローテーションをするのか、可変(システム)をやるのか、しっかりと自分たちの中で判断してくれと言っています。ある程度やり方は提示していますので、試合の中で選手たちがしっかりと変化をさせてくれたのは、うれしかったです。

筆者コメント2
ハーフタイムでビルドアップのやり方を特別に指示したわけではなく、もともとキャンプで何通りかのやり方を落とし込んでいて、どれを選んでやるのかは選手の「選択」だと述べます。何人かの選手に話を聞いても、長谷部茂利前監督ほど細かくはないが、いくつかのやり方を提示しているのは確かなようです。「自立性」を選手に求めることで、それぞれの状況に合ったプレー選択ができるようにならないと、昨季終盤のようにチームが失速した時に対応できないと考えているのでしょう。

筆者 攻撃の手順として「裏」を意識して狙っていたと思うのですが、それは監督の意図するところでチームに落とし込んだのですか?

秋葉監督 もちろんそうです。われわれはゴールから逆算したことを選手に伝えていますので、まずはゴール。一番いいのはシュート。それがないんだったら「裏」だったり、ゴールへ向かうドリブルだったり。選択肢とかプライオリティは間違いないようにしようねと、常に選手に話しています。そう言った意味では、後半にしっかりとしたプライオリティを持ってくれていて、それが正しい選択になってくれていて、受け手だけでもダメですし、出し手だけでもダメですから、その呼吸が後半合ってきたなと、単純に思います。

筆者コメント3
攻撃にも守備にも原理原則があります。攻撃の場合、「裏」を攻略して、「真ん中」を攻略して、「サイド」から攻略するという考えです。監督は、選択肢とプライオリティを考えて攻撃するように選手に促しています。実際、最終ラインの「裏」を狙って攻撃を繰り返していました。センターバックから鹿島の最終ラインを越えていくロングボールやセンターハーフの選手からのミドルパスが見られました。前半戦は、それほど効果的な攻撃は見られませんでした。

しかし、後半になって前半の貯金が効いてきて、鹿島の最終ラインが高く保てなくなります。さらに、監督も指摘していますが、交代で投入された選手がドリブルで何度も突っかけていったことも、ラインを上げられなくなった要因になっています。

今季加入したメンバーを見れば、1人の選手が15点以上を奪えるFWの存在はうかがえません。もし結果的に、そうした選手が現れたならば、うれしい誤算ですが、現実的には難しい。監督の発言の中に「受け手だけでもダメですし、出し手だけでもダメですから」とは、言い方を換えれば、1人で打開できるストライカーが不在だということでしょう。お互いに協力して局面を打開して得点を奪う。これが今季の水戸の生命線になるのです。

秋葉監督がうたう「自立性」とは、「選手任せ」という意味ではありません。なぜなら、何通りかのやり方を実際に選手に提示してトレーニングで落とし込んでいるからです。やるのは選手。監督はある程度の方向性を示すことしかできない。昨季終盤の轍(てつ)を踏まないように、「自立性」は今の水戸には大切なことなのかもしれません。

川本梅花

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