川本梅花 フットボールタクティクス

【レビュー】引いて守る相手を攻めきれず【無料記事】J3第32節 #FC岐阜 1-0 #ヴァンラーレ八戸

【レビュー】引いて守る岐阜、攻めきれない八戸

【目次】
両チームのシステムを組み合わせる
引いて守る岐阜、攻めきれない八戸
あえて八戸にボールを持たせる岐阜
対象試合:2020明治安田生命J3リーグ第32節 FC岐阜 1-0 ヴァンラーレ八戸

両チームのシステムを組み合わせる

岐阜のシステムは「4-4-2」の中盤がボックス型を採用しています。今季の基本的なシステムです。DF4人とMF4人がツーブロックを作ります。FWの2人は、八戸のGKまでボールを追う場合もありますが、すぐに帰陣してツーブロックの前に立ってパスコースを切りに行きます。攻撃に関しては、カウンター攻撃がメインです。八戸DFの背後にロングボールを出したり、八戸のウイングバック(WB)の後ろにボールを蹴ったりして、FWやMFを走らせます。一方ボールを細かくつないで、中央からワン・ツーで相手のギャップを突くような攻撃は、ほとんどありません。

対する八戸は「3-5-2」の3バックです。こちらもいつものシステムです。ただし、國分将がケガにより離脱したため、プレビューのコラムでも書いたように丸岡悟を右WBで起用しました。また、前田柊がセカンドストライカーで先発しました。中村太一でも秋吉泰佑ではなく前田を使ってきた理由は、守備を考えてでしょう。実際、センターハーフ(CH)の新井山祥智のポジションまで降りて、タッチラインを走る岐阜FW高崎寛之を追いかけていました。守備意識の高い前田を2列目に置くことで岐阜の攻撃を制御しようとしたのです。

システムを組み合わせると、次のことが見えてきます。

八戸の新井山がフリーになります。岐阜は新井山のポジションに制限を掛けるかを見ていたのですが、誰かをマンマーカーとして付けるようなことはしませんでした。したがって新井山は、右ストッパーの黒石貴哉と左WBの佐藤和樹が高い位置を取った場合に、左ストッパーの深井脩平のポジションに入って3バックを形成する役もこなします。相当に自由にプレーしていました。

八戸の現有戦力では、中2日の試合でもローテーションして使える選手は少ないため、コンディションが落ちている選手でも、連続して使わないとならない。それほど難しい環境にあります。

引いて守る岐阜、攻めきれない八戸

決勝点となった前半21分の川西翔太のゴールは、川西らしい決まり方でした。プレビューのコラムで注目の選手として川西を挙げた理由は、あのようなプレーを何度も見ていたからです。今季の川西は「そこにいたら」というポジションにいて、不思議とボールが彼にやってきます。この試合の得点も、CKから蹴られたボールが選手に当たって弾かれたところに川西がいました。「そこにいたら」の「そこ」に川西はポジショニングしているのです。

八戸にとって、この失点は防ぎようがありません。事故の類い。ゾーンで守る八戸には、起こりうる出来事です。しかし、この失点によって、岐阜は戦い方をはっきりとさせます。

戦う前に予想した「岐阜は最初から攻撃にパワーを掛けてくる」は違っていました。岐阜は、前がかりになってきませんでした。前線に人数を掛けて八戸に圧力を強烈には掛けなかった。人数を掛けて攻めた結果、八戸のカウンターで失点を喫するよりは、冷静な試合運びを選択し、チャンスの時だけ一気に攻めようとしたのです。そしてセットプレーから得点した岐阜は、引いて守ってカウンターに徹します。

あえて八戸にボールを持たせる岐阜

引いた相手から得点を奪うことは至難の業です。どんな強力なチームでも、相手を崩すことは本当に難しい。サッカーの攻撃における永遠のテーマだと言えます。そうした中でも、相手を崩せるいくつかのやり方があります。後半アディショナルタイム、高見啓太は岐阜のゴールラインまで持ち込み、ペナルティエリア中央にマイナスのパスをグラウンダーで出しました。そのボールに安藤翼が走り込んでシュートを打ちます。岐阜DFにいったん当たってGKパク ソンスに弾かれます。

引いて守ると何が起こるのか?DFとGKの間のスペースが狭まるのです。つまり「裏」を取られる確率が低くなります。裏にボールを出しても、DFやGKにクリアされてしまう。そこで、ゴールラインまでボールを持ち込んでマイナスにパスを出すことでチャンスを作るのです。相手DFが下がって裏をケアしようとしても、DFにとっては下がりながら自分の前にいる相手選手を意識して、背後からくるボールをケアすることは難しいのです。

岐阜は新井山がフリーでもケアしなかったことには、はっきりとした理由があります。新井山が前を向いてボールを持ったとしても、早く帰陣してブロックを作った方が良いと考えた。1人の選手をケアするためにブロックを崩すよりは、あえて相手にボールを持たせ、攻めさせることでピッチの中の時間と空間を自分たちで制御できると考えた結果だと思われます。

1-0でしたが、とても見応えのある試合だと思いました。八戸は、ここまでチーム力を上げてきたことは、ものすごいと感じます。サッカーになっていなかったシーズン前半戦から、よくここまで立て直してきた。これも葛野昌宏コーチの力量でしょう。それと、プロフェッショナルであろうする選手たちの意地だと想像します。

この試合からは、岐阜の強さが分かりました。八戸がボールをポゼッションしていた試合なのではなく、岐阜にボールを持たされてポゼッションさせられていた試合だったのです。

川本梅花

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