川本梅花 フットボールタクティクス

FUJIFILM SUPER CUP 2022 川崎フロンターレ 0-2 浦和レッズ ー 深い最終ラインで守る浦和と深くサイドから崩す川崎Fー【無料記事】

目次
川崎Fの攻撃パターン
岩尾 憲によるコンダクターとしての真骨頂

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FUJIFILM SUPER CUP 2022の勝者を決めるために、2月12日に日産スタジアムで川崎フロンターレと浦和レッズが戦った。試合は、7分と81分に江坂 任がゴールを決め、2-0で浦和の勝利となった。

FUJIFILM SUPER CUP 2022 川崎F 0-2 浦和

川崎Fのフォーメーションは「4-3-3」で中盤が逆三角形を作る。浦和は「4-4-2」から「4-5-1」に変化して守備をする。後半の終盤に両チームは5バックを敷いている。

川崎Fの攻撃パターン

明治安田生命J1リーグの王者の川崎Fは、昨季と同様の戦い方をした。川崎Fの特徴は、タッチライン近くでトライアングルを作っての攻撃だ。この試合においても、選手同士が近い距離を保ってボール交換をしながらスペースを支配していった。15分過ぎから、川崎Fの最終ラインは、浦和陣内のセンターサークル先端を超えて圧力をかけてきた。それによって、浦和の最終ラインは、ペナルティマークの位置まで下がって守ることになった。おそらく浦和としたら、前線から激しくプレスに行って、最終ラインを前線の選手のプレスに合わせて高く押し上げたかったのだろう。しかし、川崎Fの攻撃の圧力に対して、深い位置に最終ラインを下げざるを得なかった。結果的に、深い最終ラインで守った浦和のやり方が勝利に結びついたことになる。

川崎Fは、サイドのトライアングルの距離感が近いので、相手にボールを奪われてもすぐにプレスバックに移れる。25分に、右サイドの家長 昭博からレアンドロ ダミアンにクロスが上がるシーンがある。家長にボールが渡るまでヒールキックなどでボール交換がされた。このやり取りに、川崎Fの選手の即興性とそれを支える個人スキルの高さがうかがえる。

25分に見られた、川崎Fの攻撃における基本パターンは以下になる。

  1. サイドバックをサイドラインに張らせる。
  2. ハーフスペースのバイタルエリアに侵入する。
  3. 「ポケット」の外側にボールを持っていく。
  4. 「ポケット」の内側からクロスを入れる。

「ポケット」とは、ペナルティエリアの縦の線あたりを示す。「ポケット」にボールを運ばれると、DFは必ずポジションを捨ててケアしにくる。相手DFを動かすことで、攻撃するスペースを作り出すのである。また、「ポケット」に侵入する選手は、外から内に入ってくることになる。この場面では、家長がインナーラップしてくる。DFが家長の動きにつられて早くポジションを開けると、川崎Fにスペースを与えることになる。つまり、「ポケット」にボールを運ばれたなら、DFは動きながら対処することになるので、クロスの対応も難しくなってくるのである。

この試合では、「ポケット」を基軸にした右サイドからの攻防が多かった。それは、左のWGで起用したチャナティップのプレーに関係している。後半になってからインサイドハーフで起用された。どこが彼の適正ポジションなのかを探っている段階なのだろう。マルシーニョの方が、左サイドの「ポケット」を活用した攻撃が多彩のように見える。したがって、チャナティップはインサイドハーフの方が適正ポジションに映った。

岩尾 憲によるコンダクターとしての真骨頂

リカルド ロドリゲス監督の試合後会見の際に、記者から「3人のボランチにはどのような指示を与えていたか」との質問があった。リカルド ロドリゲス監督は、「ディフェンスの役割としては、前から行くということでボランチ1枚を押し出して守っていくやり方をしていましたが、1人が出ていったらサイドの選手が絞る。今回でいうと左サイドに伊藤 敦樹がいましたが、うまくディフェンスでも大きな役目を果たしてくれたと思っています」と答えている。簡単に示せば、以下の図になる。川崎Fのビルドアップの際に、大島 僚太がボールをもらいに下がっていく。柴戸 海が前に出て大島にプレスをかける。柴戸と岩尾 憲の2人のセンターハーフだと、柴戸が大島にプレスに行くと、ジョアン シミッチと脇坂 泰斗に岩尾1人が対処することになる。脇坂からボールが出された際の、山根 視来と家長とのトライアングルは攻撃力が高いので、脇坂からのボールの出しどころを潰したい。そのために、伊藤が中に絞って3センターハーフになって対処する。以下の図は、分かりやすくするために、柴戸、岩尾、伊藤の3人の動きを当てている。

後半でのシフトチェンジ。明本がワントップの場合。関根と江坂が両サイドに開いて、伊藤が中に絞って3CHになる。

前半でのシフトチェンジ。江坂と明本2トップの場合。中央のライン上の選手がマンツーマンになっている。

試合の状況によって、やり方を変える監督の要求に選手が高いレベルで適合していた。その中心的な役割を担ったのが、徳島ヴォルティスから期限付き移籍をしていた岩尾である。彼は、川崎Fがビルドアップをして味方のFWが剥がされた後、川崎Fのボールホルダーにプレッシャーをかけてボールを奪うのがうまい。基本となるキックのうまさからボールの置き方、さらに困った局面を打開する展開力に優れる。徳島時代から守備に関しては定評があった選手だが、この試合でも、ポジショニングの正確さと身体を張ったプレスには見るものがあった。川崎に押し込まれて、意図しない最終ラインの深さを救ったのは、岩尾の冷静なプレーである。前半、後半を通して、試合の中で岩尾の動きを見ていると、オーケストラのコンダクターのように味方の動きを奏でさせている。守備から攻撃へのスイッチ切り替えの際に、ボールは岩尾を通して渡される。

浦和も川崎Fと同様に、リカルド ロドリゲス監督が求めていることは基本的に変わっていない。それは、「ハードワーク」の意味においてである。この試合での浦和は、相手への詰めの速さと攻守の切り替えの速さに「ハードワーク」が示された。昨季よりも、数秒早く動き出している。特に、岩尾の存在によって、柴戸の動きはチームに活力を与えていた。岩尾が後ろにいたので、思い切って前にプレスに行けていたのだろう。

いまの時点では、仕上がりは川崎Fよりも浦和の方が上だった。この試合を見ると、川崎Fも浦和も今季の優勝候補には間違いない。

川本梅花

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