石井紘人のFootball Referee Journal

【連載:Jリーグ紀行第6回】ノヴァコヴィッチの巧みなレフェリーコントロール

質問の限度が5つなら、一つ目と二つ目で雰囲気を和らげ、三つ目で核心に向けた質問に変え、四つ目と五つ目で核心を聞く。これがプロ野球からの伝統的な新聞記者の手法らしく、これで話が全て聞き出せるという。つまり、「素晴らしいゴールでしたが?」「これで今季、何点目ですね?」「試合を振り返ってみてどう?」という予定調和の流れこそ、記者には重要だということだ。元新聞記者の方がそのように『サッカー批評』誌で語っているのを読んで、合点がいった。

バルセロナがクラブW杯で来日した際、とある日本の記者が「雰囲気を和らげる」質問をした。これに怒ったのは外国の記者だ。

「記者会見で質問できるのは、10のチャンスもないのに、何であんな質問するんだ!!」

これは、日本の習慣なのだと思う。

たとえば、ミックスゾーンを歩いている選手を止める。予定調和の話をする。「もういいですか?」と話を切り上げるクレバー系の選手もいるが、こういった日頃の世間話で人間関係を構築していくのが基本。もちろん、選手に「あなたのことを見ていますよ」というのを知ってもらうのは重要だと思う。ただ、それは質問の内容で伝わる気もする(伝わらない選手もいると思うが)。少なくとも、審判員やアーティストはそうであることが多い。

とは言え、それが日本の取材のスタンダードなら、逸脱するのは良くない。と思い、今まで質問のタイミングを見計らってきたつもりだし、これからも空気は読まなければいけないと思っている。

だが、そうしなくていい場合もある。外国人選手への取材だ。この日も、ノヴァコヴィッチがミックスゾーンに現れると数人の記者が囲んだ。通訳を介して質問をするのだが、二つ目の質問が終わった後、通訳がこういった。

「あのー、何を質問したいんですか?」 

日本的なご機嫌伺いは、外国人からすれば挨拶である。いつまでも挨拶をされても困る。そういうことなのかもしれない。

「チャンスだ」

そう思い、私は流れをぶった切った。

 

―大宮というチームのなかで、ノヴァコヴィッチ選手が、メインとなってレフェリーとコミュニケーションをとっていましたが、何を話していたんですか?

 

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