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【試合分析】吉田達磨監督の会見からゲームのポイントを読む【無料記事】明治安田生命J2リーグ 第16節 2022年5月14日 ヴァンフォーレ甲府 1-1 レノファ山口FC

目次
両チームのフォーメーションを組み合わせた図
右SP須貝英大が攻撃力をアップさせた
吉田達磨監督の会見からゲームのポイントを読む
明治安田生命J2リーグ第16節ヴァンフォーレ甲府 1-1 レノファ山口FC

両チームのフォーメーションを組み合わせた図


省略記号一覧

甲府のシステムは「3-4-2-1」の1トップでスタートした。しかし前半途中から「3-5-2」の2トップに変更する。山口のシステムは「4-3-3」の中盤を逆三角形にしている。5月8日のJ2第15節・栃木SC戦(0△0)からSPの野澤 陸を林田 滉也に、WBの荒木 翔から小林 岩魚に、CFのブルーノ パライバをウイリアン リラに替えてピッチに送り込んだ。システムを組み合わせると、山口の両SBがフリーになれる可能性がある。甲府にとって山口の両SBをどうやってケアするのかがポイントになる。

右SP須貝英大が攻撃力をアップさせた

4月16日のJ2第10節・ツエーゲン金沢戦(3〇2)の10分に、SP北谷 史孝がケガによってベンチに下がった。吉田 達磨監督は、左WBの須貝 英大をSPに置いて、須貝のいたポジションに小林 岩魚を投入した。この起用によって、超攻撃的な須貝のSPが誕生したと言える。須貝がどれくらい高い位置を取るのかを図で示そう。山口は最終ラインを高くするので、図ではハーフウェーラインを越えたところのポジションになっているが、バイタルエリアまで侵入してシュートを打つ場面もある。

右WB関口 正大や右CH石川 俊輝を追い越して前線に駆け上がっていく。その際に当然、須貝のいたポジションが空くことになる。甲府としては、その時の守備にいくつかのパターンを持っている。図のように関口がサイドに張って石川がCBの浦上 仁騎の右横に降りてきて3バックを作る。あるいは、浦上がワイドに開いて真ん中にCHが降りてきて3バックを成す。または、関口が上がらないで須貝のポジションを埋める。

相手チームは、須貝が上がった背後を狙おうとするが、一番厄介なのが須貝が前線に上がっていく途中で関口などの中盤でボールを持っている際にインターセプトされることである。つまり、守備陣形を作る前に相手にボールを奪われた時の対処の難しさが出てくる。しかし、そうしたリスクよりも手薄だった攻撃手としてチームを活性化させた。さらに、左WBとして出場した小林のクロスが得点を生む場面があった。ケガで試合に出られない北谷には気の毒だが、サッカーではよくある展開である。ケガによって明暗が分かれてしまう。しかし、ケガから復帰した時が北谷のチャンスになる。必ずチャンスはやってくる。その時をつかめるかどうかは北谷本人のプレーに懸かっている。

吉田達磨監督の会見からゲームのポイントを読む

吉田監督の試合後の記者会見は、試合を振り返るのにとても示唆に富んでいる。山口戦での重要な場面について言及しているので、吉田監督の談話をたどりながら試合の勝敗を分けたポイントを見ていきたい。
吉田監督談

試合については、立ち上がりすぐに得点が入り、この気温とリードで守りに入っているのではないのですが、先制した時によくある展開になってしまったと思います。その中で前半の間にペースを取り戻して2点目3点目を狙えるような内容を作っておきたかったです。2点目が今日のカギだったと思います。

前半と後半を通して2点目を入れるチャンスが何度かあった。監督が言う通り、追加点が入りそうで入らないと、試合終盤になってマズい展開が待っている。実際に、77分に高木 大輔のヘディングで同点にされた。

ここから記者の「前半の途中から5-3-2へフォーメーションを変えた狙いはなんでしょうか?」との質問がはじまる。
吉田監督談

相手の橋本選手に起点を作られて、そこからきわどいパスが何度か入っていました。あとは相手のCBである渡部選手、ヘナン選手はつなぐのが上手なので、そこにプレッシャーを掛けたいのと、高く上がったSBが中へ差し込んでくるボールを入れるので、そのパスコースに選手を置いて対応しようと思いました。

甲府はスタート時の「3-4-2-1」から以下のように「3-5-2」にシフトチェンジしてきた。システムを変更する前の守備陣形を見てみよう。

山口は4バックなので2人のCBがいる。甲府は、CFのウイリアン リラ1人が、山口の2人のCB、渡部 博文とヘナンを「見る」ことになる。ウイリアン リラ1人で山口の2人のCBに圧力を掛け続けるのが無理なので、鳥海 芳樹を2トップに上げて対処した。2トップにする前の甲府は図のように、右のSTの鳥海が山口の左SB橋本 健人をケアして、右SB眞鍋 旭輝を左ST長谷川 元希がケアする。そうすると、中盤で山口のアンカーの佐藤 謙介がフリーになってしまう。そこでまず、山口の2人のCBをケアするために2トップにした。橋本には、鳥海かCHの石川をケアに行かせる。相手のCBとSB、CHの動きを阻止するためにもシステムを「3-5-2」に変更してきた。変更後の図が以下である。

システムを「3-5-2」に変更しようとしたキッカケになったプレーは、おそらく前半の17分50秒からの橋本と沼田のコンビネーションだと思われる。山口のCBから橋本にパスが出される。左SBの橋本から須貝と関口の間を通された縦パスがあり、そのボールを受けた左WG沼田がペナルティエリア中央にマイナスのクロスを入れる。山瀬 功治が飛び込んできてシュートを打つ。GKの河田 晃兵がなんとかボールを弾く。このシーンが象徴的となって、システムを変更したように考えられる。
吉田監督談

ボールを持った瞬間に飛び出せないので、「最初のアクションを起こせ」と伝えましたけど、1トップの周りでずっとボールを走らされた時間が続きましたからそのパワーが残っていなかったです。

2点目を奪えなかった理由が述べられている。ただ、相手が4バックできて甲府が1トップのケースは今までにもあった。山口戦ではなぜうまく対処できなかったのか? それは、山口が最終ラインをものすごく高く保って両SBが攻撃的に前線に圧力を掛けてくるから自陣に下がって低い位置で守備をしないとならない。ボールを相手から奪っても、敵陣深く攻めていくには体力が必要になってくる。「パワーが残っていなかった」との発言はそうした意味からもたらされている。

高木の得点に関する質問があった。「失点に関して、どういう部分が足りませんでしたか?」。
吉田監督談

再三走らされたり、コンビネーションを作られたりで、最初のボールへ寄せるのか、中を固めるのか、そのジャッジが曖昧でした。曖昧というよりかは難しいタイミングで、食いつかされていく行かないの判断でした。突破されて中を抑えるよりも、突破されないことにトライしないといけないので、日々トレーニングしたいと思います。

池上 丈二がボールを持った時に対面する石川 俊輝がもっと距離を詰めて寄せていかないとならない。次に、池上から橋本にボールが渡った際に荒木がもっと寄せる必要があった。ここまでの時点でボールを相手に下げさせるプレーをさせていれば展開が変わっていただろう。寄せていって外されるのを嫌った結果のプレーのように映った。確かに、難しい判断を要求される場面だったのだが、相手からボールを奪いに行く守備ではなく、ボールを下げさせるか横パスを出させる寄せが必要だったのだろう。

以上のように、吉田監督の談話は、試合のポイントを明瞭に解説している。

川本梅花

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