川本梅花 フットボールタクティクス

ヴァンフォーレ甲府は「ゾーンディフェンス」を崩壊させた【試合分析】2022年3月5日明治安田生命J2リーグ 第3節 V・ファーレン長崎 1-2 ヴァンフォーレ甲府【無料記事】

目次
長崎の「シンプル」な攻撃に少しだけ戸惑った甲府
長崎のゾーンディフェンスを崩す甲府
明治安田生命J2リーグ第3節 V・ファーレン長崎対ヴァンフォーレ甲府

省略記号一覧

第2戦のフォーメーションとスタメン

フォーメーションは「3-4-2-1」で、スターティングメンバーも前節の大分トリニータ戦(1△1)と同じである。

両チームのフォーメーションを組み合わせた図

長崎は、「4-4-2」の中盤はボックス型を採用する。

フォーメーションの組み合わせから見えるマッチアップ

両チームのフォーメーションをかみ合わせると、甲府の両WBと長崎の両SH、甲府と長崎の中盤を仕切るCHがマッチアップになる。何もしなければ、常に対面する相手とかかわらないとならない。どうやって動くことで、マッチアップからの「ズレ」を生み出せるのか。そこは、興味深い点である。

長崎の「シンプル」な攻撃に少しだけ戸惑った甲府

試合開始から甲府が守備に回る時は、「5-4-1」のシステムになる。CFウィリアン リラはファーストディフェンダーとなって右CB村松 航太にプレスに行く。右IH長谷川 元希が左SB奥井 諒を「見る」ポジショニングをとる。長崎の左CBの江川 湧清がフリーになるが、そこにはCHの松本 凪生か山田 陸がケアに行く。右IH飯島 陸が左SB二見 宏志をケアする。長崎の最終ラインの4人は、最後尾のGKを除いてボールの出しどころに「ふた」をされる。長崎のCHカイオ セザールがポジションを捨てて最終ラインの前まで降りてくる。

甲府は、CHがプレスに行くタイミングで最終ラインを上げる。降りてきたカイオ セザールにCBがボールを預ける。カイオ セザールが再びCBにボールを戻す。甲府は最終ラインを上げているので、長崎は、FWエジガル ジュニオにロングボールを供給する。ボールは甲府のDFの背後に蹴られて、DFとエジガル ジュニオの競い合いになる。あるいは、甲府DFにクリアされたボールが長崎のDFに渡ると、サイドのどちらかに大きくボールを蹴って揺さぶりをかける。

図で示すと上記のようになる。カイオ セザールが降りてきてボールを受けてCBに戻される。この時、CB村松は、ウィリアン リアから離れて下がりながらポジショニングしてフリーになる。そして、村松は、パターン1からパターン3のどこかにロングボールを蹴る。本来のビルドアップの目的は、守備側のセカンドラインに進入してゴールを目指すことにある。セカンドラインとは、DFの前の場所を指す。甲府のシステムに照らし合わせると以下になる。

長崎の攻撃の作戦として、中盤でボールをつなぐことを省いて、CBから大きなボールを蹴って、一気にセカンドラインを攻略しようとした。吉田 達磨監督の試合終了後の会見で語られていた「シンプル」とは上記の攻撃パターンを指す。

試合の前半は予想外というか、長崎の準備がシンプルだったけれど引き出して、前の強力なタレントにボールを入れてくる。と、いうところに戸惑っている間に失点をしてしまった。

確かに、長崎の「シンプル」な攻撃に甲府は少しの戸惑いが見られた。しかし失点をしたとしても、勇気を持って最終ラインを上げたDF陣のプレーによって前線のプレスが次第に威力を増していった。ポジションを捨ててプレスに行くCHは、すぐさまポジションに戻って守備体制を整える。激しい上下の運動量が、同点弾を産んだと言っていい。

長崎のゾーンディフェンスを崩す甲府

長崎の先制点は、右SHクリスティアーノが左WB荒木 翔からボールを奪い返って、ドリブルでハーフスペースに進入しゴール前に速いクロスを入れる。待ち構えていたFW都倉 賢は、左足でシュートを決める。長崎の先制点は、たまたまから生まれた結果オーライの得点だ。荒木がスライディングしてボールを止めようとしたが外されてクリスティアーノがフリーでハーフスペースに入ってきた。得点以後の戦い方を見ても、ハーフスペースを利用した攻略はなかった。だから、長崎の得点は、トレーニングで反復された形ではなく、たまたまクリスティアーノがフリーになれただけで、意図した攻撃方法ではないのである。

一方、甲府の同点弾は、意図的に中央突破を狙ったやり方だった。長崎は、DFとMFの間を狭めてしっかりとブロックを敷いて守っている。甲府の得点前のポジショニングを示す。右SP浦上 仁騎から飯島に縦パスが通る。飯島は、ドリブルで左にスライドしていく。

甲府のディフェンスライン高さは注目に値する。一方、中央で細かくパスを回された長崎は、ディフェンスラインとMFのラインが崩壊している。ゾーンで守っている長崎は、本来、いるべき場所に選手がいない。長崎にとっては、押し寄せてくる甲府の攻撃に相当プレッシャーを感じていたはずだ。長崎のゾーンディフェンスの守備陣形が崩されているシーンは、甲府の逆転弾のシーンを見ればよくわかる。コーナーキックを与えられた甲府は、ショートコーナーを使って攻略する。キッカーの荒木が、長谷川にボールを預ける。長谷川から再び荒木にボールが戻される。荒木は、左にスライドしながら切り込んでくる。荒木の動きに釣られて、長崎の選手が前進してプレスに行く。山本 英臣がバイタルエリア中央にポジションを移す。長谷川は、ハーフスペースに進入する。荒木からパスをもらった山本は、走り込む長谷川にワンタッチでパスを出す。フリーの長谷川はゴール前にクロスを入れる。混戦の中、飯島が逆転となるプロ初得点を挙げた。長崎の先制も甲府と同じハーフスペースへ進入しての得点だった。しかし、内容は違っていた。偶然から生まれた得点とトレーニングで落とし込まれた得点。

甲府は、ゲームをフェードインするやり方も、このゲームでは完璧だった。コーナーエリアでボールをポゼッションして時間を稼ぐなどして安全にゲームを終わらせた。今季初勝利となった長崎戦は、今季の甲府の可能性を見せた試合だった。

川本 梅花

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