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【レビュー】あまりにも薄いカウンター攻撃に対する意識【無料記事】J3 第19節 #ヴァンラーレ八戸 0-1 カターレ富山

【レビュー】あまりにも薄いカウンター攻撃に対する意識

明治安田生命J3リーグ第19節 ヴァンラーレ八戸 0-1 カターレ富山

目次

中心選手としての存在感を放つ相田勇樹
あまりにも薄いカウンター攻撃に対する意識
失点シーンで見られた2つの誤謬

明治安田生命J3リーグ第19節、ヴァンラーレ八戸対カターレ富山が10月6日にプライフーズスタジアムで行われた。八戸は9月17日にトップチーム選手2名から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)陽性反応が出たと発表。翌日、直近開催予定だったカターレ富山戦の中止を発表していたが、その代替え試合がこの日に当てられる。八戸は前節(J3第21節)のアスルクラロ沼津戦から公式戦を再開させるも2-7の大敗。一方の富山は前節、福島ユナイテッドFCに3-1で勝利を収めている。

中心選手としての存在感を放つ相田勇樹

この日の試合は、新型コロナウイルスによる活動停止の影響からコンディション面に不安のある八戸が、昇格争いを繰り広げる富山に黒星を喫する結果となる。八戸の戦い方についてはある程度予想できていたものの、見ていて強い不満を感じた。両チームのフォーメーションを組み合わせると以下の図になる。八戸も富山も共に「3-5-2」のミラーゲームとなった。八戸は富山のシステムに合わせて1トップを2トップに替えている。


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富山は、八戸の選手がボールを持つと、すぐに圧力をかけて潰しにくる。八戸の選手たちは、プレーしていて窮屈だったに違いない。八戸の攻撃の基軸は右サイドに置かれる。右WBに相田 勇樹がいることで、ボールは自然と右サイドで展開されるからだ。82分に相田が前線へ上がっていく途中、富山の選手がボールを奪い、ドリブルでサイドを駆け上がろうとする。この時に相田は自陣深くから全速力で戻り、相手選手に追いついてドリブルを止め、ボールを後方に戻させた。相田が八戸の中心選手になっている事実を目の当たりにした瞬間だ。試合終盤にもかかわらず全力で戻れるスタミナと強固なメンタル。ルーキーとは思えない落ち着きように大きな可能性を見た。

あまりにも薄いカウンター攻撃に対する意識

八戸の守備は整備されており「しっかりと引いて守って」の形は作られていた。しかし引いて守ってからのカウンターの準備がされていない。ここは疑問に思う。はっきりと攻撃の意図が感じられたのは、84分に見せたプレーだけだった。タッチラインに張っていた相田にボールが渡る。FW岡 佳樹に強めのパスが入る。岡はダイレクトにサイドスペースのゴールライン近くにボールを送る。そこに丸岡 悟が走り込んでマイナス方向にグラウンダーのパスを出す。FW上形 洋介が中央から走る込んでシュートを打つ。上形はフリーだったものの、ボールはゴールのバーを高く超えていく。

この攻撃こそ、葛野 昌宏監督が「サイドからの攻撃」と言った時のプレーだと思われる。それは右SP赤松 秀哉から相田にボールが渡って岡と丸岡の4人しかボールに触れておらず、「ボールを奪ってからどれだけ手数をかけないで素早くシュートまで行けるか」というカウンターの命題を果たしていることから分かる。最もモダンなカウンターにおいては、ボールを奪ってから「3秒以内に相手ゴールに迫れるのか」が重要となる。それが無理だとしても、攻撃のスイッチが入ったら手数をかけずにゴールへ迫ることが鉄則なのだ。

葛野監督がラインメール青森FCの監督をしていた時「イエローゾーン」というテクニカルタームを用い、ゴールライン近くまでボールを運んでからのクロスを徹底させていた。八戸の選手たちは、そうしたカウンター攻撃の理解が薄いように見えてしまう。あるいは守備を整えることに時間を割き、攻撃のトレーニングが十分にできていないのであろうか。

八戸が相手を崩して得点を奪う形は、84分に見せた攻撃のやり方以外にイメージがわかない。ボールを奪ってから攻撃に転じるための時間をもっと短くする。これを徹底的に反復していくしかない。

失点シーンで見られた2つの誤謬

富山は右SP今瀬 淳也がサイドにミドルパスを出す。そこに右WB音泉 翔眞が走り込んでクロスを上げる。そしてCHの姫野 宥弥が右足でダイレクトシュートを決める。後方で組み立て直してから今瀬にボールを渡して音泉がクロスを上げて姫野がゴールを決める。38分の得点は、今瀬から音泉を経由して姫野がシュートを決めるまで6秒しかかかっていない。この6秒の間に、八戸の守備には2つの誤謬があった。

1つは、左WB丹羽 一陽が今瀬にプレスしていないこと。結果、今瀬をフリーにしている。もっと詰めていくべきだった。もう1つは、CH坪井 一真が音泉をフリーにしてしまったことだ。

丹羽が今瀬に寄せていれば、坪井は音泉に付いていった可能性はあるものの、それでも音泉がクロスを入れた地点と坪井がスライディングした場所は、あまりにも離れ過ぎている。スライディングは守備の最終手段だが、相手との距離があれだけ離れていては全く意味を成さない。ああいうプレーをすると、守備ができない選手だと思われてしまうので、あまり印象も良くない。

厳しい発言になったが、丹羽も坪井もプロ1年目なので、仕方がない面はある。当然、失点は彼らだけの責任ではない。いま八戸が抱える大きな問題は、選手たちの取り組み方にある。試合を見ていて、どうしても他人任せという印象を持ってしまう。「誰かがやってくれるからいいだろう」「やることはやっている、やらないのが悪い」。こうした思考回路を11人のうちの1人でも持っているとしたら、チームが浮上することはない。

富山は6秒でゴールを決めている。この6秒間にどれだけ相手を自由にさせないか。つまりフリーでボールを持たせないようにさせるのか。八戸はトレーニング以外にもメンタル面での変革が必要とされている。

川本 梅花

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