川本梅花 フットボールタクティクス

【ノンフィクション】どんなに苦しいことがあっても僕らにはサッカーがある【無料記事】川本梅花アーカイブ #藤本主税 #久永辰徳 永遠のライバルにして無二の親友

ぶつかりあいながらも引かれ合う存在

福岡では、藤本と久永は同じポジションを争うライバル関係にあった。しかし、不思議と気が置けない間柄になっていった2人は、「お前、もっとこう動いた方がいいぞ」とプレーにおいても、トレーニングにおいても、なんでも話し合う仲になっていった。

「僕が車を運転して練習場も一緒に行ったんですよ。そういえば練習中に喧嘩して帰りの車の中でひと言も話さない時がありましたね。当時は僕も主税も若かったので、たとえ建設的な意見であっても自分の我を通したいという方が優っていたんです」

2人は寮から出ることになって、マンションを探すことになる。彼らは同じマンションで隣の部屋を選ぶ。それでも、サッカーに対しては意見をぶつけ合っていた。ある日の練習中に大声で叫び合ったこともある。

藤本が久永の動きに注文を付ける。

「おい、こう動けや」

「無理やろそれは」

久永は言い返す。

「無理ってなんや」

藤本は「無理やろ」という言葉にかみつく。

「うるせえよ」

久永が投げやりに言う。

「うるせえとはなんだよ」

藤本は怒り出した。

「主税は、投げやりになられることが嫌だったみたいです。自分が納得できればやるんですけど、納得できないことには、首をタテに触らないタイプです。それは、いまでも変わりませんよね。納得できなければ、いつまでも文句を言っているタイプ。まあ、いまは人として引き出しが増えたと思いますけど。でも喧嘩した次の日には、お互いが何もなかったかのように普通でいました。僕らは単純なので(笑)。お互いにどこかで引き合っている。それは、サッカーがあるからです。サッカーができれば僕らの機嫌はすぐに直る。僕らは、サッカーによって結ばれている関係なんですよ」

デビュー戦を先に迎えたのは久永の方だった。対戦相手は、当時スター軍団と言われたヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)。18歳の久永に、後半36分になって出番が回ってくる。「気持ちが高ぶって周りが見えない状態でしたが、とにかくドリブルで仕掛けようとしました。42分だったと思いですが、中村忠さんがペナルティエリア内で僕を倒してPKを取ったんです。それで追いついて。試合中、ラモス瑠偉さんが真剣に僕を削りにきた時『ああ、俺はプロになったんだ』と実感しました」

試合後に、藤本が久永に歩み寄ってくる。

「良かったな、試合に出られて。先にデビューしやがって」

そう声を掛けた。

プロ1年目は同じポジションだったので、久永と藤本は一緒にピッチに立つことはなかった。2年目になって、久永がポジションを代えて試合に出ていたので、2人は同時にプレーする機会に恵まれる。試合後に、どちらからともなく、一緒にピッチに立てたことに「うれしいよな」という言葉が口をついて出てくる。

前のページ次のページ

1 2 3 4 5 6 7 8
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ