石井紘人のFootball Referee Journal

【無料記事/連載:ルール解説vol.1】横浜Fマリノス選手たちは何をアピールしていたのか?  

日産スタジアムで行われた2016J1 1st6節の横浜Fマリノス×浦和レッズ戦。38,382人が詰めかけた上位決戦の66分、浦和レッズのFK時に横浜Fマリノス選手たちが、松尾一主審に何度もアピールしていた。一体、なにがあったのだろうか?

FKとなったファウル自体は分かりやすいファウルで、ファウルをとられたことに対するリアクションはほとんどなかった。そのため松尾主審は、笛と同時に、両選手にFKは笛で再開することをジェスチャーで示した。

というのも、主審が“笛でリスタートする”と示さない限り、浦和レッズはいつでもリスタートできる。それを防ごうと、横浜Fマリノス選手たちはボールの前に集まる。結果、リスタートに時間がかかってしまう。そうなる前に松尾主審がジェスチャーで示せば、混乱なくリスタートできる。

実際に、松尾主審はすぐにボール周りから横浜Fマリノス選手たちを離すことに成功し、浦和レッズ選手にボールを置くように指示して、ボールから9.1510ヤード)の歩測に入れた。プライオリティが整理されている

が、この歩測中に、松尾主審がボールから目を離した隙に、キッカーの阿部勇樹がボールを二個分後ろに下げたのだ。つまり、阿部と横浜Fマリノスの壁までの距離は9.15m以上あり、キッカーに有利な状況になった。それをFKのスペシャリストである中村俊輔が見逃さず、ボールを動かしたことを松尾主審にアピール。そして、“それならば壁を前に出す”と横浜Fマリノス側がアピールし、浦和レッズ側は“壁が歩測した指示の場所より前に出ている”とアピール合戦となってしまった。

現在は使用できなくなってしまったが、バニシングスプレーは、壁が9.15mよりも前に出るのを防ぐためだけではない。キッカーが歩測に入ってからボールを動かすことを防ぐためでもある。現代サッカーの選手たちの狡猾さを考えれば、トリオのうちの誰か一人は、キッカーをフォーカスしていなければいけなかった。

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