川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】チームを救った秋吉泰佑のプレー【無料記事】ラインメール青森FCアカデミーコーチ奥山泰裕の分析 #FC今治 1-1 #ヴァンラーレ八戸

ラインメール青森FCアカデミーコーチ奥山泰裕が語る今治対八戸

【目次】
チームのスタイルにブレがない今治
暑さの中でのプレー経験
ボールは頑張っている選手にやってくる
先発メンバーを入れ替えてきた恩恵

分析対象試合:2020明治安田生命J3リーグ第8節 FC今治 1-1 ヴァンラーレ八戸

チームのスタイルにブレがない今治

――今治とは現役時代、JFLで対戦しているね。J3に昇格してから監督が変わったけど、サッカー自体に変化は見られた?

奥山泰裕 監督は変わりましたが、チームのスタイルはブレていませんね。やはり、岡田武史さんが一本筋を通して取り組まれているなと感じました。

――JFLで戦っていた時、今治に対してどんな印象を持っていたの?

奥山泰裕 ボールを大事に保持して、ボールを動かして動かしてやっていく。今治とやると「しんどいな」と感じました。緊張感というか、ディフェンスでは、かなり体力を消耗させられました。ちょっとでもスキを見せたらやられる。ディフェンスのところで我慢できなくなったら、すぐに崩されるイメージを持っています。

――今治はJ3第7節終了時点で総失点数4。数字からは、しっかりした守備をしていると読み取れるけど、八戸戦を見ての印象は?

奥山泰裕 攻撃で何度も「バック」を選択していました。相手に奪われないため、バックパスを選択する。つまり今治は、ボールを保持する時間が長いから、失点数が少ないのかなと思います。単純に、ボールポゼッション率が高いので、結果的に相手チームから攻められる回数を減らしているのです。

守備自体は、八戸がボールを持った時、けっこう前方からプレスを掛けていました。ただプレスを外され、八戸にチャンスを作られていたので、数字の印象ほど、強固な守備だとは思いませんでしたが、暑さで集中力が切れてルーズな部分が露呈したのかもしれません。

暑さの中でのプレー経験

――暑さについて質問なんだけど、奥山くんは現役時代、気温30度以上の中で、どのようにプレーをしていた?

奥山泰裕 水分を十分に補給して、集中力を切らさないように注意していました。頭がぼーっとしたらマズいので、とにかくゲームに集中するように心掛けました。一度でも「暑いな」とか「きついな」と思ったら、どんどん、その意識が強くなっていく。「ああ無理だ、無理だ」と、何もできない状態になって、全てを暑さのせいにしてしまう。そうなってはダメです。ただ、相手も状況は同じですから、相手のスキを見つけ、そこを攻めるようにしていました。僕は暑い日でも、ポジティブに捉えてプレーしていました。

――実際に、しんどかったことは?

奥山泰裕 若い時は暑ければ暑いほど、ピッチコンディションが悪ければ悪いほど、走れるタイプでしたから、チャンスだなと思ってテンションが上がりました。ベテランになってからは、昨季とかだと、暑さによって以前に痛めた箇所が気になることがありました。

ボールは頑張っている選手にやってくる

――試合の話に入ろう。38分、丸岡悟を下げて秋吉泰佑を投入した。前半から交代枠を使うとは、ずいぶん思い切ったなと。

奥山泰裕 連戦に加え、暑さも手伝って、いつもの動きじゃないと判断されたのかな。交代出場の秋吉選手がピッチに入ってからすぐに良い動きを見せたため、丸岡選手のコンディションの悪さが目立ちました。

――前半途中で選手を替えるって、ずいぶん大胆な策だよね。

奥山泰裕 秋吉選手がピッチに入るまで、試合開始からずっと今治がペースを握っていました。八戸のファーストシュートは、35分の新井山祥智選手。前線のランニングが足りないのか、動きがないのがダメなのかと、いろいろなことを考えた結果、ボールに関わる機会があまりなかったため、丸岡選手を交代させたのかもしれません。

――秋吉は、すごい良かったね。ボールを受ける場所を考えて中間ポジションにいたり、ボールを引き出しに下がったり、逆サイドからの攻撃参加に加わったりしていた。試合が終わるまで、チームの中で誰よりも走っていた。本人も途中交代で試合に参加する機会が多かったから、いろいろ思うところもあっただろうけど、そうした思いとかを全てピッチにぶつけていた。いやー、ホント、いいプレーが多かった。

奥山泰裕 精力的に動いていましたね。暑い時、自分より5メートルから10メートル前にいる選手にボールを預け、外を回ってランニングする。そうしたプレーをやっていたのは、秋吉選手だけでした。すごく頑張れていました。

――選手なら誰しも、スタートから試合に出たいと思っている。それでも、途中から試合に出て、ああいう気持ちの入ったプレーができることは、素晴らしいよね。サポーターも秋吉のプレーを見て「暑いのにあんなに頑張っているんだ」と思ったはず。惜しいシュートもあった。

奥山泰裕 ギャップで受けてターンしてシュート(42分)でしたね。

――もう1歩ドリブルをしてからシュートでも良かったのかな。左からDFが来ているのが分かって、シュートを選択したのだろうけど。

奥山泰裕 右足で打つのには良い角度だと思い、選択したのだと思います。

――同点になる得点(81分)は、上形洋介がボレーを打って、ポストに当たって跳ね返ったところを秋吉が決めた。上形はシュートがうまいね。

奥山泰裕 上形選手はシュートに持っていくバリエーションが多い。あのシーンは、DFに体を全部預けることで、DFがボールにアタックできない状態にしつつ、自分は倒れ込んで、枠が近いから足に当てるだけでゴールできると、一瞬にイメージしたのでしょう。入ってもおかしくなかったし、秋吉もよくつめていたと思います。頑張っている選手の下にボールがやってくるんですよ。

――なるほど、それはそうだね。

先発メンバーを入れ替えてきた恩恵

――選手交代についてはどう感じた?

奥山泰裕 今治は52分にオウンゴールで先制した後、だんだん押し込まれます。選手交代をどうしようかと、いろいろ選択していました。選手はライン上に立っているけど、交代させそうでさせない状態を続けていました。暑くてしんどい試合でしたから、もっとテンポよく選手交代をしても良かったと思います。

――80分過ぎてからだよね、3人交代させたのは。

奥山泰裕 落ち着かせるところは落ち着かせられていたので、そのまま、のらりくらりとポゼッションをやりながら行けるという算段だったと思います。八戸の最後の圧力がそれを上回った。よく追いついたなと。

――今治戦は今季の中で最もチーム戦術と選手交代がマッチした試合に見えた。

奥山泰裕 試合の流れとして、逆転のチャンスもありましたからね。上形選手がヘディングでクロスバーに当たって弾かれましたね。今治も、最後にフカしてしまったシュートがありました。ゲームがオープンとなり、見ている人には面白い試合だったと思います。

両チームともシュートの精度に課題はあったものの、そこはディフェンスが諦めず、最後まで追っているから視界に入るので、という側面もありますからね。

――この試合を総括しての八戸の今後は?

奥山泰裕 八戸は毎回、スターティングメンバーを入れ替えていますが、ディフェンスラインは安定してきました。秋吉選手に代表されるように、途中出場の選手が良いプレーで結果を出したことで、新しい風がチームの中で吹いたと思います。

メンバーを固定しないやり方が、うまく行っていない試合もありましたが、先発起用されていない選手が良いプレーをしたことで、選手層に厚みが生まれます。誰が試合に出ても戦える、そうしたチーム戦力の充実と、相手チームからすれば誰が出てくるのか分からない難しさを与えています。いろいろな選手を使うことの恩恵がやっと出てきた。このやり方がうまく行けば、夏場にはより強くなる可能性があります。

川本梅花

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