【サッカーコラム】セサル ルイス メノッティ(元アルゼンチン代表監督)
【サッカーコラム】
■セサル ルイス メノッティの談話
ヒポクラテスによれば、医学しか知らない者は、医学について何も知らないのと同じだ。そして、サッカーしか知らない者は、サッカーについて何も分かっていないのだよ。
1938年11月5日生のメノッティ氏は、1978年に開催されたワールドカップ・アルゼンチン大会で、母国・アルゼンチン代表をW杯初優勝に導いた名将です。アルゼンチンには、サッカーの戦い方において2つの流派がありました。攻撃的な戦い方を好んだメノッティ氏は、守備的な戦い方を好んだカルロス ビラルド氏(1939年3月16日生)としばしば比較されます。
ビラルド氏は1986年のW杯メキシコ大会で全盛期のディエゴ アルマンド マラドーナ(1960年10月30日-2020年11月25日)を起用してアルゼンチンに栄冠をもたらしました。両者は相反する思考から、犬猿の仲と伝えられてきました。
さて、メノッティ氏の最近のお気に入りは、現在マンチェスター・シティ(イングランド)を率いるペップ グアルディオラ監督(1971年1月18日生/スペイン出身)のようです。上記の談話は2013年、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)の監督にペップ氏が就任する際、『ズュート・ドイチェ・ツァイトゥング』紙に語ったものです。記事の冒頭、メノッティ氏は次のように話を切り出します。
彼(ペップ)は、自分のオーケストラがどのように響かなければならないのかというイメージを持っている。監督にとって勝利のみが目的ならば、それは難しいだろう。さらに彼は、ほかのチームが持たない確かな考えを選手たちに植え付けたようだ。規則から抜け出し、冒険するための大きな自由があるということだ。
さらに「彼が愛しているのはサッカーだけではない」と述べると、古代ギリシャの医者で「医学の父」と呼ばれるヒポクラテス(紀元前460年頃~380年頃)を取り上げ、比喩表現をもってベップ監督の知性をたたえます。メノッティ氏は「ペップがもしサッカーしか知らないサッカー人だったら、あのような知的な戦術を配することはできないだろう」と続けます。
アフォリスト(箴言者)のメノッティ氏は、いくつもの「賢者の言葉」を述べています。
サッカーが進歩するのではない。サッカーをする人間が進歩するのだ。
以下の発言は解釈が分かれます。
フォーメーションなど、電話番号のようなものだ。
この言葉をもって「フォーメーションは数字の配列なので重要ではない」と発言する人がいます。しかしメノッティ氏は「重要ではない」とは言っていません。事実、電話番号には意味があり、特定の電話(人物)と連絡する役割を持っています。
確かにフォーメーションだけでは、単なる数字の配列ですが、そこには戦うための装置である「システム」が介入します。そしてシステムには与えられたポジションがあり、それぞれ役割があります。その役割は選手の「質」によって変わってくるのです。
メノッティ氏の談話には、比喩表現にあふれた物事の深淵を語ったアフォリズムが見られます。