川本梅花 フットボールタクティクス

【無料記事】U-24日本代表についての雑感(2)【コラム】日本人が監督をする代表は、なぜ似たような戦い方をするのか?

【コラム】U-24日本代表についての雑感(2)日本人が監督をする代表は、なぜ似たような戦い方をするのか?

こんな発言には少し飽きてきました。日本人監督や日本サッカーのマイナス点を述べて、それがあたかも正論でもあるかのように述べるのは。確かにリスクマネジメントは必要ですが、どうして監督がその選択をしたのかを少し考えてみませんか。選手交代枠を使い切らないから、交代策がなっていないという詭弁をやめませんか。ポゼッション率が低いから、これからの戦いを危惧するという妄想はやめませんか。逆に、交代枠を全て使い切る監督が、ベストな選択をすると言い切れる根拠はなんですか。また、ポゼッション率が高ければ試合に勝てると思われる根拠はなんですか。全ては状況によっての選択の結果でしかありません。その監督の選択は、どうして取られたのかを考える方が建設的だと思いませんか。

日本人監督は、なぜ、似たような戦い方をするのか

U-24日本代表の戦い方は、ボール保持にはこだわらないサッカーだと言えます。前線からのハイプレスと相手からボールを奪ったらダイレクトにゴールへと向かうサッカーをします。「このチームでどんなサッカーをしたいのか」という選択は、監督の指向の問題だと捉えることができます。ずっと思っていたことなのですが、近年、日本人監督が指揮を執った日本代表のサッカーは、そんなに違いがないのではないのかとの疑問です。当然、日本の文化の中で生活してきた日本人が思考するサッカーの指向は似ているのかもしれません。

岡田 武史元監督も西野 朗前監督も森保 一現監督も、基本的な戦いは、前線の選手が高い位置からプレスに行ってダイレクトにゴールに向かうサッカーを指向しています。それも、岡田氏や西野氏よりもポゼッションには全くこだわらず、相手からボールを奪ったらダイレクトにボールをゴールに運ぼうとします。森保監督が指揮する代表の「攻撃の起点」は、遠藤 航が左右のサイドにボールを振り分けて、サイドからのクロスや中央にスライドしながらのシュートなどが見られます。これが、基本の得点パターンです。攻撃に関するパターンは、日本人以外の人が監督をしてもそんなに変わりません。まあ、サッカーの得点パターンの基本がそうした攻撃にあるからでしょうが。

しかし、守備面を見れば、あきらかな違いがあります。アルベルト ザッケローニ元監督、ハビエル アギーレ元監督、ヴァヒド ハリルホジッチ元監督も、前線からのハイプレスを選択しませんでした。状況によっては、選択した場面もあったでしょうが、前線の選手は、相手のパスコースを切る守備をするやり方をさせていました。もちろん日本人の監督が「相手のパスコースを切る守備をさせていない」ということではありません。日本人の監督ほど、前線からのハイプレスをやらせていませんでした。そこが、日本人監督と日本人以外の監督の大きな差であり、別のサッカーだと思わせるところなのでしょう。

少なくとも、僕には、全く違うサッカーに映っています。この守備のやり方の違いに、日本人が思考するサッカーと欧米人が思考するサッカーの差異があるのではないかと思われます。その違いは、はっきりしています。フィジカルの違いに還元できます。日本人の監督は、日本人のフィジカルの強度を知っています。欧米の選手に比べるとどうしても劣ってしまう。そうしたフィジカルの部分を克服するために、前線からハイプレスを仕掛ける。なぜならば、相手が来るのを受ける守備よりも、自分たちから相手に行く守備の方が、フィジカルでそれほど劣勢になることがないからです。日韓共催W杯の時のフィリップ トルシエ元監督が「日本には守備の文化がない」と発言した意図は、「相手の勢いを受けて守備をする」ような文化が日本にはない、ということだったのかと思われます。

また精神面を考慮したなら「献身さ」が挙げられます。日本人が試合で見せるハイプレスを欧米人にやらせても、日本人ほどには全員がボールを追うかどうか分かりません。また、メキシコ戦で見せたハイプレスをこの前の欧州選手権でやっていた国はありませんでした。おそらく、サッカー戦術として選択肢にあの守備のやり方はないのです。でも、日本人は献身的にやり切ろうとします。「組織的」の「組織」の捉え方が違うのでしょう。日本人と欧米人という二項対立的な論証も今はどうかと思いますが……サッカーにおける組織的とは、勝利という共通の目的のために、選手全員が一定の秩序をもって組み立てる様子になります。日本人も欧米人も「組織的」な意味は同じです。もしそこに違いがあるとすれば、組織の中で「個」を立てようとするのか、どうかにあるのではないでしょうか。

しかし、欧州サッカーシーンで活躍する日本代表の選手も増えてきて、「個」に対する考え方が、以前とは違ってきているように感じています。はっきりした違いは、以前ならばパスを選択しようとして味方を探す場面が、迷いなくシュートを選択する場面になったからです。昔から代表のサッカーを見ている人なら感じると思うのですが、シュートを打てる場面でも打たずにパスの選択肢を探すようなプレーから、自分の技術で相手をかわしてシュートする場面を作れるようになるまで、本当に長い年月がかかってきたのです。僕がそう思うのですから、先輩方はもっと感じているはずです。例えば、僕が尊敬する方の意見がそうです。

日本人が考える日本人のサッカーは、岡田武史時代から継承されて森保監督で完成させつつあるのだ、と僕はU-24日本代表を見て、そう思います。ただし、それで良いのかどうかは、この大会の結果が示してくれるでしょう。

川本梅花

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