川本梅花 フットボールタクティクス

【ノンフィクション】どんなに苦しいことがあっても僕らにはサッカーがある【無料記事】川本梅花アーカイブ #藤本主税 #久永辰徳 永遠のライバルにして無二の親友

どんな苦しいことがあっても 僕らにはサッカーがある

「お前より先に引退するけど頑張れよ」

そう語った久永に、藤本はなんと言葉を掛けたらいいのか困っていた。

福岡に在籍していた久永は、30歳の春に半月板を手術する。それは、2009シーズンに間に合うようにと考えてのことだった。7月の中旬に手術した同じ箇所を痛める。軟骨がはがれた。7月になると骨と骨がぶつかりはげしい痛みで苦しむ。

「お前には話していたけど、膝の手術をしてから思うように動けなくて……。これ以上無理すると本当に動けなくなってしまうから。トレーニングから100パーセント出せなければダメだと思うんだ。練習から全力でプレーできない選手は、試合では使えない。膝の具合を見ながら、膝を腫れさせないように、1日トレーニングをやっては2日休んで再開してきた。全国社会人大会に出るために練習していたら、また膝が腫れて、今度は1日トレーニングをやって5日休んでとなった。試合では50パーセントも力を出せなかったんだよ。『このレベルだったならできるだろう』と思っていたけど、全く話にならなかった。だから、引退して指導者の道に進むよ」

久永は、2年前に藤本が語った言葉を引き合いに話し出す。

「最初に『僕らの人生、サッカーしかないんや』と言って、その後で『僕らにはサッカーしかない、じゃないんや』。『サッカーがあるんや』って言い直したよな。考えたんだよ、あれからずっと。指導者として『サッカーしかない』という選手を育てるのか。それとも『サッカーがある』という選手を育てるのか。どうせなら、どんな苦しいことがあっても『サッカーがある』と言い切って前向きに考えられる選手を育てたいよな。お前みたいにさ」

久永の話を聞いた藤本は、涙を止めることができなかった。

川本梅花

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