サッカー番長 杉山茂樹が行く

独自の視点で選定したJ1リーグ18チームのスタジアムランキング<前編>1位に輝くスタジアムはどこだ?

写真:Shigeki SUGIYAMA

開幕したと思ったら、新型肺炎の影響で延期が決まったJリーグ。この影響がいつまで続くか定かではないが、この中断を、再開に備えて、今後の観戦計画を練る時期に当ててみてはどうだろうか。観戦に行くならどの試合に行くべきか。シーズン初め、アウェー観戦の計画を練る人は多い。対戦相手および試合が行われる都市の魅力度に加え、スタジアムの善し悪しもその際に欠かせない要素となるはずだ。

サッカーはできればよいスタジアムで見たいとの欲求を満たしてくれるスタジアムはどこか。というわけで、J1リーグ18チームのホームスタジアムを独自の視点(独断)で採点してみた。

視角、ピッチまでの距離、アクセス、建物としての魅力度、快適度。採点の元となる要素はこの5つで、各10点満点、計50点満点で表してみた。(注:名古屋グランパスは豊田と瑞穂を併記)

<前編>

後編はこちら>>>>

札幌ドーム(北海道コンサドーレ札幌/収容人員=38794人)

=32点

視角=4
ピッチまでの距離=4
アクセス=7
建物としての魅力度=9
快適度=8
アクセス上々。スタジアムグルメも充実

ピッチを出し入れできる開閉式ドーム。座席も使用目的(野球とサッカー)によって移動させることができる。技術の粋が詰まったスタジアムだが、野球観戦の方がサッカー観戦より適している印象だ。スタンドの傾斜角が緩い(特にサッカー使用時における正面スタンド)ので、なによりピッチが遠くに感じられる。黒を基調にした場内のデザイン(野球の小さな白いボールを際立たせるためだと思われる)も、サッカーのトーンとマッチしているとは言い難い。漂う空気を必要以上に重たくしている。

スタジアムグルメは充実している。売店は多種多彩。試合時間の長い野球を意識した造りが、こちらは奏功している。アクセスは上々だ。札幌駅から地下鉄を使って30分以内でスタジアムに到達することができる。シャトルバスも稼働している。

ユアテックスタジアム仙台(ベガルタ仙台/19694人/専用)

=36点

視角=7
ピッチまでの距離=9
アクセス=8
建物としての魅力度=7
快適度=5
濃密な空気に包まれた理想的な空間

ベガルタ仙台の平均観客数は1万5千人前後なので、満杯率は75%以上だ。スタンドがほぼ埋まった状態で試合は行われている。75%でも満員に感じる理由は、2万人弱のスタンドが透明感のある屋根に綺麗に覆われている点にある。密閉性が保たれているので、歓声がよく反響する。

その上、サッカー専用スタジアムだ。ピッチとスタンドの距離が近い。ファンの声援がピッチにダイレクトに伝わりやすい、濃密な空気の中で試合は行われる。サッカーにとって理想的な雰囲気が演出される仕組みになっているところが、このスタジアムの魅力だ。仙台駅から30分経たぬうちにスタンドに着席できるアクセスのよさも見逃せない。クラブと街のサイズにスタジアムのキャパが適合した、機能性の高いコンパクトなスタジアムだ。

県立カシマサッカースタジアム(鹿島アントラーズ/38669人/専用)=33点

視角=8
ピッチまでの距離=8
アクセス=2
建物としての魅力度=7
快適度=8
スタジアムグルメと温泉が魅力

唯一にして最大の問題といいたくなるのはアクセスの悪さだ。鹿嶋市の人口は約6万7千人。小さな街なので、スタジアムに駆けつけるファンも市内より市外からの方が多い。これにアウェーサポーターが加わるので、観衆の多くが遠方から駆けつけることになる。東京方面から駆けつける観衆も相当数にのぼる。東京駅からシャトルバスを利用することになるが、行きも帰りも大渋滞。鹿島観戦は大旅行になりがちだ。平均観客数は2万人前後だが、アクセスがよければプラス5千人は堅いだろう。クラブにとって成績より重大な問題と言える。

だが、到着すれば、快適な世界が待ち受けている。なんと言っても魅力は「食」だ。食通を唸らせる多彩なグルメがコンコースに軒を連ねる。コスパも上々。開場直後、行列ができる前がオススメだ。昨年はスタジアム内に温泉もオープンした。温泉付きスタジアム。世界広しと言えども他にはない組合わせだ。観戦環境も上々。眺望もいい。大旅行覚悟で出かけてみる価値はある。

埼玉スタジアム2002(浦和レッズ/62010人/専用)

=29点

視角=7
ピッチまでの距離=7
アクセス=2
建物としての魅力度=7
快適度=6
必要以上に遠さを感じさせる日本最大の専用スタジアム

浦和美園駅から歩いて約20分。逆サイドのスタンドゲートに回ろうとするとさらに10分近くかかる。6万2千人を収容するビッグスタジアムであるにもかかわらず、公共交通機関の最寄り駅は、運行本数の少ない埼玉高速鉄道の浦和美園駅のみ。試合前もさることながら、困るのは試合後で、電車に乗るまで1時間並ばされることもザラだ。ナイターの場合、東京に戻るのは深夜。山手線は動いていても、私鉄には乗れない場合がある。道路も試合後は大渋滞。高速に乗るまで相当な時間を費やすことになる。実際以上に遠さを感じるスタジアムだ。

正面スタンドとバックスタンドは屋根付きだが、ゴール裏席は雨ざらし。アウェーサポーターに優しくないスタジアムだ。遠路はるばるやってきて、そのうえ雨に降られれば泣きだ。日本最大の専用スタジアムである。トラックがないので、見やすいことは見やすい。ただし1階席と2階席に視角差がほとんどないため、2階席上階からはピッチを遠くに感じてしまう。もう少し密閉感が欲しかったというのが正直な感想だ。ボルテージが高い浦和レッズの応援も、その方が威力を増すものと思われる。

三協フロンテア柏スタジアム(柏レイソル/15109人/専用)

=29点

視角=6
ピッチまでの距離=10
アクセス=5
建物としての魅力度=3
快適度=5
近すぎるピッチ。アウェーのGKが心配になる?

JR柏駅から徒歩20分。J1リーグで最も小さなスタジアムに到着する。バックスタンドは仮設を思わせる簡素な造り。屋根は正面スタンドの一部にしかなく、スタジアム全体としても器の形状を成していない。柏は昨季こそJ2暮らしだったが、本来J1の中位以上を維持する力のあるクラブだ。収容人員3万人程度のスタンドを持っていても不思議はない。

スタジアムに恵まれていないクラブと言えるが、実際に現地を訪れると、小さなスタジアムのマイナス面よりプラス面を思い知らされることになる。何と言ってもピッチが近い。近すぎるぐらいだ。臨場感をどのスタジアムよりも体感することができる。

名物は「柏熱地帯」と呼ばれるゴール裏席だ。柏サポーターのユニークすぎるその歓声と怒号の波を、アウェー側のGKは背後からまさに近距離で45分間浴び続けることになる、苦行の場以外の何ものでもない。他では味わえない独得の臭み漂う、希少価値の高いスタジアム。とはいえ少し簡素すぎか。屋根ぐらいは欲しい。

味の素スタジアム(FC東京/48955人)

=26点

視角=5
ピッチまでの距離=5
アクセス=6
建物としての魅力度=5
快適度=5
聖地感薄めの多目的スタジアム

京王線飛田給駅から徒歩10分。試合が開催される日は、同駅に新宿から特急電車が臨時停車するので、乗ってしまえば30分程度で到着する。北多摩、南多摩地区から縦に移動してくることは大変だが、アウェーサポーターの足となる都心からのアクセスはそれほど悪くない。ただし5万弱を収容するスタジアムは正直、イマイチだ。万事が中途半端な印象だ。

陸上トラック付きなので、ピッチまでの距離は遠く、1階席の視角も緩い。陸上の日本選手権の会場に1度なったことは(2013年)あるが、その使用実績はごく僅かだ。所有者は東京都。多目的スタジアムと銘打たれているが、言い換えるならコンセプトの曖昧さが目立つ。特段悪くはないが、個性が感じられない。サッカー的な匂いが漂ってこない聖地感に乏しい、発信力の低いスタジアム。球技専用として建てられるべきだった。

等々力陸上競技場(川崎フロンターレ/26827人)

=26点

視角=6
ピッチまでの距離=5
アクセス=5
建物としての魅力度=4
快適度=6
ゴール裏席に問題。アウェーサポに厳しいスタジアム

武蔵中原駅(JR南武線)、武蔵小杉駅(東横線)から徒歩20分強。新丸子駅(東横線)からはそれよりやや近い。近年行われた改修工事で、正面スタンドからの観戦環境はグッとよくなった。陸上トラックを間に挟むのでのピッチからの距離は遠いが、特にその2階席からの眺めはピッチを俯瞰する感じになり、ゲーム性を楽しめるようになった。

問題はゴール裏席だ。正面スタンド側に近づけば近づくほど、トラックのカーブから遠のく、丸みのない直線的な形状になっているため、たとえばコーナーフラッグの後方あたりに陣取らされることになるアウェーサポーターは、J1リーグで一番といいたくなるほど劣悪な観戦環境に置かれることになる。川崎と言えばJ1リーグ上位の常連だ。リーグを代表するクラブだが、その成績にスタジアムの観戦環境が追いついていない印象だ。改修計画があるという話を耳にするが、早急に着手すべきだろう。

日産スタジアム(横浜F・マリノス/72013人)

=18点

視角=3
ピッチまでの距離=1
アクセス=4
建物としての魅力度=5
快適度=5
新幹線利用のアウェーサポにはメリットはあるが

日本で一番大きなスタジアムだが、サッカー観戦には適さない。ピッチとスタンドを隔てる陸上トラックが災いしていることは確かだが、それに輪を掛けているのが、トラックの9レーンからスタンドまでの距離が遠いことにある。その間に発生する広大な空間が、ピッチとスタンドを隔てる見えざる障害物になっている。ピッチの臨場感がスタンドに、スタンドの熱気がピッチにそれぞれ伝わりにくい、まさに相乗効果が見込めない状態にある。傾斜角の緩さ、とりわけ20度に達していないものと思われる1階席からは、ピッチをほぼフラットにしか眺めることができない。2階席も傾斜角こそまずまずだが、ピッチが遠くに感じられる。日本はもちろん世界的にもここまで眺めが悪いスタジアムは珍しい。

現在、よいサッカーをしている横浜F・マリノスのその魅力が伝わりにくい状態にあることがなにより残念だ。アクセスも決してよいとは言えないが、新幹線を利用する横浜以西のアウェーサポーターには、その停車駅である新横浜駅が、最寄り駅であることがメリットになっている。

ニッパツ三ツ沢球技場(横浜FC/15440人/専用)

=26点

視角=7
ピッチまでの距離=9
アクセス=3
建物としての魅力度=3
快適度=4
老朽化しているが侮れない魅力を持つ専用スタジアム

1998年に日産スタジアムができるまで、横浜マリノスのホームとして稼働していた、オールドファンには親近感を抱かせるスタジアムだ。率直に言って古い。内部施設も狭く、使い勝手もよくない。J1リーグを開催する舞台として物足りなさを感じる。公共交通機関がバスに限られる交通アクセスもよいとは言えない。

だが、スタジアムに到着し、座席に着席すれば、そうしたネガティブな要素を忘れさせる歓迎すべき光景が目に飛び込んでくる。陸上トラックがない専用スタジアムのメリットを堪能することができる。

日産スタジアムが昨季、ラグビーW杯開催のために使用できなかった時期に、横浜F・マリノスはここで何試合か行っているが、そのサッカーと舞台とは抜群の関係にあった。横浜F・マリノスと言えばサイド攻撃。その主役となった仲川輝人がタッチライン際を疾走する姿を目と鼻の先で拝むことができた。そのスピード感を間近で体感することができた。控え選手がアップするのもスタンドの目の前だ。横浜FCの試合で、三浦知良がそこに現れたならば、激励の声は十分届く。お試しあれ

※総合ランキング及び部門別ランキングは<後編>に掲載してあります。

後編はこちら>>>>

●収容人員ランキング

(1位)日産スタジアム=72013人
(2位)埼玉スタジアム2002=62010人
(3位)味の素スタジアム=48955人
(4位)ヤンマースタジアム長居=47853人
(5位)豊田スタジアム=40647人
(6位)パナソニックスタジアム吹田=39694人
(7位)札幌ドーム=38794人
(8位)県立カシマサッカースタジアム=38669人
(9位)エディオンスタジアム広島=35909人
(10位)昭和電工ドーム大分=31997人
(11位)ノエビアスタジアム神戸=29332人
(12位)等々力陸上競技場=26827人
(13位)駅前不動産スタジアム=24130人
(14位)パロマ瑞穂スタジアム=20223人
(15位)IAIスタジアム日本平=19695人
(16位)ユアテックスタジアム仙台=19694人
(17位)ニッパツ三ツ沢球技場=15440人
(18位)Shonan BMW スタジアム平塚=15380人
(19位)三協フロンテア柏スタジアム=15109人
(※Jリーグデータによる)

2月27日付けYahoo個人ページより転載

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