川本梅花 フットボールタクティクス

【サッカーの見方:チームスタイル】ポジティブ・トランジションになった際、どうやってボールをつなぐのか?【無料記事】

トランジション(transition)という用語は、もともとサッカーの専門用語ではない。音楽では、「(一時的な)転調」を意味する。同じ球技スポーツのバスケットでは、戦術的な意味合いで「トランジション」を「切り替え」という意味で用いる。「トランジション」そのものの意味は、「移り変わり」「変わり目」になる。サッカーでは、バスケットと同じ意味合いで、「切り替えること」を指す。何について「切り替える」のか? それは、「攻撃から守備」と「守備から攻撃」の切り替えのことになる。

攻撃から守備への切り替えを「ネガティブ ・トランジション」と言う。

守備から攻撃への切り替えを「ポジティブ・トランジション」と呼ぶ。

「攻守の切り替え」「守攻の切り替え」のことを、形容詞の「ネガティブ(negative)」と「ポジティブ(positive)」とを、名詞の「トランジション」に組み合わせて専門用語にした。

以下の図を見てもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この図には、「4つのフェーズ」がある。「フェーズ」は「局面」を意味する。もともとこの用語は、ビジネス用語として用いられる。フェーズを使った例文を見てみよう。

例文:「この工程が完了したので、第2フェーズに移りたいと思います

つまり「フェーズ」とは、人に局面の状況を伝えるときに用いる用語になる。サッカー用語にすれば、「4つの局面の状況」のことになる。したがって、「4つのフェーズ」は次のようになる。

①ボールを持っている状況(ボールポゼッション)

②ボールを奪われたときの状況(攻撃から守備への切り替え=ネガティブ ・トランジション)

③相手がボールを持っている状況(被ボールポゼッション)

④相手からボールを奪ったときの状況(守備から攻撃への切り替え=ポジティブ・トランジション)

このコラムで問題にするのは、④の「相手からボールを奪ったときの状況」になる。すなわち、「ポジティブ・トランジション」を指す。そこで、タイトルにある「ポジティブ・トランジションになった際、どうやってボールをつなぐのか?」の答えを考えてみる。答えは単純で、2つのパターンが挙げられる。

①ポゼッションサッカー

ポゼッションサッカーは、人から人にボールをつなぐやり方を指向するサッカーだと言える。なぜ、ポゼッションをするのか? ポゼッションをすることで、自分たちがボールを持ってゲームの主導権を握れることが利点になる。ボールをゆっくりと近い距離の選手間で動かすことで、相手のスペースにスキを作る。そうしたら一気にスピードアップしてゴールを目指す。そして、ポゼッションの最大の目的は、数的優位を作って攻め上がることにある。

また、トータル フットボールの実践者ヨハン クライフの言葉を借りれば、「ボールを持っている限り、相手に攻められることはない」と言うように「攻撃は最大の防御になる」と言える。さらに、ボールを保持するということは、体力の消耗を防ぐ効果もある。なぜなら、守っている方が体力を消耗するからである。

②ダイレクトサッカー

ダイレクトサッカーとは、トラップを省略したワン・タッチプレーを示すことがあるが、この場合の「ダイレクト」は、直接的にゴールを目指してボールを運ぶことを指す。優先するべき選択は、ゴールへの最短距離だ。相手からボールを奪って2、3秒のうちにゴールへの最短距離を目指す。

ポゼッションサッカーは「人から人へボールを動かす」ことが原則になる。ダイレクトサッカーは、「人からスペースにボールを動かす」ことだと言える。得点が奪える最短ルートをアグレッシブに目指す。特に、FWやWGが斜めに飛び出せるスペースに、MFや DFが縦パスを供給して彼らを走らせる。

チームが「ポゼッションサッカー」志向なのか、「ダイレクトサッカー」志向なのかを見極めるには、相手からボールを奪ったらどうやってボールを処理するのかを見ればいい。つまり、「ポジティブ・トランジション」になった時を見逃してはならないのである。

川本梅花

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