川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】秋田に合わせた八戸…自分たちの強みを出せず黒星【無料記事】ラインメール青森FCアカデミーコーチ奥山泰裕の分析

ラインメール青森アカデミーコーチ奥山泰裕が語る八戸対秋田

【目次】
前節白星のヴァンラーレ八戸が大幅なスタメン変更
上形洋介のキープから好機を演出するも……
自分たちのストロングを出さずに負ける

分析対象試合:2020明治安田生命J3リーグ第3節 ヴァンラーレ八戸 0-2 ブラウブリッツ秋田

前節白星のヴァンラーレ八戸が大幅なスタメン変更

――ヴァンラーレ八戸は、前節・いわてグルージャ盛岡戦[2〇0]からメンバーを大幅に入れ替えた。

参考:2020明治安田生命J3リーグ ヴァンラーレ八戸 出場記録

奥山泰裕 正直「えっ!?替えてきたんだ」と思いました。どんな意図があるんだろうな、中口雅史監督なりの考えがあるからの選択だろうと想像しますよね。

――奥山くんは、こうした選手の入れ替えをどう思う?

奥山泰裕 もし前節が監督にとって満足できるパーフェクトな内容だったら、秋田戦では選手を入れ替えないと思います。1人退場していたことも関係するでしょうが(MF國領一平が出場停止)、岩手戦で相手にチャンスを作られたことが気になったのかもしれません。前節がパーフェクトだと思っていないから、今季初スタメンの秋吉泰佑選手など、いろいろな選手を試したいと考えたのでしょう。シーズンも開幕したばかりですから、チームの発展性を探る選択だったのだと思います。

――システムは前節同様の「4-3-3」だったが、上形洋介を1トップにするなど、選手の入れ替えを行った。その結果、ゲームの入り方に落ち着きが見られなかった。

奥山泰裕 そうですね。大雨ということもあり、お互いにシンプルな形で、「割り切って」じゃないですけど、はっきりしたボールの処理をしていました。球際は激しく、ルーズボールの拾い合いの展開になっていると思って見ていました。

――秋吉がイエローカードをもらったシーンもだけど、お互いに激しくアタックしていた。秋田は、前線から激しくボールにプレスに行っていた。チームとしてスピード感がある動きをしていたね。

奥山泰裕 ハイプレスに来ていましたね。秋田は攻撃にしても守備にしてもシンプルにやり切ろうという意図が見えました。2トップの齋藤恵太選手と中村亮太選手をシンプルに使う。中村選手を競わせて、齋藤選手を裏に走らせる。そうしたシンプルな形を持って、勢いとパワーで攻める。

――八戸の右サイドバック(SB)の國分将が前線に上がった時、空いた裏のスペースにミドルパスを出して、齋藤を走らせる。八戸のセンターバック(CB)の河津良一が振り切られそうになったシーンがあったからね。ただ前半は両チームとも、決定的な場面がなかった。

奥山泰裕 はい、なかったですね。

――停滞とまでは言わないけど、なぜチャンスらしいチャンスがなかったのだろう。

奥山泰裕 秋田の方もシンプルに攻めてくるし、八戸の方もやろうとしている細かいパスとか、秋田のボールを前線で奪ってからショートカウンターを仕掛けることができない状況でした。前半の秋田は不用意にボールをつなごうとしませんでした。八戸の方も、プレスに行ったところで秋田は大きくボールを蹴ってくる。行っても蹴るし、見てても蹴るし、それならプレスに行っても意味がない。そう感じながらプレーしていたと思います。雨でピッチが滑っていたので、ボール回しには適さないと考え、前半はお互いにボールを蹴り合う、固いゲームの進め方になったのでしょう。

――八戸のスタジアムの芝は、実際にプレーしてみてどうだったの?

奥山泰裕 乾いている時は、粘着質です。だから、ボールが走りにくい印象があります。でも芝自体は良いですから、水を含ませるとボールが走り、プレーしやすくなります。ただ、雨の量が多すぎた結果、芝が水を含みすぎる状態となり、選手が滑っている場面も目立ちました。普段やりなれているはずの八戸の選手が滑っているぐらいですから、相当やりにくいピッチ状態だったのでしょう。

上形洋介のキープから好機を演出するも……

――後半に入ってゲームが動く。動くのだけど、八戸には決定的な場面はなかった。前半の問題を引きずっているのかな。

奥山泰裕 57分、上形選手がポールをキープ。彼からのパスを受けた黒石貴哉選手がドリブルでペナルティエリア右に進入します。グラウンダーのクロスを入れ、走り込んだ國分選手が合わせた場面がありました。上形選手がしっかりキープし、右サイドの黒石選手を追い越して右SBの國分選手がシュートに行く。こういう場面をもっと作りたかったと思います。

八戸にチャンスが少なかったのは、FWにボールが収まる機会が少なかったからです。FWにボールが収まらないため、シャドーやSBが人を追い越してどんどん前線に入り込めなかった。

そして秋田もスペースを突かれるような「穴」を作っていなかった。J3第3節を終えて無失点の理由がよく分かります。守備がしっかりしていました。秋田は、ボールを繋いてサッカーをするチームではない。それはGK田中雄大にボールが戻された場面、彼の近くにCBがいて八戸の選手があまり追いかけていなくても、大きなキックを蹴っていたことからも分かります。そうしたサッカーが得意なのでしょう。

――八戸の方も、得点しなければ勝てない状況になり、前節好調だった選手や結果を出した選手を投入した。元チームメイトの秋吉は63分に交代で下がったけど、彼のプレーはどうだった?

奥山泰裕 雨中の試合は、球際の強さとか気持ちがプレーに反映して、その選手のプレーヤー資質が見えやすい。秋吉選手はイエローカードをもらっていましたが、身体を張るなど、彼の良い面を見せていました。ボールロストしている場面もありましたが、前で張りっぱなしにならず、ボールを奪われてもビビって受けに回らず、パスコースを作ってクサビを受けて、ボランチにしっかりボールを落としたり転換したりが見えました。あの雨の中、最低限の仕事はしている印象はあります。シュートを打って相手に当たってCKになった場面もあったので、「やるぞ」という姿勢や気持ちが見えました。

――もう1人、スタメンだった上形選手にはどんな印象を持った?彼にはあまりボールが入らなかったのだけども。

奥山泰裕 上形選手に関しては、シュートがうまい選手だと聞いていたので、その点を楽しみにプレーを見ていたのですが、フリーでシュートを打つ場面はなかった。だから上形選手の問題ではなく、チームとして秋田ゴールに迫れなかったのだと思います。ポストプレーに関しては、先に話した57分のようなプレーができれば、彼のプレーも変わっていただろうという印象です。あのようにタメを作ってさばけるのなら、チームとしてもっと上形選手にクサビのボールを入れていっても良かったんです。

――それにはさ、ゲームの中で選手の誰かが気付かないといけないよね。57分の展開を見て「ああ、こうしたら崩せるな」と気付き、選手がやらなければ、低調な試合運びになってしまう。それって、実際にプレーしていて難しいことなの?

奥山泰裕 そうですね、状況にもよりますが、良いプレーなら「このまま続けていこうよ」という声が選手間で出ているはずです。ただ、監督がハーフタイムでどう言っているかにも左右されます。監督が「こういう、じれったい状況を望んでいるわけではないから、バランスを崩して攻めて得点しよう」と言っていたならば、ホームゲームですし、選手たちは勝点を奪うための戦い方を選択したでしょう。

この試合展開を語る上で気になった場面が1つあります。

それは18分、ディフェンスラインからボールをつなぎ、中央の秋吉選手がドリブルで持ち上がります。彼が右へボールを出す。パスを受けた國分選手は、ペナルティエリア手前の右からクロスを入れる。しかしボールは、そのままゴールラインを割ってしまう。この時、八戸はペナルティエリア内に5人入っている。この時、秋田はハイプレスをかなり掛けていて、それを八戸はうまく躱(かわ)してチャンスを作っていた。これができるなら、同じようにチャンスを作れるはず。「何度もこうしたプレーをやっていれば、八戸に勝機がある」と感じました。しかし、その後はディフェンスラインが細かいパスを繰り出し、相手のプレスをかいくぐってゴールに攻めるようなプレーはありませんでした。

18分のプレーは、おそらくトレーニングで相当にやっているプレースタイルだと思います。そうでなければ、あれだけきれいにボールと人は動きませんから。だとすると、このスタイルになぜ自信を持てなかったのかが疑問になります。

――問題はそこなんだよね。なぜ、挑めなかったのか。

奥山泰裕 監督の考え方を選手が実践しているのだと思います。監督にはいくつかタイプがあります。中口監督は、おそらく、試合の中で選手にプレーの選択をさせるタイプの監督なのでしょう。だから選手たちは、前からプレスを掛けてくる秋田に対し、自分たちの陣地ではボールを持たない、前にボールを放り込むサッカーをした。秋田は、中村選手や齋藤選手がパワーとスピードを活かしながら、セカンドボールを拾う場面で何人もの選手で奪いにくる。八戸の選手はそうした秋田のやり方を見て、危険を冒して雨中でボールを回しをするよりも、リスクを冒さないシンプルなサッカーを選択したのだと想像します。

――4分、新井山祥智が中央に横パスを出した時、茂平が奪ってそのままペナルティエリアに入っていき、巧みなフェイントで國分を躱して左足でシュートを放った場面があった。シュートミスでゴールにはならなかったけど、あの場面で八戸の選手は、「この雨のピッチでショートパスをつなぐのはリスクがある」と懐疑的になったのかもしれない。

奥山泰裕 そうですね、あれは影響しましたね。

自分たちのストロングを出さずに負ける

――八戸の失点場面についてだけど、八戸GK花田力が秋田FW中村のシュートを弾いて、それをまた中村に決められて先制される。このプレーはどう見た?

奥山泰裕 外に弾けたら一番良かったのですが、國分選手が一瞬、マークする中村選手を見失ってしまいます。シュートされる瞬間には頑張って戻ったものの、逆にそれが、花田選手にとってはブラインドとなってしまった。GKにとっては、やりにくい場面でした。

――2失点目。八戸はセットプレーの場面、完全ゾーンで守っている。

奥山泰裕 ゾーンで守ってましたね。

――完全ゾーンって、珍しい。ゾーンとマンマークの併用の時代なのにね。

奥山泰裕 ゾーンをやる時は「良いスペースに、良い質のボールを放り込まれた場合、相手の選手が後ろから走り込まれたら対応しきれない」とよく言われます。実際にそういう場面を何度も経験していますが、まさに、この失点はそうしたフレーズに合ってしまった。

――八戸はこのまま完全ゾーンで行くのかな。

奥山泰裕 監督が決めることですが、このままセットプレーでの失点が増えれば、「じゃあやめよう」というパターンは多々ありますから、今後どうなるかに注目ですね。2点目が入る前、花田選手がスーパーセーブで弾いた場面もあったので、守っている選手のポジショニングに問題があるのだと思います。J3第1節・福島ユナイテッドFC戦[0●2]から思っていることですが、クロスの対応がまずいなと。そこは絶対に改善しないと、これからも失点を重ねてしまう。

あとはサイドにおける展開ですね。相手が1人なのに、八戸は4人でプレスに行く場面がある。またペナルティエリア内で、相手FW1人に2人の選手がプレスに行くことがあります。1人は引っ張られているわけです。そうすると、もともとマークしている相手の選手を見失い、「あっ、自分のマークはファーサイドにいる」という感じでフリーにしてしまう。ボールから目を離し、ボールウオッチャーにならず、しっかりマークに付かないとならない。そうしたことは、確かにあります。

――後半になって選手を入れ替えた。「このメンバーでスタートすれば良かった」と監督は後悔しているのかな。

奥山泰裕 その可能性は否定できませんね。

――自分は、こういうやり方に懐疑的で、7人替えなくても、前節で結果を出した選手を残しつつ、新しい選手を2人くらい入れるぐらいで良かったのではないかと。まあ結果論になってしまうのだけどね。トレーニングでは、スタメン組とサブ組に分かれるじゃない。この試合で使われた選手は「サブ組」が中心で、その方がコンビネーションが良いと考えたかもしれないけど。

奥山泰裕 監督は「このメンバーを出す」と決めて、ハーフタイムで1人の交代も行わず、後半のピッチに送り出した。最初の交代が行われるのは63分です。内容は良くないものの、選手たちは監督の指示通りにプレーしている。だから、63分まで交代をしなかったのだと思います。

僕は先ほど18分の場面が気になると言いました。もし、あのようなプレーを監督が望んでいたのならば、その後、ああしたプレーが生まれないことを理由に、もっと早い時間帯に選手交代をしたはずです。しかし、そうならなかった背景には、監督も「この雨だし、相手もボールを蹴ってくるから、ゲームが動くまではこのままでいい」という考えがあったのだと想像します。ですから、この敗戦は選手だけの責任ではありません。

この試合はリモートマッチ(無観客試合)ではなく、444人の観客が来ています。それにホームゲームですから、普段のトレーニングでやっているサッカーを見せようとしても良かったと思います。前節・岩手戦は、八戸のやりたいサッカーが見えた。ピンチもあったけど、「うちの攻撃はこういうのだぞ」というスタイルを示していました。それをもっと出してほしかった。

――やはりチームとして手探り状態にあるのかな。最初に奥山くんが言っていたけど、選手を大幅に入れ替えた理由は、「チーム作りの過程にあるから、ほかの選手を見たかった」に通じるね。

奥山泰裕 この試合を見て、八戸は岩手戦で勝利を収めたやり方にもっとこだわるべきだと思いました。降格もないですし、もっと大胆にやってもいいかなと。もちろん、こだわりすぎると、新たな問題も出てきます。例えば相手が対策を練ってきて、自分たちのやり方が通用しなくなるかもしれない。ただ、その時は次の策を講じるだけの話です。

八戸は自分たちのストロングを出さずに、秋田のストロングに付き合った結果、負けたのです。自分たちの強さを出さずに負けてしまった、もったいない試合という印象を持ちました。

川本梅花

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