川本梅花 フットボールタクティクス

【レビュー】攻守の切り替えの早さを、どうやって活かすか【無料記事】ラインメール青森FCアカデミーコーチ奥山泰裕の分析 #水戸ホーリーホック 0-2 #東京ヴェルディ

【レビュー】ラインメール青森アカデミーコーチ奥山泰裕が語る水戸対東京V

【目次】
奥山泰裕による水戸ホーリーホック選手採点
選手起用は正反対、前半は水戸のペースも…
ひと工夫が求められる松崎快
攻守の切り替えの早さを、どうやって活かすか

分析対象試合:2020明治安田生命J2リーグ第12節 水戸ホーリーホック 0-2 東京ヴェルディ

奥山泰裕による水戸ホーリーホック選手採点

今回から奥山泰裕に選手のスコアを付けてもらいます。4が標準点です。標準よりも良かった場合、0.5ずつ加点。逆に、標準よりも良くなかった場合は、0.5ずつ減点されます。

【先発】
GK 50 松井 謙弥 4
DF 13 岸田 翔平 4
DF 2 住吉 ジェラニレショーン 3.5
DF 24 細川 淳矢 3.5
DF 28 乾 貴哉 3.5
MF 16 山谷 侑士 4
MF 25 平塚 悠知 4
MF 7 山田 康太 4.5
MF 20 森 勇人 4
FW 15 奥田 晃也 3.5
FW 48 アレフ ピットブル 4
【途中出場】
MF 27 松崎 快 4.5
FW 10 山口 一真 4
FW 9 中山 仁斗 4
MF 26 平田 海斗 –
DF 17 河野 諒祐 –

選手起用は正反対、前半は水戸のペースも…

――前半はどう見た?

奥山泰裕 前半はかなり前から圧力を掛けていました。水戸の秋葉忠宏監督は試合前のインタビューで「ハイプレス」という言葉を使っていました。それを選手が有言実行したのが、前半の戦い方でした。

東京Vはかなり技術の高い選手がそろっていると思いますが、そうした相手に対して簡単にやられていない。東京Vの選手を困らせ、良い形でボールをつながせない。ポゼッションは東京Vの方が高かったものの、横パスとか後方でのパスが多く、ボールを持たされている状態でした。前半は、水戸の狙い通りの展開だったと言えます。前半終了時点で、水戸の枠内シュートは7本。前半は水戸のペースでした。

――水戸はメンバーを、大幅に替えている。

奥山泰裕 前節・京都サンガF.C.戦[2△2]から8人を替えたのは、コンディションが一番いい選手と、トレーニングで「自分を出してくれ」とアピールしたモチベーションが高い選手を優先した結果だと思います。これは良い練習をしているからこそ、できることです。選手のプレーを見ても、「モチベーションが高いな」と感じました。一方の東京Vは、前節・アビスパ福岡戦[3〇1]と同じ。選手起用は正反対でした。

――水戸は前半、ハイプレスでディフェンスラインも高くなっていた。後半はどう打開するのか。後半も前半と同じやり方をしたいと考えてはいたはずだけど。

奥山泰裕 水戸は、後半も同じやり方をするゲームプランだったと思います。しかし、東京Vは前半うまく行かなかったので、選手を交代します。先発のFW小池純輝選手と交代で、MF森田晃樹選手を投入。彼は、とにかく質が高い動きをする。引いてくるし、裏にも走り抜ける。水戸のセンターバック(CB)を含めたディフェンス陣は、誰が森田を捕まえるのか、はっきりしない。

森田選手は、顔を出すタイミングがすごく良い。前半の東京Vはビルドアップの際、ボランチにボールを付けられなかった。しかしワンクッション、森田選手が入ることで、パスワークが生まれた。水戸は、後半になって運動量が知らず知らずのうちに落ちてきて、プレスの圧力も弱くなっていく。

ひと工夫が求められる松崎快

奥山泰裕 水戸はFKから先制されますが、あれは事故に近い形でした。問題は、FKの取られ方です。裏に抜けられてひっかけてイエローカードで止めている。東京Vに良いペースでボールを動かされている時間帯でした。

――いずれ何かが起こるなという時間だった。後半、水戸は攻撃的な選手交代をしてきた。59分に松崎を入れ(山谷→)、66分に中山仁、山口と連続して交代している。(奥田、Hピットブル→)

奥山泰裕 松崎選手は良い仕掛けをしていましたが、決定機を作るまでには至らなかった。東京Vとの違いを言えば、東京Vは、ペナルティエリア付近で何をやってくるか分からない怖さがあった。選手の技術の高さはもちろんですが、水戸の選手にも何か1つでもあったらと思いました。ひと工夫というか、ひとひねりがあったらいい。

――松崎が工夫するとすれば、どんなプレーになる?

奥山泰裕 左足が利き足の選手を右サイドに置いている。左足でボールを持った時にクロスは選択肢の1つですが、左足を活かしてボールを持ったら、そのままカットインして、ひねりながらのシュートを打つ。または、深く行った時に、ニアサイドはゴール方向になるので、コースを切られる形になります。ゴールに直結するコースはそうなる。そこで、単にクロスを入れるのではなく、グラウンダーのパスを出して「もぐっていく」とか。

クロスも入れるし、クロスと見せかけてグラウンダーのパスも入れていく。中に自分で持っていってシュートを打つとか。中にマイナス気味で、ペナルティエリア内ではなくても、外に戻すような形でパスを出し、右足でフリックしてファーサイドにシュートを打つ。あるいは右足でフリックして、巻き気味でGKとDFの間にクロスを入れるとか。少し考えただけで4、5パターンはすぐに出てくる。そういう工夫をもっとやっていけば、DFも次に何がくるのかと、守りにくくなってくる。

――「もぐる」とは、具体的に何をイメージすればいい?

奥山泰裕 パスを出した選手に向かって走っていく。そうすると、DFはパスを出された瞬間は目で少し追うので、ボールウオッチャーになります。その時にパスを出した足でそのまま走り出していたら、相手のマークをはがせる。仮に中山仁選手にパスを出したら、中山仁選手ならば相手を背負えると思います。そうしてパスを出した選手が走り出してきたら、ワンタッチでボールを落としてシュートが打てる。あるいは落とすフリをして、ターンしてえぐったりとか。ペナルティエリア内でやられたら、DFは飛び込めないため困ります。

東京Vの森田選手は、周りのうまい選手を活かすための潤滑油になっていました。森田選手が走るので、フリック気味でパスを出せる。抜くフリをしてアウトサイドでパスを出したりとか。選択肢が1つだけではなく、森田選手が走ることで選択肢が1、2と増えていく。ボールを扱える選手が選択肢を増やしていくと、イマジネーションがわき、相手の逆の取れるようになってくる。周りのテクニックのある選手を引き出していた。

攻守の切り替えの早さを、どうやって活かすか

――水戸のゲームとしてはどうだった?

奥山泰裕 アンラッキーな、事故的な失点がなければ……ですね。ゴール前のイメージは東京Vの選手の方があった。でも、水戸の選手の方が、ボールを奪われた時の切り替えとかは上回っていた。水戸は、攻撃から守備への切り替えが、すごく早い。

水戸が攻めている時、山田選手はボールを高い位置で、いい距離感で運べていた。ボールを奪われても、相手からボールを奪って、切り返してするどい攻撃に転じられる。しかし後半になって、良い位置でボールを運べなくなった。攻撃から守備への切り替えがものすごく早いのに、東京Vに脅威を与えられなかった。

素早い切り替えを持っているのに、ディフェンスラインからボランチへのイージーなミスでボールを奪われるなど、守備の切り替えの早さを発揮できないようなスペースでボールを奪われてしまう。それはもったいない。

――高い位置でボールを奪えなくなった理由は?

奥山泰裕 ディフェンスラインが下がったこともあったと思います。GKからのビルドアップ時、東京Vは前から来なかったため、うしろでつなぐなどしていた。そしてディフェンスラインからビルドアップしてボランチにボールを付けるところでミスが出た。あと2、3本しっかりつないで、東京Vのバイタルエリアまでボールを運べたら、ボールを散らされても、水戸のFWの切り替えとか、もう一度奪い返して、ショートカウンターの形を何度も作れたはずです。暑さなのか、それによる集中力の欠如なのか。ビルドアップからミスが目立った。東京Vは、守備時は2トップにしてシステムを作るのが早い。水戸の真ん中を固めてサイドにボールを出させていました。

――試合の総括としては?

奥山泰裕 前半に見せた水戸のハイプレスは、どんな相手にも通用します。でも後半、夏場なので運動量が落ちてきた時にどうするのか。それが課題です。前からプレスに行くと、はがされるとリスクはある。ラインが高いので、機動力があって裏に抜けるのが得意な選手が相手の時に、裏のケアをどうするのか。その課題はあります。最後のシーンで、2点目を奪われたシーンですね。オフサイド取りに行って選手が止まっていたシーンがあった。人数はそろっていたものの、誰も裏の抜け出しに付いていかなかった。水戸のストロングである攻守の切り替えを、どうやってさらに活かすのか。それを監督は問われていると思います。

川本梅花

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