サッカー番長 杉山茂樹が行く

SOCCER GAME EVIDENCE ”36.4%のゴールはサイドから生まれる”6月6日発売

「36.4%のゴールはサイドから生まれる」6月6日発売(実業之日本社 1600円+税)

 

左からの攻撃と右からの攻撃。得点に結びつきやすいのはどちらか。欧州の評論家か元監督か忘れたが、彼らの中に、左だと言い切る人が複数いた。

 

サッカー観戦を初めてウン十年。「左か右か」に疑問を持ったことはなかった。そう言われるまで、5050だろうとハナから決めてかかっていた。

 

それが頭に引っかかっていた。実際はどうなのか。数字として知りたくなったことが、この本=「36.4%のゴールはサイドから生まれる」を制作した一番の動機だ。

 

膨大なデータを抱えるデータスタジアム社に、ある切り口に基づいて調査を依頼。多くのデータを収集していただいた。

 

そして数字と格闘する毎日を経て、ようやく発売にこぎつけた。

 

「サイドバックが活躍した方が勝つ」。「サイドを制するものは試合を制す」。「得点の7割はサイド攻撃から生まれる」等々も、欧州取材を通して、知り得たセオリーになる。こうしたことを言い出しそうな人は、日本国内に見当たらない。よけいに新鮮に感じた。そう言われれば、そうかなとおぼろげに思っていたことを、ズバリと言われると視界は急に開けてくる。サッカーがより興味深いモノに見えてくる。

 

本書に目を通せば、見えてくる世界が変わるはず。宣伝抜きでそう思う。

 

論ではなく事実に基づく確証なので、議論のスタンダードも一段、高まることになるはずだ。

 

時代の趨勢に押されるように、サッカー界にも無数にデータが溢れるようになった。しかし、何かを語ろうとするときのバックボーンにはなり得る数値は数少ない。生かし切れていないという印象だ。

 

たとえば、試合中の走行距離。上位に来る選手は日本代表なら、長友とか、毎試合、顔ぶれは決まっている。ポジション的な特徴もある。サイドバック、守備的MFの走行距離は相対的に長い。そのデータを見て「長友は相変わらず走ってますね」で、終わっているのが現状だ。データと向き合う上で問われているのは比較。過去の試合、相手チーム、平均値と比べてどうなのか。長友とマッチアップする相手のサイドバックと比べてどうなのか。単体では数字の持つ意味は浮かび上がらない。

 

データを、あるコンセプトに基づいて斬る。コンセプトを定め、それに基づいてデータを検証する。論より証拠ではないけれど、思い込みではなく、エビデンスに裏打ちされたセオリーを見つけ出す。従来のセオリーにデータという物差しを当て、その信憑性について探る。そうしたスタンスで本書の制作に取り組んだ。

 

データに求めた試合は、日本代表歴代6ジャパン54チームと、J1リーグ2017306試合、計360試合。日本代表戦は、相手のレベルにバラツキが出ないように、W杯アジア最終予選と、それとほぼ同レベルにあると思われるアジアカップ本大会に限定した。

 

そこで冒頭に述べた、左からの攻撃、右からの攻撃、得点に結びつきやすいのはどちらかという問題だ。全ゴールの内、「クロスを送った後、3プレー以内にゴールした数」、そしてその割合についてデータを集め、分析してみれば、その左右の比は、なんと、ほぼイーブンの関係だった。

 

なーんだ、という話になるが、このエビデンスが得られたことには、思いのほか大きな意味がある。左利きは人間9人に1人。攻撃は放っておけば、右からに偏ってもおかしくない。左右、5050の関係を維持しようと思えば、左からの攻撃には、意志や計画性が右からの攻撃以上に必要になる。

 

右からの攻撃は本能的だが、左からの攻撃は意図的。後者の方が研究の余地が残されている。他チームとの違いも出しやすい。

 

同じく欧州で耳にした「得点の7割はサイド攻撃から生まれる」は、日本代表54試合のデータに基づけば、36.4%だった。7割の半分に過ぎなかった。

 

とはいえ、サイド攻撃から生まれたゴールは、実際それ以上だろう。これも「クロスを送った後、3プレー以内にゴールした割合」が、全体の36.4%だったという話だ。CK、FKさらには、サイドを起点とした攻撃をすべて含めたら、10%増になるのか、20%増になるのか、あるいはもっとなのか定かではないが、上積みは十分に見込める。しかし、設定が曖昧になるので、この本ではあえて触れないことにした。

 

数値的な裏付けが担保されている事実のみを基盤に「論より証拠」のスタンスで、淡々と日本サッカーのメカニズム解明に迫った。

 

切り口は「攻撃的サッカー」だ。それを構成するプレッシングとサイド攻撃に、まず焦点を当てた。

 

プレッシングでは、奪われる場所、奪った場所それぞれのデータを、図版を用いて視角化。両者の高さを合わせた数値を「プレッシング指数」と制定し、ランキング化した。

 

ちなみに歴代日本代表の中で、プレッシング指数が最も高かったチームを言ってしまえば、○ギー○ジャパン。

 

サイド攻撃で用いた尺度は「クロスを送った後、3プレー以内にゴールした割合」。クロスを送り込んだ場所(左右はもちろん浅い・深い)でその数値がどう変わるか、分析した。

 

プレッシングとサイド攻撃が充実すれば、自ずと上昇するのがボール支配率だ。歴代日本代表で、ボール支配率が最も高かったのもプレッシング同様、61.5%の○ギー○ジャパン。逆に最も低かったのは48.1%のハリルジャパンで、両者には13.4%もの開きがある。

 

日本代表のサッカーは、この監督交代を機に激変した。協会から何の説明もないままに。いつの間にか大きく変わってしまったことこそが、ハリル解任問題の根底に潜む話だ。

 

プレッシングとサイド攻撃の数値が上昇すれば、効率性も上がる。世界で守備的サッカーがなぜ減退したのか。それは非効率サッカーに陥るからだ。攻撃的サッカーが当たり前になった理由は、守備的サッカーより効率的だからだ。

 

ロシアW杯を戦う西野ジャパンのサッカーを探る物差しでもある。日本代表歴代6ジャパン、あるいはJ1リーグ2017を戦った18チームと、そのサッカーはどこがどう違うのか。

 

本書は、手前味噌で恐縮だが、それが鮮明に浮かび上がること請け合いなビジュアリックな一冊だ。サッカー観戦に、新機軸を打ち出せたのではないかと密かに自負している。お目通し頂ければ幸いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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