川本梅花 フットボールタクティクス

ブンデスリーガ再開【試合分析】5レーンを基準にしたドルトムントの得点【無料記事】ボルシア・ドルトムント4-0シャルケ04

5レーンを基準にしたドルトムントの得点

19/20 ブンデスリーガ 第26節
Borussia Dortmund 4-0 FC Schalke 04(ブンデスリーガ公式)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、中断されていたドイツ・ブンデスリーガが、5月16日に再開した。リーグ中断が発表されたのは3月13日。66日ぶりの試合となった。フランスやオランダなどが、リーグ再開を諦めて今季の試合の打ち切りを発表する中、厳しい規制に準じてブンデスリーガは第26節が無観客で行われた。

この中からボルシア・ドルトムント対シャルケ04を取り上げる。首位のバイエルン・ミュンヘンを勝点差4で追うドルトムントに焦点を当て、ルシアン ファブレ監督のゲームプランにも言及する。ファブレ監督については、以下のコラムで言及している。

【コラム】ブンデスリーガ再開:ドルトムント率いるルシアン ファブレ監督【会員限定】ジュネーヴ時代の思い出


この試合は、ドルトムントもシャルケ04も同じ「3-4-3」のシステムでの戦いとなり、ミラーゲームとなった。

5レーンを基準にしたドルトムントの得点

両チームのシステムを組み合わせると、ピッチ上ではそれぞれの選手がきれいにマッチアップした状態となる。この状態を回避しないと得点チャンスは作れない。そのため多くの指導者は、ミスマッチを起こすように仕掛ける。具体的には、相手のマークからズレた“浮いた”選手を作り出す。

そのためには、ハーフスペースをいかに利用するかが重要となる。ハーフスペースとは、ウイング(WG)の横のスペースを指す。このスペースに人を移動させ、ボールを出すことで、ゴールを奪う確率を高められる。

「5レーン理論」を簡単に説明しよう。5レーン理論を具体化したのは、現在マンチェスター・シティで指揮を執るペップ グアルディオラ監督だと言われている。彼がバイエルン・ミュンヘンで指揮を執っていた時、ピッチに縦の4本のラインを引いて5つのレーンを作った。ペップは抽象化されている脳内の映像を具現化することで、プレースタイルに“正確さ”をもたらそうとしたのだ。ここでの正確さとは、正しいポジショニングである。

例えば、フリーのスペースを作り出したい場合、パス交換により相手を動かすことが求められる。それでは最もボールを動かす(パス交換)できるポジショニングとは何か?その答えは「トライアングル」で、フィールドに三角形を描けば、パス交換は無限に続けられる。それでは、トライアングルを作るためには、どうすればよいか。そのための条件は、以下の3つとなる。

  • 1列前の選手が同じレーンに並ぶことを禁止する。
  • 2列前の選手は同じレーンにいなければならない。
  • 1列前の選手は隣のレーンに位置することが望ましい。

図で表すと、右側の(1)が5レーン理論に基づく正しいトライアングルとなり、左側(2)は5レーン理論にそぐわないトライアングルとなる。これまで選手が経験で理解していた感覚を、具現化して整理したものが5レーン理論なのだ。

さて“正しい”トライアングルを作り、パス交換する目的は、数的優位を作ることにある。パス交換により相手を動かし、ハーフスペースを利用する。ファブレ監督が率いるドルトムントはシャルケ戦でも、ハーフスペースから得点を演出している。特に、先制点の場面は象徴的だ。

「3-4-3」のミラーゲームからズレるポジションを作るため、ドルトムントは両WG、ユリアン ブランドとトルガン アザールに、頻繁なポジションチェンジをさせる。この2人がクサビ役になり、ボールを動かす起点になる。

ノルウェー代表の19歳、アーリング ブラウト ハーランドは、相手GKにボールが戻されると激しくプレス。攻撃時には、相手センターハーフを釣り出すたに、自陣のセンターサークルまで意図的に下がる。そして後方のビルドアップからボールがブランドに入ると、ハーランドは一気にゴール前へと走り込む。

ブランドがボールをハーフスペースに流し込むと、中央のレーンから斜めにアザールが入ってくる。そしてダイレクトで中央にグラウンダーのパス。そこには走り込んできたハーランドが待ち構えている。こうして先制点を挙げたドルトムントは、その後、一方的とも言える強さでシャルケの戦闘能力を削ぎ落とした。

フィールドに5レーンを引いて解説する。

ブランドとアザールとアクラフ ハキミがトライアングルになっている。アザールとハーランドとブランドも、トライアングルになる。ブランドにパスが入る前、アザールはハーフスペースに向かって動き出す。パスを出したブランドは少し後方にポジショニングする。大外のレーンにいたハキミは、斜め前に走り出し、ボールがこぼれた時に備えて、ハーランドとアザールの間に入っていく。ハーフスペースを利用するためのパス交換に関わった選手も、フリーでいた選手も、ゴールを奪うために正しいポジショニングを取っている。その正しさを担保しているのが、5レーン理論ということになる。

ドルトムントの試合を観戦する時は、ピッチに5つのレーンが引かれているイメージをすると良い。そうすれば選手たちに無駄な動きがないことが分かるはずだ。もちろん、選手たちのクオリティーあってのことだが、現監督ファブレによる理論構築も、チームが勢いを取り戻した一因だと考えられる。

川本梅花

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