川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】#ヴァンラーレ八戸 の攻撃について…シーズン前半戦を総括【コラム】

【コラム】ヴァンラーレ八戸のシーズン前半戦について-八戸の攻撃を語る-

2021年7月10日に明治安田生命J3リーグ第15節を終えたヴァンラーレ八戸は、5勝5分け4敗の勝点20。J3全15チーム中の8位は、大健闘と言えます。直近5試合は2勝2分け1敗と、チームがまとまってきたことを示しています。そのためシーズン再開までの1カ月間の空白はもったいない気がします。

八戸は、基本的に2つの戦い方を指向しています。

  1. ダイレクトサッカー
  2. サイドから相手を崩す

ダイレクトサッカーとは、ダイレクトパスでボールをゴールまで運ぶサッカーではありません。ダイレクトパスやワンタッチパスではなく、ダイレクトにゴールを目指すサッカーのことです。このサイトの戦術コラム「1日1回読むだけで身につくサッカーの見方の基礎知識」で以前説明しましたが、サッカーの分析方法の王道として、試合を4つのフェーズに分ける考え方があります。このやり方は、セリエAなどヨーロッパのクラブチームで働くアナリストも採用しています。

私自身は、友人で今治FCのアカデミー・メソッドU18監督を務める林雅人氏から教授されました。彼がオランダサッカー協会公認1級ライセンスを日本人で初めて取得して帰国した時に、私の家で録画した海外の試合を一緒に見ながら、サッカー分析について詳しく話してもらいました。私のサッカーの分析方法は、林氏から得たものがほとんどです。

話が逸れました。以下に記した図は、林氏から教授されたものです。

サッカーは相手チームよりも「ボール」をゴールに入れて勝ち負けを決めるスポーツです。そのためボールは「ゴールを奪う権利」を示す道具と言えます。ボールを持っていないと得点を奪えません。

そのチームがどんな攻撃のやり方をしているかを知りたいならば、上の図の「攻撃の局面」を見ればいいのです。まず「相手からボールを奪った時」にどんな選択をするか。ボールを落ち着かせ、バックパスや横パスで数的優位を作ろうとしたならば、「ポゼッション指向」だと言えます。

八戸の場合、相手からボールを奪った選手は、最初に相手ゴールに近い位置にいる味方の選手を探します。その選手がサイドにいて相手選手の裏を取れそうならば、ミドルパスやロングパスを蹴ってサイドにいる味方を走らせます。あるいは、バイタルエリア付近のピッチの真ん中でクサビになりそうな味方がいれば、縦パスをその選手目掛けて蹴り込みます。こうしたやり方を考慮すれば、八戸はダイレクトサッカーを指向していることが分かります。ゴールを奪うための最適なやり方を選択して実行する。これがダイレクトサッカーです。

次に、八戸が「ボールをキープしている時」を見てみましょう。上記は「相手からボールを奪った瞬間」にどうやって攻撃を仕掛けるのかにスポットを当てました。八戸がボールをキープしている局面とは、どんな場面でしょうか?

相手からボールを奪って「さあ攻めよう」となった時に、相手がすばやくリトリートして自陣に戻ったならば、どんな状況になるでしょう。相手の裏のスペースを取ろうにも相手の最終ラインが低いのでスペースがない状況が想像されます。つまり、相手GKと相手DFの距離が狭まって裏を取るスペースがないことになります。

そうなった場合、八戸は「ボールポゼッション」してボールを横に後ろに縦に回しながら、相手のスキを作っていくしかありません。ポゼッションは「所有」や「占有」という意味です。ボールを所有するサッカーが「ポゼッションサッカー」になります。このやり方の目的は、ボール持って動かして「数的優位」を作ることです。数的優位を作るには、ボールを失わずに動かし続けなければなりません。ボールが動くと同時に相手も動くので、ポジションにズレがでてきて、スキが生まれてきます。「ズレ」と「スキ」を作るために、最も有効なのが「サイドからの崩し」になります。右サイドから逆サイドの左に大きくボールを動かすのもいいでしょうし、早いパス回をしていったんセンターフォワードにクサビを入れてから、サイドにボールを送ってそれを受けた選手が、ペナルティエリアに入ってクロスを上げるなどの崩し方ができます。

八戸の葛野昌宏監督がJFLのラインメール青森FCで指揮を執っていた時、「イエローゾーン」という用語を好んで使っていました。イエローゾーンとは、ゴールライン近くの場所を指しています。ゴールライン近くまでボールを運んで、そこからマイナスのパスをゴールエリアに入れてくる。DFにとっては、自分の後ろからボールがくるので、相手とボールを同時に視野に入れて守ることが難しく、得点の可能性が高くなるのです。八戸の監督になってから「イエローゾーン」という用語を使っているのかは分かりませんが、サイドからの攻撃は得点を奪えるチャンスが増えることは間違いありません。

サポーターが、八戸の試合を見る時に、ボールを相手から奪ったらどんな攻撃をしているのかに、まずは注目してください。次に、八戸がボールを持って動かしている時間が長くなっている時に、どんな攻撃へスイッチするのかを注視してください。

私の分析は、八戸はボールを奪ったなら「ダイレクトサッカー」を指向して、ボールを持つ時間が増えてきたなら「サイド攻撃」を指向するものです。

川本梅花

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