川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】インテンシティの高い守備を見せた鹿島と横浜FMの独特な戦術【無料記事】ラインメール青森FCアカデミーコーチ奥山泰裕の分析

ラインメール青森アカデミーコーチ奥山泰裕が語る鹿島対横浜FM

【目次】
最後まで徹底された鹿島中盤の守備
常に受け身の守備、選手を支えた観客の拍手
SBがあえてインナーラップ…横浜FM独特の戦術


分析対象試合:2020明治安田生命J1リーグ第5節 鹿島アントラーズ 4-2 横浜F・マリノス

最後まで徹底された鹿島中盤のディフェンス

――まず、鹿島の印象は?

奥山泰裕 今季公式戦未勝利ということもあり、全体的に固い雰囲気でのスタートでした。ただ「厳しく行くぞ!」という気持ち、最初から戦う姿勢は見せました。

――スタメンを何人か替えてきた。上田綺世と遠藤康を使っている。先制点が、その上田の右足からだった。FWエヴェラウドは試合前、上田に「クロスをファーサイドに上げるから」と伝えていたようだね。クロスからの得点は、トレーニングでやっている形だろうし。ただ、この試合に至るまで、クロスを上げてもペナルティエリアの中に人数がいない状態だったので、この先制点の形は大きかった。

奥山泰裕 上田選手がスタメンで出ることになり、どうやって彼のプレーを活かそうかと、周りの選手の意思統一ができていました。横浜FM戦の鹿島は、いま何をやらないといけないのか、そうした意思統一が途切れなかった。完全に整備されていましたね。

――鹿島のどこが整備されたのか。

奥山泰裕 横浜FMの細かくつないでくるポゼッションに対し、中盤の選手がマークを受け渡さず、1人の選手に付いていきました。これは体力的にもきついのですが、サボらなかった。横浜FMのマルコス ジュニオール選手はかなり流動的に動いていましたが、中からサイドに動く場合でも、三竿健斗選手、あるいはレオ シルバ選手がしっかりつかんで、一度つかんだら離さない。もちろん外される場面もありました。マルコス ジュニオール選手の2得点(12分、70分)が、まさにそうです。

また、かなり厳しいチェックでも、レフェリーが流していたことも、鹿島にとっては好都合でした。相手に強く行き、ボールを奪ったらみんなでカウンターを仕掛ける。周りの選手がボールホルダーを追い越していく。横浜FMは、全選手がかなり攻撃的なポジションを取っているため、鹿島からすると、ボールを奪えれば、右にも左にもスペースがある。そこを鹿島の選手がすぐさま見つけ、フリーランニングして仕留める。得点にはなりませんでしたが、こうした場面から遠藤選手にも決定機がありました。鹿島は4ゴールを決めましたが、さらに点数が入っても不思議ではなかった。

常に受け身の守備、選手を支えた観客の拍手

――ファン アラーノとエヴェラウドは、これまで2トップで使われていたけど、サイドハーフ(SH)の方が、適正ポジションなのかな。

奥山泰裕 FWだと、まず相手を背負ってからのプレーになりますが、彼らは前を向いてボールを受ける方がいいと思いました。FWだと、ドリブルで前に行く推進力が出せないですから。

横浜FMとの相性も関係するのですが、サイドにスペースがある場合、うまくボールを貰えれば、すぐに前向きでプレーができる。ブラジル国籍の2人が中盤で仕掛け、ボールに合わせることを得意とする上田選手がペナルティエリア内で待つ。このパターンが、うまくハマりました。エヴェラウド選手は、カットインしてからのシュートが得意なのでしょう。そうしたシーンを二度ほど見せましたから。

――ディフェンスラインはどうだった?

奥山泰裕 センターバック(CB)は、犬飼智也選手と町田浩樹選手ですね。横浜FMのディフェンスラインはコンパクトで高いため、犬飼選手と町田選手は、横浜FMのディフェンスライン背後を狙い、ロングボールを蹴っていました。2人からのロングボールは、何回か外れる場面はあったものの、しっかり蹴ろうとしていましたね。状況が五分五分気味でも蹴っていました。チームとしての決まりごと、監督からの指示でしょうね。

横浜FM戦前まで、鹿島はポゼッションに重きを置いているように見えていました。しかし、ポゼッションでは横浜FMの方が完成されている。実際、横浜FMからボールをつないできました。そうなると鹿島は、ボールを奪って早く攻めるだけで、攻撃を完結できる。横浜FMが丁寧にボールをつなぐから、「前から激しく行く」ディフェンスによってボールを奪い、攻撃で終われる回数が増えた。

横浜FMの方がボールを保持する時間が長いため、鹿島の方はGKからボールをつないで「どう展開しようか」と考える時間が短くなった。それが逆に、良い方向に転換したのだと思います。

――鹿島は、この試合に対する取り組み方を間違えなかった。

奥山泰裕 横浜FMへの対策も良かったですし、何よりも、このような選手のインテンシティを続けられるのならば、どこが相手でも問題ないように見えました。いままではリモートマッチ(無観客試合)でしたけど、この試合は観客を入れた試合でした。選手の1つひとつのプレーに対して拍手が起きている。それは、選手への後押しになって、選手に勇気を与える拍手だったと思います。

鹿島が採用したディフェンスは、相手にずっと付いていく必要があるので、常に受け身です。そうした中でも、観客の拍手は選手の後押しとなり、それがあったから頑張れたのだろうなと思いました。

SBがあえてインナーラップ…横浜FM独特の戦術

――横浜FMの戦い方はどうだろう。

奥山泰裕 先ほども言いましたが、かなり早い時間から、ディフェンスライン裏のスペースにボールを蹴られていました。後半には、鹿島MF遠藤選手が中間ポジションに立っているだけで、GKと1対1になれる場面があるなど、横浜FMのディフェンスラインは集中力を欠いているように見えました。

攻撃に関しては、同点ゴールは凄かったですね。パスを出して止まらない。パスを出した後も動くことを、選手全員ができている。よく「ボールを出して動け」と言われるのですが、それがきちんとできている。「どこに動くのか」。そのイメージが感覚なのか、あるいは理論的に整備されているのかは分からないですが、迷いなく、そこに走り込んでいました。

DFは最初にボールを一瞬、目で追うのですが、その瞬間に選手が走り出している。「あっ、動いている」と気付きはするのですが、その次の瞬間には、ジャストなタイミングで走っている選手へパスが出されている。そうなると、どうしようもない。マルコス ジュニオール選手の1点目の場面、鹿島の選手は誰もサボっていませんでした。

サイドバック(SB)の松原健選手は、外から回るのではなく、インナーラップをしてくる。あの動きは、横浜FM独特なものですね。前線に高さがある選手を置いているわけではないので、外から行ってクロスの選択をしない。スペースがあるのなら、SBもピッチ中央に入って上がっていく。これを戦術として採用しています。

例えば1点目の場面、ほかのチームならば、ボールが動いている間、SBは仲川輝人選手の外を回って上がっていったと思います。しかし、横浜FMはあえて中に行く。中に行くことで、仲川選手に時間を与えられるからです。松原選手が中に入ってボールを受けることで、仲川選手が外に少しズレることができる。もし松原選手が外を回って上がったなら、仲川選手がペナルティエリア内に入る必要が生じました。

川本梅花

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