川本梅花 フットボールタクティクス

【試合分析】両監督の交代策が勝敗の分かれ道になった…U-24日本代表 0●1 U-24スペイン代表【無料記事】#ラインメール青森 アカデミーダイレクター #堀江哲弘

両監督の交代策が勝敗の分かれ道になった…U-24日本代表 0●1 U-24スペイン代表

2021年8月3日にU-24日本代表対U-24スペイン代表が行われた。東京五輪男子サッカーノックアウトステージ準決勝に勝ち進んだ両チームの試合は、延長の115分にゴールを許した日本が、あと一歩のところで金メダルへの挑戦権を逃した。

注目された大一番を、スペインで指導者ライセンスを持ってジュニアユースの監督をして、帰国後にラインメール青森FCのアカデミーダイレクターを務めている堀江哲弘氏に、気になるポイントを話してもらった。

日本とスペインの差はどこにあるのか?

――このい試合、日本が「よくやった」の一言だね。ただスペインを追い越す日は来るのかね。距離を縮めるには、何が必要なんだろう。

堀江 お金が全てだとは思わないですが、ぺドリ ゴンザレス選手1人の年俸で、U-24日本代表の選手全員の年俸が払えてしまう。現実的にはそうなので、冷静に考えたら……日本はよくやったと思います。控え選手も含めて選手層の厚さはどうにもなりません。日本とスペインの一番の違いは、競争環境の差ではないんでしょうね。日本での育成からの環境を見直さないと距離は縮まらないという話です。Japan’s wayなんて言わないで、欧州やスペインが100年掛けて作り上げてきた環境をもっと見習った方がいいというのが、日本の現場で仕事をしている僕の実感です。

――日本は、なぜ得点できなかったのだろう?

堀江 相手にボールを持たれて日本がボールを持てない状況になっています。その際に少ない人数で攻撃することしか手を持っていないことです。久保 建英選手や堂安 律選手を絡めてのカウンター狙いと、旗手 怜央選手の3人で攻撃していくパターンだったので、攻撃に掛ける人数が少なすぎましたね。

最後は疲れてしまって、足が止まってしまったことが敗因です。日本が走り負けしたという問題ではないです。スペインも疲れが出てきて、後半になって日本がいい感じでボールを回せる時間帯がありました。そこで、うまく仕留めれば、勝機を導けたと思います。

無理やりプレスに行く林大地と全くプレスに行かない上田綺世

――上田 綺世は試合から消えてしまっていたね。

堀江 コンディション不良とか、攻め残るように指示されていたかもしれないですが、それにしても、もうちょっとプレスに参加してくれないと、後ろの選手は、あれではキツかったと思います。上田選手は、ボールをもらえないのでズルズル下がってしまう。それにつられて久保選手も下がってしまう。林 大地選手がピッチにいた時は、センターサークルから敵陣に入ってプレスを掛けていた。でも、上田選手が入ってからは、全くプレスが掛かっていない。交代した林選手の方が走っていたので、最初「これは作戦なのか?」と思ったくらいです。

――上田がプレスに行かないので、最終ラインを上げられなくなり、DFとMFの2ラインになって「4-5」で守る形になった。前半と守備体系が変わってしまったよね。

堀江 3枚のラインではなく2枚のラインになって、選手間が開いて絞れないポジショニングをしたまま守備に入っているので、スペインとしたあの形は大好物ですよ。あの交代で、状況が変わってしまいました。

――林は逆に、プレスに行きすぎる場面があったね。

堀江 スペインの1トップ、ラファ ミル選手のプレーを見てほしいです。取れないボールと判断したら無理にプレスへ行きません。林選手は、取れないと分かっていてもプレスにい行く。100パーセント頑張って走って一生懸命やっていることは分かります。でも、もうちょっとプレスに行く方向とか、力の入れ方とか、サイドに追い込むやり方とかを考えれば、もっと良くなると思います。ラファ ミル選手は、GKまでボールが下がると追わないですが、林選手はそこまで行ってしまう。前半の最後の場面で、日本のセンターバック(CB)が疲れてアングルを作れなかった場面がありました。その瞬間だけ100パーセント全力でプレスを掛けていた。「ここで行く」という時と、「ここは行かない」という時との判断が素晴らしい。林選手は、あれだけ走れるのですから、もっと賢くやれば、もっと良くなるんだけどなと思っていました。スペインのボール回しがうまいなら、無理やり行く必要はない。無理にプレスに行くことで、中盤が空くこともありますから。後ろの選手と連動していれば問題ない。その判断力を身につけてほしいと思いました。

勝負を分けたポイントは何か?

――勝負を分けたポイントは何だと思う?

堀江 ぺドリ選手をベンチに下げたタイミングです。84分に、ぺドリ選手とマルコ アセンシオ選手が交代した場面ですね。スペインは、ぺドリ選手がピッチからいなくなると、中盤で真ん中から正面を向いてパスを出せる選手がいなくなります。そうするとサイドにボールを渡してサイドから攻撃する展開になります。ルイス デラ フエンテ監督もそれが分かっていて、疲れて動きが落ちたぺドリ選手とアセンシオ選手を代えたのだと思います。監督が「賭けに出た場面」でしたね。結果的に、その賭けに勝ったことになります。中央よりサイドの方が日本のプレスが弱くなると考えて、サイドでのアセンシオン選手のプレーに賭けたのでしょう。

――日本の森保 一監督は2枚替えをしてきたね。

堀江 堂安選手と久保選手を延長戦頭から2枚替えしてきましたね。あそこは森保監督が勝負に出た交代策だったと思います。三好 康児選手と前田 大然選手のような、前からプレスに行ける選手を入れました。実際、チャンスは何度か作ったのですが、決定機をものにするまでには至りませんでした。結果論ですが、決定機を実現するために堂安選手は残しておいても良かったと思います。「ああであれば、こうであれば」なんですが、堂安選手ならばチャンスの時でも、落ち着いてプレーしていたと感じますね。

スペインが早めに交代のカードを切ったのは、選手の疲労度を考えて90分間で試合を終わらせたかったからでしょう。結局、両監督の交代策が勝敗の分かれ道になったと感じます。

――日本チームはどう見えた?

堀江 日本は、選手に任せて監督はそんなに介入していないように見えました。どう連係するかは、選手に委ねている印象です。実は、守り方は監督が一番介入しやすい。交通整理しやすいと言えばいいのか。スペインは、監督がボードを使って「こうなったらこうやってほしい」と伝えれば、すぐに選手ができてしまう。監督の伝えたことを実戦で実現してしまう。そうした力が選手にはあるんです。

日本の場合、林選手のプレスのやり方を見れば分かるのですが、おそらく「プレスに行くように」とは伝えている。でも「GKまで行け」とは言ってないと思います。これは、あくまで推測ですが……。森保監督が伝えたいことが、きちんと選手に伝わっていないと思えたプレーが何カ所かありました。ただ、このまま行っても間違いないと思います。守備で調整しないとならないところはありますが、選手がやりにくそうにしている雰囲気はなかったですから。

――最後に何か気になったことはある?

堀江 ぺドリ選手のすごさが、日本ではあまり伝わってないと思います。リオネル メッシ選手やクリスティアーノ ロナウド選手のような早くてシュートを決める選手の情報は伝わっていますよね。ぺドリ選手が、なぜ世界での評価が高いのか。そこに注目すべきでしょう。彼のプレーは、周りをコントロールできてしまうことです。ボールを持った選手が前を向いた瞬間に、攻撃の選手はスイッチが入る。普通なら前を向けない状況や、横を向いてしかパスを出せない状況でも、彼は簡単にボールを扱って前を向ける。例えば、後ろから来たボールを前向きにコントロールして右サイドバック(SB)のオーバーラップに合わせてパスを出せてしまう。それがツータッチでできる。ぺドリ選手がピッチに入ると、完全に試合をコントロールできる。そうしたプレーヤーのすごさは、もっと注目されてもいいと感じました。

川本梅花

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