石井紘人のFootball Referee Journal

【石井紘人コラム】問題は中東の笛ではなく、中東のプレー

今年1月のアジアカップ期間中、“中東の笛”という言葉が紙面を賑わせた。言葉通り、微妙な判定があったのは確かだ。

しかし、そこに八百長などフットボールにあるまじき行為があったわけではない。改善すべきではあるが、単なる技術不足が生んだミスがほとんどである。ゆえに、心無い“中東の笛”という憶測に、日本を代表する国際審判員たちも心を痛めていた。先日行われたアウェイでのU-22日本代表×U-22バーレーン代表戦で主審を務めたイランのファガニ主審も、必死にピッチを走っていた。荒れた試合にならないよう、争点に近付き、厳しくファウルをとる。また、バーレーン代表の狡猾な演技にも欺かれない。46分に、バーレーンの選手が比嘉に押されたように倒れたペナルティエリア内でのコンタクトを、ノーファウルと見極めたのが最たる例だ。ベストとまでは言わないが、グッドなレフェリングで、審判チームの真摯な姿勢は伝わってきたのではないだろうか。

そんな試合で、思わず目を覆ってしまったシーンがあった。

80分、接触プレーでもつれ倒れた山田直の顔を、アブドアヘリが踏みつけたシーンだ。【乱暴な行為】のためファガニ主審は当然、レッドカードを与えたが、アブドアヘリは悪びれた様子もなく判定が不当だとリアクションを見せる。

南アフリカW杯でブラジル代表のフェリペ・メロが退場になっているように、このようなファウルを犯すのは中東の選手だけではない。とはいえ、世界のトップリーグでこういったプレーが頻発しているわけでもない。しかし、中東のチームとの試合はラフプレーが多く、かつラフプレーをした選手がまるで被害者のようなリアクションで接してくる。

62分に山田直に蟹バサミのようなスライディングタックルをしたマホルフィーもそうだ。罪悪感は皆無だった。チョン・テセが言うように、ファウルしたことに気を使い過ぎる必要はないと思うが、フットボールにはコモンセンスがある。そこから外れたと感じた時に、試合中でも謝罪するのが世界の選手たちだ。ドイツW杯決勝で、ピッチを去ることになったジダンの背中からも懺悔感が伝わってきたように。

審判員がしっかりとファウルを見極めることで、ラフプレーを減らすことはできる。ただ、根絶するためには、選手たちが変わり、フットボールのコモンセンスを理解しなければいけない。

西村雄一氏は「選手がフェアプレーを忘れた瞬間が審判にとって一番難しい」と言う。問題なのは、中東の笛ではなく、世界の潮流から遅れた80年代のようなファウルを繰り返す、リスペクトの精神が欠けている中東リーグの選手たちである。(201111footballweekly.jpに掲載)

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