川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】サッカーライター清水英斗が語る川崎F対鹿島(前編)【無料記事】谷口彰悟のゴールはオフサイドか−VARの隠された真実−

サッカーライター清水英斗が語る川崎F対鹿島(前編)


分析対象試合:2020明治安田生命J1リーグ第2節 川崎フロンターレ 2-1 鹿島アントラーズ
7月4日土曜日 19:03キックオフ 等々力陸上競技場


両チームのシステムを組み合わせた図。川崎Fは「4-3-3」の中盤が逆三角形、鹿島は「4-4-2」の中盤がボックス型となっている。

谷口彰悟のゴールはオフサイドか―VARの隠された真実―

――まず、清水くんに聞きたかったのは、谷口(彰悟)の先制点は、オフサイドかどうかなんだよね。あのジャッジはミスジャッジと呼べるのではないのか、ということなんだけど。

清水英斗 おそらく、オフサイドでしょうね。

――VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)制度に関して、国際サッカー評議会(IFAB)のテクニカルダイレクターを務めるデービッド エラリーさんにインタビュー(注)していたよね。清水くんは導入に懐疑的な立場だと思うんだけど、もし、VARが導入されていたら、あの川崎Fの先制点は審査の対象になっていたよね。そうすれば、あのジャッジは取り消される可能性が高いよね。

(注)VAR導入でJリーグはどう変わる?原案者が語る「将来副審が消えても、変わらぬ本質」
清水英斗 僕は、半分半分くらいだと思います。

――あっ、そうか。VAR導入に関して、いまも立場は変わらないの?

清水英斗 はい。VAR導入に関しては嫌いですよ。世の中で導入に際して、これだけお金が動いていて、サッカーのイメージを大切にしようとFIFAが動いている状況の中で、VARを導入しないという選択肢はすでになくなっていて、僕は状況が変わらないだろうと諦めています。

――なんで、嫌いなの?

清水英斗 サッカーの面白さを損なうし、そもそも微妙なところを言い出したら、サッカーが成立しなくなってしまう。判定を決定する側の主観も当然入ってくる。数センチ単位で判定が下されるような細かいところでは、「もう微妙だったら恨みっこなし。中立に判断してください」というのがサッカーの精神だと思う。審判の判断に委ねる。そういう風にしか成立しない競技だと思っているので、この制度が入ってくると「サッカーが壊れる」と考えています。

――「サッカーが壊れる」か……。この試合は、谷口の先制点のほかにも、川崎Fのレアンドロ ダミアンがペナルティエリアの中で足を踏まれて倒されたり、試合終了間際にペナルティエリア内で鹿島の染野唯月が倒されてスルーされたり。何度か疑問の残る判定があったけど、VARが導入されたなら、こうした曖昧で判断しにくい場面には有効となるのではと思うんだけど。

清水英斗 最初の谷口のゴールが「オフサイドかどうか」について話すと、僕が「半分半分」と言った理由なんですが、これがオフサイドかどうかに関しては、「中継の場面」を見ての言説だと思うんです。中継映像では、オフサイドのポイントが端目に映っていると思うんです。あれは、ペナルティエリアと並行の視線で見ているのと、中継映像で撮られた角度で見ているのでは、全く違う角度からの視線になりますから。カメラから見た映像と実際のラインから見た映像はだいぶ違うんです。よく、人の顔を写すのにカメラを横から撮るのと、正面から撮るのでは、人の顔の大きさなりで印象が違って見えたりしますよね。あの場合、オフサイドラインは、内田(篤人)の右足なんですけど、そこから正しく引くオフサイドラインって、けっこう斜めになるんです。決してペナルティエリアと並行ではないんです。それで見ると、谷口のポジション、つまり「スパイク」で見れば「オンサイド」です。でも、出てるのは上半身だけなんです。実は、相当に微妙なんです。厳密に言えば「オフサイド」だと思いますが、出ているのは「上半身」だけです。

ここで重要なのは、JリーグのVARはプレミアリーグのように3Dライン(注)を引けないんです。これは、髪の毛1本出ているのかどうかも分かるすごい性能なんです。僕はVAR理解のために講習を受けたんですが、J1リーグでの2Dラインは、フィールド上の平面しかラインを引けないんです。3Dラインのように立体的に見られるなら、細かい微妙な判断も可能なのでしょうが、2Dラインだと限界がある。講習の時に、「空間的な判断は難しい」と説明されたので、3DラインのVARだとあのシーンは判定できるんですが、日本でやろうとしている2DラインのVARだと厳密に言えば、判定することができないんです。だから「半分半分」だと言ったんです。

(注)「3Dライン」は、立体的に選手の位置を見ることができる。フィールドに引いた直線から、上方へ点線を引いて上半身のオフサイドも細かい部分まで確認することが可能だ。一方、J1で採用される「2Dライン」は限られたカメラでのみ確認でき、フィールド上にしか直線を引くことができない。つまり、細部まで正確に確認はできない。

――ああ、なるほどね。

清水英斗 それくらい微妙なシーンだと、みんなが分かって発言しているのならいいですが、そうしたことも理解してもらって議論してほしいんです。

――なるほど。では、テーマの1つである「鹿島のサッカーは大丈夫なのか?」について話していきましょう。
(後編へ)

川本梅花

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