川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】プレシーズンマッチから印象が変わらない秋葉サッカー【無料記事】J2第33節 #ヴァンフォーレ甲府 2-0 #水戸ホーリーホック

【試合分析】プレシーズンマッチから印象が変わらない秋葉サッカー

【目次】
プレシーズンマッチから印象が変わらない秋葉サッカー
スペクタクルなサッカーとは何か?
2メートルの距離が失点をもたらす
両チーム選手の対応の違い
まるで戦術ラボのようなサッカー
対象試合:2020明治安田生命J2リーグ第33節 ヴァンフォーレ甲府 2-0 水戸ホーリーホック

プレシーズンマッチから印象が変わらない秋葉サッカー

これから記す内容は、私が試合を見て感じたことです。つまり、このコラムは、あくまでも私の意見です。なぜ、このような前置きをするのか。それは多少なりとも、厳しい意見を書くことになるからです。

以前のコラムでも私は「今季の水戸ホーリーホックは勝ったり負けたりの繰り返しになる」と記しました。水戸が勝てるチームは、順位や実力が自分たちよりも下位か同等のチーム。そして水戸が負けるチームは、順位や実力が上のチームです。したがって上位チームを撃破する「ジャイアントキリング」は期待できません。

水戸がやっているサッカーを見れば、そうなることは想像できます。いま行われているサッカーは、秋葉忠宏監督のサッカーと言っていいのか、水戸のサッカーと言えばいいのか。それをどう表現したらいいのか迷いますが、明らかなことは、昨季までの水戸のサッカーとは違っていることです。違っていいのか悪いのかも、表現することが難しい。ただ来季もこのようなサッカーをやっていたら、おそらく結果は同じになるでしょう。これは可能性の話なので、起爆剤的な「何か」が起これば、結果は違うと思いますが……。

勝てるサッカーをするチームを作るのか、スペクタクルなサッカーをするチームを作るのか。理想としては、スペクタクルなサッカーをして勝てるチームを作ることですが、それが相当に難しいことは明らかです。

スペクタクルなサッカーとは何か?

まず勝てるチームとは、先制点を奪われても逆転できる。または先制点を守り切って1-0で試合を終わらせられるチームのことです。

それではスペクタクルなサッカーとはどんなサッカーでしょうか。逆説的に言えば、1-0で試合を終わらせないサッカーと言えます。先制しても2点目、3点目を取りに行く。それを試合終了まで実践するサッカーです。攻撃の時間が長くなるため、シュート数は増えるし、チャンスの回数も増えます。先制点を取っても引いて守るようなことをしないため、見ている側からは面白い展開の連続になります。

一方、攻撃的な姿勢を続けることは、最終ラインを高くして敵陣に人数を掛けることを意味します。結果、カウンター攻撃を受ける確率も高まります。そうしたリスクも考慮して、常に次の点を奪いに行く。失点を重ねるリスクを負っても攻めの姿勢を崩さない。

スペクタクルなサッカーで勝ち続けることが理想ですが、簡単ではありません。当然相手も攻撃を仕掛けますし、上位チームは守備が堅く、簡単にスペースを空けてくれません。ボールを奪われたらすぐさま帰陣してブロックを作る。バイタルエリアに水戸の選手がいたら、その選手とゴールとの線上にポジショニングする。上位チームはとにかく基本に忠実に忍耐強く守ってきます。

では、ヴァンフォーレ甲府戦で見た気になったことをいくつか記していきましょう。

2メートルの距離が失点をもたらす

甲府戦でこんなシーンがありました。先制点を許したシーンですが、甲府ウイングバック(WB)内田健太のクロスにFWドゥドゥがヘディングで合わせてゴールを奪います。この場面で、ドゥドゥをマークしているDFは瀧澤修平です。ドゥドゥは瀧澤の背後に回ってマークの視界から消えます。瀧澤は背後にドゥドゥが入ったことを察して体を並行気味にしてクロスボールを先にクリアしようとします。するとドゥドゥは瀧澤に一瞬体を預け、彼よりも高い到達点でヘディングをして得点します。

これはDFとFWのよくある競り合いですが、問題は競り負けた瀧澤だけではありません。ドゥドゥの後ろにいた外山凌のポジショニングにも原因があります。外山の後ろには誰もいません。そして外山の視界にはドゥドゥがいる。それならば中に絞り、瀧澤と2人でドゥドゥをサンドイッチにすることが正しい選択となります。

ドゥドゥの特徴の1つに、ポジショニングのうまさが挙げられます。外山にそうした意識があったならば、最初の立ち位置が違っているし、クロスに対してボールウオッチャーになることはなかった。外山とドゥドゥの距離は2メートルくらい。その距離を事前に絞れるのかどうかで、勝敗は分かれてしまうのです。

両チーム選手の対応の違い

先制点を奪われた後の水戸の選手を見てください。「ああやられた」とがっかりうなだれます。誰かが誰かに声を掛けることなく、試合の時間が止まってしまった感覚さえ与えます。2失点目の時もそうです。FW泉澤仁がセンターハーフ(CH)平野佑一のパスをインターセプトして一気にゴール前へ。泉澤のシュートは、GK松井謙弥の右側を通ってゴールに吸い込まれます。

この場面も同じように、「もうだめだ」という感じで選手はうなだれます。誰もすぐに平野に近づいて声を掛けようとしません。松井が選手に何かの言葉を叫んでいますが、ミスした平野にすぐに声を掛けるような選手は見当たりませんでした。画面だけなので、画面に映らない場所でそうした行為があったのかもしれませんが……。

外から見ていてチームがバラバラのように見えます。昨季見たチームとは違うチームを見ているようでした。こんな風に個人の気持ちとか感情を優先するチームだったのかと考えさせられました。

似たような場面が甲府にもありました。後半になって水戸FW山口一真の右サイドからのクロスに、FW中山仁斗が頭で合わせます。ボールは右ゴールポストを外れてしまうのですが、中山に背後を取られたDF今津佑太が、近くにいた右WB小林岩魚に「もっと絞ってこい」とすぐに指示を出していました。

甲府は先制点を得たら、引いて守って勝利するやり方を貫きます。カウンター要員としてドゥドゥだけをトップに残し、最終ライン5人とその前に4人を配して、9人で守りを固めます。守備陣は基本に忠実に守っていきます。水戸MF松崎快がミドルシュートを打とうとすると、きちんと松崎の前に立ってゴールとの線上にポジショニング。松崎のシュートを体で弾いてクリアするのです。こうした基本に忠実なプレーをきちんとこなす選手たち。甲府の守備の堅さは、こうしたプレーの反復によって獲得されているのです。

まるで戦術ラボのようなサッカー

秋葉監督のサッカーは、プレシーズンマッチの鹿島アントラーズ戦と印象は変わりません。最初の印象は「戦術ラボのよう」でした。「ラボ」とは「研究所」の意味です。4バックから3バックへ。さらには、2バックになって攻撃の人数を増やしていきます。今回の甲府戦を見ても、その印象は変わりません。

「3-5-2」で始まったシステムは、守備時には5バックになって、攻撃時には、右ストッパーの岸田翔平が攻撃参加で前線に入ると、最終ラインは2バックになります。DFの1人が相手FWをマーク。最終ラインはハーフウェーラインを越えて敵陣に入り込ます。ボール保持率は相手よりも高く、確かに攻撃的で、見ている側には面白いサッカーだと思います。しかし、ボール保持率が高いのは、甲府にボールを持たされていただけで、相手を崩して得点を奪うチャンスはありませんでした。

「可変システム」とは響きのいい用語ですが、基本があっての可変です。戻ってくる場所がない可変システムは、まるで戦術ラボのように見えてしまうのです。

水戸に希望があるとすれば、今季のような過密日程によって、多くの選手が実戦を経験できたことです。来季のチーム作りという点では、大きな財産となります。まずはトップ10入りを目指し、守備の細かい部分を選手1人ひとりが確認していき、失点を防いでいくしかありません。

川本梅花

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