川本梅花 フットボールタクティクス

ヴァンフォーレ甲府の悪条件下での大敗は、逆にチームをまとめるかもしれない?【試合分析】J2リーグ第1節 ファジアーノ岡山 4-1 ヴァンフォーレ甲府 【無料記事】

目次
チアゴ アウベスをあそこまで自由にさせてもいいのか?
GKからのビルドアップにこだわりすぎていないか?
悪条件下での大敗は、逆にチームをまとめるかもしれない?
明治安田生命J2リーグ第1節 ファジアーノ岡山 4-1 ヴァンフォーレ甲府

ヴァンフォーレ甲府は、ファジアーノ岡山との開幕戦に1-4で敗れた。この敗戦をどう考えたらいいのだろうか。42試合ある中のたかが1試合と捉えるのか。それともスタートダッシュを遮るかもしれない1試合と見るのか。実際のところ、開幕戦を見ただけでシーズンの結果を予測することはできない。特に甲府にとって、この岡山戦はコロナ禍の影響で主力選手が出場できない状況になってしまった。誰がスタメンであっても対応できるように、トレーニングから落とし込んでいたのだろうが、選手のメンタル面やコンディション面でのマイナス作用は計り知れない。開幕戦に向けて、スタッフや選手が心技体ひとつになって取り組んでいたところに、出場できない選手を何人も抱えてしまっては、はしごを途中で外された気持ちになってしまう。そうした苦難の状況を鑑みて、1-4という大敗の中に見られた疑問符を3つ挙げて論じたい。
省略記号一覧

2021年の最終節のフォーメーションとスタメン

まず、昨季最終節の甲府のメンバーを見てもらいたい。野津田 岳人(サンフレッチェ広島)、中村 亮太朗(鹿島アントラーズ)、メンデス(京都サンガF.C.)は移籍していったが、岡山戦では、彼ら3人のポジションに石川 俊輝、関口 正大、野澤 陸を起用した。大宮アルディージャから加入した石川、さらに昨季リーグ戦で1試合しか出場していない野澤を起用しないとならないほど、コロナ禍での台所事情は苦しかったようだ。

2022年の開幕戦のフォーメーションとスタメン

以上が開幕戦となった岡山戦のフォーメーションである。昨季の戦い方を継承してのシステムなのか、それとも今回のコロナ禍での影響を考慮して汎用性の高いシステムを選んだのだろうか。

両チームのフォーメーションを組み合わせた図

上の図が、両チームのフォーメーションを組み合わせた形である。甲府の「3-4-2-1」に対して、岡山は「4-3-3」の中央を逆三角形にしてきた。

フォーメーションの組み合わせから見えるマッチアップ

システム上の組み合わせで、それぞれの選手が対面する5カ所ある。円で囲んだ中で最も重要になったのは、甲府の右WB須貝 英大と岡山の左WGチアゴ アウベスの場面だ。また、岡山のアンカー本山 遥がフリーになれるポジションにいるが、甲府のFWウイリアン リラが下がってケアしていた。

チアゴ アウベスをあそこまで自由にさせてもいいのか?

チアゴ アウベスのスピードとパワーを見せられた出来事があった。21分、須貝にサイドチェンジされたボールが送られる。タッチラインのハーフウェーライン近くにいた須貝はヘディングでボールを中に入れる。しかし、ボールは岡山の選手に渡り、チアゴ アウベスに送られる。攻撃態勢に入っていた須貝は、向きを変えてチアゴ アウベスを追いかける。近くにいた石川もディフェンスに参加する。だが、追順しようとした須賀は、チアゴ アウベスに飛ばされてしまい転倒する。なんとかドリブルを止めようとした石川もかわされてしまう。チアゴ アウベスのクロスは、右SP浦上 仁騎の身体に当たってゴールラインを出ていく。

甲府の右サイドは、試合開始からチアゴ アウベスの動きに翻弄されていた。先に取り上げた21分のプレーを見れば、この試合のキーマンになるのはチアゴ アウベスだと予測はつく。転倒した須貝が、悔しがってピッチを拳で叩いていたが、その時点で、攻撃参加しながらチアゴ アウベスをケアする難しさを痛感していたはずだ。ここで、吉田 達磨監督は、何か対処してもよかった。

例えば、このようなやり方が想定される。チアゴ アウベスの動きを抑圧できるまで、左の荒木 翔に攻撃を担わせて、須貝にマンツーマンディフェンスをさせる。または、甲府のDFは3枚に対して、岡山のFWは3枚なので、数的同数になることを回避するために、最終ラインを4枚にして4バックにする。その際は、真ん中を3人のCHにして4-3-2-1にシフトチェンジする。

「3-4-2-1」から「4-3-2-1」にチェンジした図

ただし、開幕戦で試合中に人の配置 やシステムを変えられるチームは、Jリーグにおいて多くない。ましてや、コロナ禍で直接に困難な状況下に置かれた甲府に、上記のような内容を求めるのは酷なことかもしれない。だが、4失点のうちの3点に関与したチアゴ アウベスに対して、早い段階で何か対処をしてもよかったのではないかとの思いは残る。

GKからのビルドアップにこだわりすぎていないか?

甲府は、GKを出発点としてボールを繋ぎながらビルドアップを行う。その点は、何も問題ないのだが、相手があらかじめプレスの準備をしてゴール前に構えていたならば、タッチライン方向にもっとロングキックを使ってもよいのではないかと感じた。

上記の場面は、18分に起こった。GK河田 晃兵に戻されたボールを須貝に出す。須貝は、前線にロングキックを放つ。ボールはCBヨルディ バイスに渡ってしまう。この場面では、右SPの浦上がフリーでいた。河田の視界には、圧力をかける岡山の選手が見えていて、彼らから早くボールを離したくて須貝に渡したのだろう。図で示したように、甲府ゴール近くに岡山の選手がポジショニングして、GKからのビルドアップを阻止しようとしていた。あれだけあからさまなポジショニングをされるのなら、いったんはGKからの組み立てを放棄して、ロングフィードで相手の圧力を軽減するやり方を反復してよかったのではないかと考える。河田も岡山のポジショニングを認識して、意図的にタッチライン方向に大きくボールを蹴っていた。しかし、セカンドボールを拾えずに、相手のディフェンスラインから組み立てが行われていた。GKのボール出しに蓋をされてなかなか前にボールが運べない時は、前線の選手は共通認識をもってタッチラインに蹴られたボールを、相手よりも早く対処するような動きが必要だった。いまの段階は、GKからのビルドアップに、そんなにこだわる必要はないと思われる。状況判断によって、もっとロングフィードしてもいい場面や、きちんとボールを後方から繋ぐ場面などに、欲を言えば、もう少し配慮があってもよかった。

悪条件下での大敗は、逆にチームをまとめるかもしれない?

開幕戦の戦いは、甲府にとって過酷な条件下での試合になった。ベストの状態での1-4の大敗ならば、浮上するキッカケをつかむのが難しい。しかし今回の敗戦は不自由な環境での結果なため、そんなに気にする必要はない。逆に、自分たちがベストな状況ならば試合展開が違っていただろうと、選手たちは思っているに違いない。スタッフや選手たちは、1-4の敗北からどんな次への一手を見いだすのか。「あの開幕戦の大敗があったから」と言われせる結果を、残していくけるかどうか。勝負は、いま、始まったばかりだ。

川本 梅花

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