石井紘人のFootball Referee Journal

審判たちの苦心と、選手コメントに頼る危うさ「選手コメントのみで報じるのであれば、SNSの発展に伴い、メディアは無用の長物」

先週末、とある報道がサッカー界を混乱させた。

それはJ1第19節、横浜Fマリノス×浦和レッズ戦の二点目となった横浜・仲川輝人のゴールが二転三転したプロセスについてである。

16日に配信された「Jリーグジャッジリプレイ」で日本サッカー協会(JFA)の上川徹トップレフェリーグループシニアマネジャーが明かした判定をめぐる顛末はこうだった。

まず、主審とA2副審(浦和陣地側を見ていた副審)は仲川と競っていた浦和・宇賀神友弥のオウンゴールの可能性が高いと認識してしまい、本来は仲川のオフサイドなのだが、オウンゴールと判定してしまった。

当然、浦和選手たちが猛抗議する中、A1副審(横浜陣地側を見ていた副審)と第四の審判員の元に「仲川のゴール」という情報が運営から入る。それをA1副審と第四の審判員が一度は主審に伝え、ゴールが取り消され、オフサイドとなった。

しかし、運営からの情報で判定を変えることは許されていない。それは判定ミスではなく、ルールの適用ミスで再試合となる危険性もはらんでいる。その点を再度審判団で協議し、運営からの情報が入る前の判定、ゴールのまま試合を進めることを両監督に伝えた。そして、仲川のゴールとなったのだが、このプロセスを試合直後の段階では、スポーツ紙だけでなく、専門紙まで誤って報道してしまう。

「(仲川のゴールについて)主審が判定は運営が決めていると不可解発言」と報じたのだ。

だが、「Jリーグジャッジリプレイ」で上川氏が明かしたように、そのような発言は一切なかった。

選手コメントのみでの報道の危険性

なぜ、このような「誤報」が生まれてしまったのか?

答えは明瞭で、選手コメントのみで報じたからである。

映像を見返せば、まずゴール判定からオフサイド判定となる直前に公式記録が出ており、そのタイミングで主審にA2副審か第四の審判員からインカムが飛んだと推測できる。主審の口元が「えっ?」と動いたからだ。その後、再びゴール判定に戻る時、両監督に説明する主審の口元を見ると、上川氏の説明どおり、

「公式記録では、仲川のゴールということなのですけども、僕たちの判定としてはオウンゴールとなります」

という旨の話をしていたものと見られる。

視覚の情報に加え、競技規則や過去の事例から考察すれば、「誤報」は生まれなかった。実際に「週刊審判批評」では、ほぼ正確に状況をレポート出来ている。選手コメントのみでの報道の危険性に、そろそろメディア側が気付くべきではないか。

というのも、試合中の選手たちはとにかく興奮している。

先月発売されたドキュメントDVD「審判」には、試合中の主審と選手のやりとりがインカムを通じて収録されているが、エキサイトする選手たちをコントロールしようとする苦労が見て取れる。

たとえば、あきらかな無謀なプレーへの警告でも、「何でだよ!」と返されてしまう。それに対し、「足元に(ジェスチャーで足裏を示しながら)こういっているから危ないよ。相手への配慮がないと(無謀で)イエローです」としっかりと説明しても「何で?」とエキサイトは収まらない。全選手が当てはまる訳ではないが、ほとんどの選手のテンションが高くなっている。

ましてや上述の試合は誤審で得点が生まれている。その間の主審とのやりとりを正確に記憶するだけでなく、三十分以上経った後に口述するのは難境である。

試合後、選手たちは嘘を言っている訳ではない。ただし、間違いなくエキサイトしている。だからこそ熱いコメントもとれる部分もあるが、間に入る我々メディアはコメントから事実を検証し、現状や意義、展望を報道するべきではないだろうか?

選手コメントのみで報じるのであれば、SNSの発展に伴い、メディアは無用の長物となってしまう。

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