川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】組織的な守備の千葉とショートパスにこだわる水戸【無料記事】ラインメール青森FCアカデミーコーチ奥山泰裕の分析

【警告の代弁】ラインメール青森アカデミーコーチ奥山泰裕が語る水戸対千葉

分析対象試合:2020明治安田生命J2リーグ第3節 水戸ホーリーホック 0-3 ジェフユナイテッド千葉

イントロダクション

――奥山くんにとっては千葉は古巣(2008-2009在籍)になります。

奥山泰裕 米倉恒貴選手は寮で一緒でした。ガンバ大阪から戻ってきたので、相当の覚悟を持っての復帰なんだなと思いますし、「千葉愛」があることの証明でもありますよね。この試合を見ても、まだ第一線で活躍できるスキルがあるので、頑張ってほしいと思っています。

――水戸は、GMの西村卓朗がVONDS市原FCの監督をしていた時に、トライアウトで奥山くんを誘ったんだけど、ラインメール青森(2015-2019在籍)を選択した経緯があるね。それにガイナーレ鳥取時代(2009-2014在籍)、水戸FW中山仁斗と一緒だったんだよね。

奥山泰裕 中山選手がプロ1年目として鳥取に加入(2014年)しました。千葉戦ではキャプテンマークを巻いていましたが、リーダーとして資質は、当時からありました。身体が強いのに足下もうまい選手だという印象があります。この試合はスタメンだったので期待していました。

水戸ホーリーホックが喫した3失点

――まず、水戸の失点場面から振り返りましょう。

奥山泰裕 1失点目は、外山凌選手がボールを奪われてからのカウンターになりました。ボールを奪われた外山選手は、起き上がって追いかけたのですが間に合わなかった。不運にもシュートが細川淳矢選手の足に当たってコースが変わってしまった。ただ、水戸はディフェンスラインを高くしていたので、その場合のリスクマネジメントを考える必要があります。ディフェンスラインを高めに設定した場合、攻撃の途中でボールを奪われると、相手はショートカウンターを狙ってきます。それに対して、どうやって守っていくのか。その課題が見えたシーンでした。

――2失点目は、田口泰士のFKからでした。

奥山泰裕 田口選手のうまさが光った場面でした。キッカーには、田口選手と堀米勇輝選手が準備しています。この時点でどちらがボールを蹴るのか分からない。その瞬間に田口選手は、あまり助走しないでボールを蹴ったので、水戸の壁になっていた選手は、ジャンプするタイミングを遅らせてしまった。長い助走からのシュートならば、ジャンプのタイミングは合わせやすいですが、あまり助走しないで蹴られると「ズレ」が出てきます。田口選手か堀米選手かどちらがキッカーなのか読めなかったことと、少しの助走でのキックだったから、水戸の選手の頭上をギリギリ越えてゴールになったのだと思います。

――安東輝の、あのプレーはどうなんだろう。

奥山泰裕 選択としては、難しいところですね。相手にプレスに行かないで、相手の前で止まっていてシュートを決められたならば、「なんでもっと寄せないんだ」と言われる。逆に、ゴールの枠を外れたシュートを打たれたのに、結果として「ぶつかったら、もったいないぞ」とも言われる。ちょっと、ピッチがスリッピーだったことも影響していた。本当なら、相手の手前でブレーキが掛かって、ぶつからずに躱(かわ)せたかもしれない。

――3失点目は、水戸も得点を取りに行っていたし、まあ、仕方がない失点かな。

奥山泰裕 めちゃくちゃバランスが悪かったですからね。ゴールキックを弾いて、ワンタッチで流して1対1になっていたので、カバーはどこにいたんだろうと。でも、点数を取りにすごく前がかりになっていたシーンだったので、おっしゃる通り、仕方がない。逆に、川又堅碁選手が切り返しを2回くらい入れて、あれはうまかったと思います。

組織的な守備をする千葉とショートパスにこだわった水戸

――両チームとも「4-4-2」の同じシステムでの戦いになった。千葉は、ボールを奪われたらすぐに帰陣して2ブロックを作って、真ん中を締めてくる。要するに、ディフェンスライン4人とMF4人の間を狭くして、そこにボールを入れず楽してきた。千葉ってこんな組織的なチームだったのか、と。監督が代わってだいぶチームが変化した印象を持ったんだけど。

奥山泰裕 そうですね、千葉はめちゃくちゃ組織的に守っていました。前半から見ていて感じたのは、「中に入れさせないぞ」として、ブロックを中盤でしっかり作って、外回しに外回しにボールを追い出していた。水戸は、ボールを回しているものの、外に外になっていたから横パスが多くなった。トップにボールを当てて2列目が絡んで中央から崩していく形は出せなかった。それを狙っているのですが……。千葉は、守っているだけではなくて、いい形でボールを奪った時は、米倉選手と堀米選手は前半から前線に上がっていくシーンがありましたけど、カウンターが意識づけされて、かなり鋭い攻撃でした。

――ボールを奪った瞬間に、ほかの選手はすぐに走り出している。

奥山泰裕 自分たちがうまくセットを早くできた時は、2トップで前から連動して追っていったした場面も見られました。全部が全部引いて、相手を引き込んでボールを奪ってロングカウンターの戦術だけではない。自分たちが早くセットできたら、相手のセンターバック(CB)にプレッシャー掛けて「いつでも行くぞ」という姿勢が見えました。守備はかなり整備されていると思いました。

――水戸はどうだった?

奥山泰裕 FWにボールが入りませんでしたね。そこは気になりました。松崎快選手にはボールが入ってドリブルで攻撃参加していましたけど、中山選手や奥田晃也選手にはボールが入らず、外にいる松崎選手にしかボールが行かない。中山選手は、おそらく「降りてくるな」と指示をされていたと思います。相手ディフェンスラインと駆け引きをするように言われていたようなプレースタイルでした。たぶん、中山選手が降りてボールをもらいにきたら、ゴール前に選手がいなくなるので、降りないようにしていた。中山選手は、けっこう我慢してディフェンスラインで勝負していたように見えました。奥田選手は、中山選手と縦関係を作ったりしていましたが、全くボールに関われていなかった。2人のFWに「クサビ」や「縦パス」のボールが入らなかったことが、水戸の攻撃の怖さが出なかった要因です。千葉からしたら、ずっと外回しにさせてクロスの対応だけやっていればいい、という戦い方です。「中にボールを入れろ」と言うのは簡単ですが、実際にプレーしている方は、「それは分かっているけど、中を閉じられいるし差し込ませるのは難しな」と思ってやっていたのだと想像します。

――水戸は点数を入れようとして、まず、選手を交代させたね。

奥山泰裕 その点で思ったのは、外山選手も安東選手も交代させたのですが、どちらの選手も失点に絡んでいました。交代枠が5人になったことで、ミスをした選手や調子が悪い選手を思い切って交代できるようになった。交代して入ってきた選手の中では、山口一真選手の積極性というか、「ギラギラ」した感じが良かったですね。サイドチェンジをやってみたり、ちょっと遠目からボールをゴール前に放り込んでみたりとかのアクセントは良かった。ただ、ショートパスの繰り返しではなく、「自分がどうにかしてやろう」という姿が見える選手でした。

――特別に、システムを変更したり戦い方を変えたりはしなかったね。監督の試合後の会見で「フットボールをしなかった」と言っていたようだけど。

奥山泰裕 DAZNの中継インタビューでも「ホームで積極的にやらないといけなかったけど、恐れて消極的な何もない試合をしてしまった」と言っていましたね。

――監督の受け答えについての感想は?

奥山泰裕 千葉の組織的な守備を崩すためのアイデアが出てこなかったから、「どうしよう、どうしよう」という感じで、安全策の近い距離の横パスや斜めのパスが前半から続いていた。そんな時に選手が「これでじゃダメだな」と選手が冒険するような大胆なプレーをしていくのか。あるいは、ベンチから何らかの手を打つのか。そのどちらかが必要です。前半から選手のアイデアが出てこなかったから、監督からしたら「恐れている」という印象になった。そうした中で、山口選手は1人だけ違って見えました。

――試合が始まってから監督がやれる仕事は少ない。システムの変更か選手交代の策。ハーフタイムでの指示になるよね。この試合で具体的な指示は見られない。そこはどう思う?

奥山泰裕 普段の練習でやっていることを出して通用しないのなら分かるが、練習でやってきたことを選手が恐れてチャレンジしていないなら、フォーメーションを変えてまで何かをやるという風にならなかったのかと思います。「お前ら、なんでやらないんだ。試してないのに」と。例えば、山田康太選手の前半パス成功率は、100パーセントでした。

――ということは……。

奥山泰裕 チャレンジのパスを全く出していない、ということになりますよね。

――奥山くんなら、相手のブロックをどうやって崩していくの?

奥山泰裕 僕だったら、ショートパスばかり続いていたので、サイドチェンジを含めてロングパスを出せる選手を使いますね。中のブロックが厳しいならば、もっと大胆にサイドチェンジを振って、相手にスライドをたくさんさせて消耗させた結果、スライドが遅れてきたら中に行けますから。ボールサイドの選手が早くプレスに行っても、中と逆サイドの選手が付いてこられないと中は空きます。その時に、サイドチェンジに付いてこられなくなったら縦への攻撃もできます。もう1つは、外にはボールが回されていたので、外から中へのボールにこだわらずに、徹底的に外からクロスを何本も上げてみるとか。この2つくらいは、やっていいと思いました。雨でピッチはスリッピーだったので、クロスに対して叩きつけたヘディングならばGKもケアしにくくなりますからね。どうしても、1点欲しいのであれな、そうしたやり方もあった。

――2点リードされたけども、1点入れば1-2。ゲームがオープンになる可能性があるし、分からなくなるからね。

奥山泰裕 選手たちは、ショートパスで打開しようして、ショートパスにこだわったようにも見えました。きれいにやっている印象は受けました。後半になって、選手交代があってから千葉のゴールを脅かすシーンがあったので、前半からもっとそうした姿勢を出せたら、結果は違ったと思います。

水戸は、この試合を見た相手チームは「こうしたきれいな試合運びをしたいんだな」と思うわけですよ。そうすると、千葉がやったようにブロックをきちんと敷いて固めて守ってカウンターに行けば、大きなチャンスをつかめるし、こうやってやれば水戸を攻略できる試合の手本になってしまった。だから、ここから水戸はどうするのか注目です。監督の力量がここから試される試合になります。

――次節は7月11日のモンテディオ山形戦になるね。

奥山泰裕 監督がどう対処してくるのか、楽しみです。

川本梅花

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