石井紘人のFootball Referee Journal

無料:家本政明主審引退会見①触れ合った選手は皆凄かったが、別格はイニエスタ。小野伸二、中村俊輔、遠藤保仁、中村憲剛、家長昭博「我がレフェリー人生に悔いなし」試合前後の選手との会話は?

引退試合となった横浜Fマリノス×川崎フロンターレ戦の翌々日、家本政明主審がオンラインにて引退会見を行った。

家本主審らしく、会見は質疑応答からスタートした。家本主審らしい表現を感じて欲しいので、一部意訳もあるが、全5回に分けてそのまま掲載したい(村上伸次主審は過去記事と合わせて来月には更新致します)。

【家本政明主審引退会見③】「クラブの職員として働いたのが全てだったし、他のレフェリーとは決定的に違う所」Jリーグ担当審判員の評価とはどうあるべきか?

―一番印象に残っている試合を教えて下さい。

 

「先日の試合がやはり一番印象に残っていますね。一番思い出深いかなって感じですね。」

 

―試合前、試合後に色々な選手とお話されたと思いますが、印象に残ったことはありますか?

 

「(111日に)引退・卒業を発表してから、必ず言われるのは

「何でやめるんですか?」「次何やるんですか?」

この二つばかりを言われて()

「まだ(レフェリー)できるでしょ?」

「うん、できるけど」

「じゃぁ何でですかー?」

「色々あるんだよー()

と、どの選手や関係者とも同じ話ばかりをしているのが面白いなぁと ()

「次に何やるんですか?」

「いや、まだ(決めてもないから)言えないんだけど。ちょっと新しいことに挑戦したくて」

「家本さんだったら、とんでもないことまたやらかしそうですねぇ」

と言われたのが一番多かったですし、面白かったなぁと思っています。

ラストマッチに関しては、Twitterにもあげたんですけど、

選手から「思いっきり楽しんでくださいね」「楽しんでますかー?」と凄い声をかけてくれて、

「いや、俺のことはいいから、あなたたち(前田)大然と(レアンドロ)ダミアンに点をとらせてよ」と()僕はそんなことを思っていたんですけどね()

彼らが気を使ってくれて、そういう温かい「楽しんで」という言葉をくれたこと、表情、空気感は一生忘れられません。」

 

―審判人生の中で「悔いがあって出来ればあの時に戻りたい」と思うような試合はありますか?

 

「悔いはないです。戻りたいと思うことを考えたことはないですかね。起きてしまったことは戻すことはできないし、起きたこと、それが良い結果悪い結果踏まえて「じゃあ今何をしなければならないのか」「これから何をしなければならないのか」ということを常に考えてきたので(悔いは)ないですね。色んな人から(悔いがあるのではと)言われるんですけど、自分としては、大きな気づき学びを得た試合ばかり。戻りたいという事はないです。」

 

―してやられたなと思う選手は誰ですか。

 

「思わず唸っちゃうというのは、やはり相手もトップの方なので(私が批評するのも)あれですが、なかでもイニエスタ選手の「そこ見えているの?」とか「そこ出てくるんだ」っていうのは実際主審をさせて頂いて、目の前でそういうプレーを見て、彼の想像力とか頭の中の回路みたいな所を身近に触れて感じて、世界で認められるトップ中のトップの方だと感じました。

あとは、全体を俯瞰できる選手は皆さん想像がつくと思うんですけど、小野伸二さんですとか中村俊輔さんですとか遠藤保仁さんですとか中村憲剛さんです。よく見えているな、あるいはゲームの流れを変えられる選手は例えば家長さんですとか。挙げだしたらきりがないのですが、たくさんおられます。」

 

―今までの経験を今後どのように生かしていく予定ですか?

 

「僕だけが見た世界、あるいは経験したこと味わったことがあります。今の時代色んな方法で伝えられます。文字に起こすこともそうですし、直接誰かに語る・伝える・あるいは見せるという事もあるので、レフェリーだけではなくて、サッカーをよくわかってない一般の方ですとか、サッカーを愛しすぎてしまっている方ですとか、それから子供からおじいちゃんおばあちゃん。あるいは男性、女性、日本人、世界中の方、色々な形で伝えられる・見せられることがあると思っています。

まずはゆっくりしてから、具体的にどういう戦略をもって表現し、伝えていくのか。これからちょっとゆっくり考えたいと思っています。」

 

―今季、VARとしてもリーグ戦で一番多くの試合を担当されていたと思います。家本さんがVARに入っている試合は、最終判定までの時間が短かく、主審の方がレビューまでいかない、チェックするまでの時間も短いなと感じました。家本さんは、どのようにどういう風に手続きをされていますか?

 

「これは僕の個人的な見解です。扇谷(Jリーグ審判デベロップメントシニアマネジャー)さん達がどのように考えて感じているか分からないですけど、VARの研修会などを経て思うことは、「物事を整理できているレフェリー」と「まだ混乱しているレフェリー」と「オリジナルの自分の独自解釈で(ガイドラインを理解して)何とかしようとする」。その三つに分かれているのかなと僕はまず感じていました。

僕はどこに属していたかというと、基本的に忠実な人間なのでIFABFIFAJFAを元に、扇谷さんが我々担当審判員に「何を一番大事にしよう」と言っているのか、そのコアを抑えた上で、極力シンプルにやっていました。

多くのレフェリーと話していて決定的に違うなと思った所は、VARとして割り当てられても、レフェリーとして間違い探しをしてしまう。あるいは何かあった時に迷惑をかけてしまいたくないという思い、レフェリーだけでなく、選手やお客さん、色んな人への心配な気持ちが強くなってしまう方が多いのではないかなと感じました。

じゃあ僕はどうだったのかというと、現場(のピッチ)でレフェリーが判断しました。レフェリーのコメントを確認しました。VARの僕は映像をいくつか違うアングルで確認します。「あきらかに決定的に違う映像があるかないか」だけで判断します。何回か「うーん」と思うこともあるんですけど、「うーん」は僕の中で違うって元々決めています。なので、二回見て、三回目が「いや~(難しいな)」だったら、それはもう全部捨て(て助言しないと決めてい)ます

そこの物事の整理・あるべきところを抑えて、判断のプロセスがシンプルで時間がかからないのかなと個人的には感じています。」

【無料:家本政明主審引退会見②】フットボールはミスが起き、それを如何にぬぐうかも考える愛すべきグレーのあるスポーツ。〇か×かの白黒に偏り過ぎず、テクノロジー化は進める

 

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