川本梅花 フットボールタクティクス

【レビュー】八戸はどうして失点を繰り返すのか?【無料記事】J3第28節 #ヴァンラーレ八戸 1-2 #カターレ富山

【レビュー】八戸はどうして失点を繰り返すのか?

【目次】
両チームのシステムを組み合わせて見えてくること
八戸はどうして失点を繰り返すのか?
簡単にポジションを離れてはいけない
ボールを奪われることを恐れるな!

対象試合:2020明治安田生命J3リーグ第28節 ヴァンラーレ八戸 1-2 カターレ富山

両チームのシステムを組み合わせて見えてくること

八戸のシステムは「3-4-1-2」で、中村太一をトップ下に置いて、彼をかなり自由に動き回らせている。中村はセンターハーフ(CH)の位置まで降りてボールをもらったり、右サイドで起点になったり、バイタルエリアに侵入したりしていた。前線を3トップにせず、富山の3バックを揺さぶるポジションに、上形洋介と安藤翼の2トップを置いた。

富山のシステムは「3-4-2-1」で、大野耀平が1トップに座り、平松宗と佐々木陽次の2シャドーで攻撃に厚みを出す。この試合の勝敗は、FW大野のポジショニングと平松と佐々木の動きが決めたと言える。

両チームのシステムを組み合わせると、メリットとデメリットが見えてくる。八戸のDFは3人で、富山のFWは1人。一見すると、この組み合わせは八戸の数的優位だが、誰が大野をケアするのかをはっきりさせないと、八戸の守備に混乱が起きてしまう。

一方の富山は、中村に対して2対1の数的優位となる。ただし中村は自由に動き回るため、誰が中村をケアするのか、中村がボールを持った時にどれだけプレッシャーを掛けられるのかがポイントになる。

八戸はどうして失点を繰り返すのか?

失点を繰り返す原因を挙げることは、それほどに難しくない。第一に、ポジショニングのマズさが挙げられる。ただ、その原因が、選手の能力にあるのか、戦術的にあるかによって、対処の仕方は変わってくる。

富山の1点目は、CKからニアサイドに蹴られたボールを大野がヘディングで決める。八戸は基本的にゾーンで守って、ケアするべき選手はマンツーマンで対処している。ゾーンの場合、人に付かないため、後ろから八戸の選手の間に入られると失点の確率が高まる。では、大野のヘディングはどうだったのか。

ハイライトの失点シーンを見れば、状況はすぐに把握できる。大野はボールが蹴られた瞬間に、後方から走り込んで頭に合わせようとする。上形は大野の動きに気付き、ケアしようとした。しかし富山の選手が上形をブロックし、行く手を阻まれる。大野は自分の前にいた前田柊に身体を預け、ボールへの到達点を高いポイントに置いた。大野の得点は、セットプレーの際にゾーンで守る相手を攻略するお手本のような動きだった。加えて上形をブロックし、大野をフリーにした佐々木のプレー。こうした相互効果が、トップ10(J3第28節終了時点で9位)に入れる富山のチーム力を表している。

先制点となったCKは、FW大野のミドルシュートから生まれている。ポイントとなるシーンは、大野がシュートを打つ前の場面にある。大野がボールをもらって前を向いた時、八戸はDF深井脩平と佐藤和樹が並んでいる。深井の右側には、シャドーの佐々木がフリーで斜めに走り込む(ダイアゴナルラン)。深井は、斜めから自分に向かってくる佐々木が視界に入る。当然、深井は佐々木をケアするためにマークに向かう。佐藤の右前にはボールを持ってドリブルを開始する大野がいる。大野は佐藤から離れるように左前方にドリブルする。佐藤が追いかけるが、大野の目の前にはシュートレンジがきっちりと開かれていた。

4分30秒前後のこの出来事によって、富山の2点目がもたらされたと言っていい。問題は、八戸DF伊勢渉のポジショニングである。富山の平松がピッチの真ん中を空けようとして、左サイドのタッチラインでプレーしていた。平松の誘いに乗って、伊勢が自分のポジションを離れて平松をケアするため、サイドラインに行く。おそらく富山は、このプレーで「伊勢は人に付いてくる」と認識したのだろう。富山の前線の選手たちはこの後、ポジションから伊勢を引っ張るような動きを実行する。

大野のミドルシュートはGKゴ ドンミンのセーブで救われたものの、伊勢が平松を追わず自分のポジションにいて、最終ラインを守って入れば、深井のダイアゴナルもなかったし、大野のシュートもなかったかもしれない。あくまで可能性の話なので、違う結果になる場合もあるのだが。

簡単にポジションを離れてはいけない

富山の2点目は、佐々木がディフェンスラインの裏へスルーパスを出し、大野が抜け出してペナルティエリア中央からシュートを放った。この場面においても、伊勢のポジショニングが問題になる。佐々木が味方の選手を使って前進してくる。伊勢は、佐々木の動きが気になり、最終ラインのポジションを離れて前進する。そうするとどんなことが起こるのか。

本来ならば伊勢は、右ウイングバック(WB)の國分将と深井の間にポジショニングしていないといけない。伊勢が佐々木の動きに釣られて前に行ったため、國分と深井の間がけっこう空いてしまっている。FW大野は、深井と佐藤の間にポジショニングして、佐々木の裏へのスルーパスに合わせてシュートを決めた。

伊勢が前に出ることが「いけない」とは言わない。ただポジションを空けて前に出るなら、佐々木からボールを奪うか、ボールを後方に下げさせてやり直させるようなプレッシャーを掛ける必要がある。とはいえ、最終ラインにいるDFの後ろにはGKしかいないのだから、軽率な行動と思われる。

伊勢にとって、もったいないプレーの連続だった。上背(184センチ)があってスピードがあるDFは、貴重な存在だ。JFL(日本フットボールリーグ)のホンダロックSCから今季加入した24歳の伊勢が、次にチャンスをもらったならば、今回のことを糧にしたプレーを見せてほしい。

ボールを奪われることを恐れるな!

富山のプレスは激しかった。本来ならば八戸が見せるべきプレーだった。富山のプレッシャーに我慢できず、ボールをすぐに手放してしまう。そうなると当然、きちんとした味方へのパスではなく、行き当たりばったりのパスになってしまう。相手に渡ったボールは後方からビルドアップされ、手数を掛けずにバイタルエリアまで運ばれる。選手にそのつもりはないかもしれないが、ボールを奪われることを恐れているように見えてしまう。

現在のチーム事情を考量すれば、選手たちはよくやっている。とても難しい環境下で、平常にプレーすることは難しい。しかし気持ちを切り替え、ピッチに立ってもらいたい。人生において、プロフェッショナルなサッカー選手でいられる時間は短い。残りは、プロフェッショナルなサッカー選手でない人生を過ごさなければならない。ピッチに立てるのは、今季だけかもしれない。そうした現実の中に選手たちは置かれている。

残りの6試合をどうやって戦うのか?

私は、プロフェッショナルとして戦う選手の姿が見たい。

川本梅花

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