川本梅花 フットボールタクティクス

【レビュー】南部ダービー敗戦のショックから早く気持ちを切り替えろ!【無料記事】J3第16節 #いわてグルージャ盛岡 3-2 #ヴァンラーレ八戸

【レビュー】「南部ダービー」敗戦のショックから早く気持ちを切り替えろ!

明治安田生命J3リーグ第16節、いわてグルージャ盛岡対ヴァンラーレ八戸戦が、8月28日にいわぎんスタジアムで行われました。結果は2-3で、八戸の黒星に終わります。

気の利いたプレーをする前澤甲気とヘディングが強い赤松秀哉

中断期間明けの試合を勝利で飾ることができなかった八戸ですが、この敗戦を引きずらないようにしないといけません。勝つ試合もあれば、負ける試合もあります。ただし、負けるには負けるような理由がきちんと存在します。そこをスルーしては、次の試合へ向けた教訓になりません。何が良くて何がマズかったのかを検証します。

フォーメーションは、両チームともに「3-4-2-1」で3バックシステムを採用しています。同じシステム同士の戦いは、いわゆる「ミラーゲーム」と呼ばれるものです。同じシステムを組み合わせると、それぞれのポジションでマッチアップ状態になります。したがって、どこかのポジションで「ズレ」を作っていかないと、攻撃するスペースが生まれないのです。八戸の場合、その「ズレ」を作ろうと積極的に動いていたのは、セカンドトップ(ST=シャドーストライカー)にいた前澤 甲気です。

前澤は、左のSTにいたのですが、ピッチの中央にポジションを移動して、DFやセンターハーフ(CH)のボールを受けて左右に振っていきまます。岩手の選手は、前澤に引っ張られてポジションを移動します。左サイドのポジションにスペースができて、攻撃の機会を作っていきます。とにかく、前澤は、気の利いたプレーをする選手です。

51分の八戸の2点目となった赤松 秀哉のヘディングですが、彼のフィジカルの強さとタイミングが合ったゴールです。また、左ウイングバック(WB)でキッカーを務めた佐藤 和樹のボールと、岩手の守備システムの弱点を突いた得点でもあります。岩手は、完全ゾーンで守ります。ヘディングに強い相手選手に誰かが「付く」のではなく、岩手選手がGKの前に横に並んで蹴られたボールをクリアするやり方です。この守備の場合、味方と味方の間に相手選手が入ってきた時、得点になるケースが多いのです。この場合は、岩手の選手の間にGK野澤 大志ブランドンがボールをクリアしようと入ってきて、味方同士が重なってしまって、後ろのいた赤松にボールが届いた構造になっています。ゾーンで守っている場合には、よくある失点ですが、それにして八戸のセットプレーからのゴールは、大きな得点源になっています。トレーニングで反復された結果でしょう。

岩手の逆転弾は どうして生まれたのか

79分、加々美 登生に決勝ゴールを決められますが、この失点には複数の課題、メンタル面や戦術面、個人の判断が挙げられます。メンタル面については、後半の51分に逆転した八戸が、ここから急に守りに入ってしまいます。守りに入るのは悪いことではないのですが、時間的ちょっと早すぎる気がします。

八戸の前線の選手は、岩手のDFがハーフウェーラインを越えるまでプレスに行きません。ボールを奪う守備ではなく、パスコースを切る守備を選択します。そうすると、岩手のポゼッション率が上がって、八戸は最終ラインを上げられなくなって、守備に時間を割くことになります。攻撃するよりも守備する方が体力を消耗するので、八戸の選手たちの動きが鈍ってきます。見ていて明らかに動きが落ちたのは新井山 祥智です。結果論ですが、相田 勇樹が74分に交代された場面で、私は新井山を交代させるのかと思っていました。

メンタル面については、逆転した後の時間で、守りに入った守備をしてしまったことです。このまま2-1で守り切ろうという心理面の現れだったのではないかと思われます。前線からのプレスを放棄した戦術は、ベンチの指示だったのか、それとも必然的に選手が守りに入ってしまったゆえの選択だったのか。これは、インタビューしないと分からないことです。ただ、事実として、ピッチでは逆転してから相手がボールを持って守備の時間帯が増えたことが挙げられます。

個人の判断についてですが、右サイドから縦に切り込むビスマルクがペナルティエリアに入ってきた時に、ビスマルクの動きを察して中村 太一が急いでケアしに近づきます。ビスマルクがボールを持ってクロスを入れようとうかがう際に、八戸のDF3人に岩手が2人で攻めてきて、3対2で八戸が数的優位でした。ビスマルクには近石 哲平が「付いて」いました。ここも結果論ですが、もし中村がポジションを空けなければ、得点者の加々美に「付いて」いたのではないのか。また、中村がビスマルクに「ケア」したならば、新井山が全力で戻って加々美をケアできたのではないのか。しかし、体力を消耗している新井山には、あの時間帯での戻りは無理なのかもしれません。

個人の判断は、本当に難しい。一瞬で動きを決断してプレーしないとならないからです。こうして、結果論だといろいろ見えてくるのですが、選手はそれがベストの選択だと考えてプレーするので、この敗戦について気持ちを切り替えて、次の試合に臨んでほしいのです。

やりくり上手な葛野昌宏監督の悩み

八戸の戦力からすれば、葛野 昌宏監督は相当にやりくり上手だと思います。例えば佐藤と小牧 成亘を加入させて、すぐにゲームに使いました。DFでは、彼らのほか、伊勢 歩や廣瀬 智行など試合に起用できる選手が現れてきました。中盤では、相田や丸岡 悟、丹羽 一陽などの若手を積極的に起用してきました。しかし、監督の悩みを想像するならば、FWのコマ不足が否めません。島田 拓海(8月29日、全治4週間の負傷と発表)のように、相手DFの裏に抜けるプレーをする選手がいない。ポストプレーを期待される岡 佳樹とシュートがうまいオールラウンダーの上形 洋介は、スルーパスに合わせる走れる選手ではないのです。

岩手戦では、島田の欠場が惜しまれました。裏に抜け出すFWが島田しかいないことは、今後の戦いの選択を狭めてしまうことになります。どんな戦い方で、こうしたコマ不足を乗り切っていくのか。監督がどんな手でこの状況を克服するのか、じっと見守っていくしかありません。

川本梅花

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