「football fukuoka」中倉一志

アウェイの旅2015 愛媛編(その1)

CIMG2101

アウェイ取材を始めて今年で11年目。1年に1回しか行かないとは言え、さすがに10回以上も通えば、そこは慣れ親しんだ町。初めて見る町の風景にワクワクした感覚は、懐かしい町に帰って来たような感覚に変わった。アウェイのスタジアムも隅々まで知り尽くした場所。「自動販売機はどこにありますか」と選手に尋ねられても、すぐに応えられるほどになった。それでも、スタジアムが近づくにつれて気持ちが高揚していくのは11年前と少しも変わらない。記者席とスタンドの違いはあっても、敵地で仲間とともに俺が町のチームを後押しする一体感は特別なもの。この感覚を一度でも味わったら、アウェイ遠征はやめられない。

さて、今年のアウェイ旅の始まりは愛媛から。愛媛への行程は、飛行機、電車、夜行バス、フェリーと手段は豊富だが、愛媛への遠征でいつも利用するのは小倉港から松山観光港へ向かうフェリー。2等利用は最も料金が安く、2等寝台利用だと夜行バスの料金を若干上回るが、体を伸ばしてゆったりとベッドで眠れることを考えれば、コストパフォーマンスはフェリーの方が高いからだ。フェリー内でバッタリであったサポーターと一杯やるのも楽しい。松山観光港への到着は翌朝の5:00。急ぎの旅でなければ、到着後も最大7:00まで船内で休憩できるのも嬉しい。

150315_05
150315_01

松山観光港からはシャトルバスで松山市駅へ。松山市駅から始発電車に乗って、いつもの場所へと向かう。10分ほど電車に揺られ、そこからのんびりと5分ほど歩いていくと目的の場所が見える。東道後温泉の「久米之癒」。地元の人たちに愛される町の温泉施設で、アウェイ遠征を始めた当初から必ず通うお気に入りの場所だ。私のアウェイ旅のモットーは、観光地に足を向けるのではなく、その町の人たちが生活している空間に触れること。旅の汗を流し、しばし、地元の人たちと湯につかりながら、松山の日常を味わう。

今年はデーゲームであったために町の中を歩くことはできなかったが、時間があれば、古き良き昭和の香りが残る大街道や、銀天街の商店街を歩くのも楽しい。小腹が空いたら、商店街から路地に少し入ったところにある「ことり」「アサヒ」で、松山市民のソウルフードである鍋焼きうどんを食するのがお勧め。決して豪華な鍋焼きうどんを想像してはいけない。アルマイトの鍋に入った鍋焼きうどんは、玉子焼き一切れ、なると、きざみ揚げ、ひとつかみの肉が盛られた質素なもの。しかし、いりこ出汁の効いた優しい味は、小さな頃、家で食べていたうどんを思い出す懐かしい味だ。両店ともメニューは鍋焼きうどんのみ(1年中)だが、松山市民のソウルフードを提供する店として、今でも多くの人たちに愛されている。

CIMG2071
CIMG2073

さて、ひと汗流したらニンジニアスタジアムへ。前日、「中倉さん、何時に着きますか」とメールを送ってくれたサポーターに拾ってもらってレンタカーで向かう。松山市駅からなら30分程度。開幕戦の内容に始まり、大きく変化しようとしているアビスパのこと、井原監督のこと、選手のこと、福岡の町のこと等々、アビスパと福岡の話題に花が咲き、あっという間に過ぎていく。楽しみは90分間だけではない。その前後も含めて、丸ごとサッカーを楽しむのが正しいサッカーの楽しみ方だ。

そしてニンジニアスタジアムが見えてくる。2017年の愛媛国体のメインスタジアムとして使用されるために、現在は改築中。既にバックスタンドは増設工事が終わっており、ひとまわり大きくなったスタジアムは、私が知っているスタジアムとは違って、少しばかり威厳を保っているようにも見える。報道受け付けを済ませて、いつものようにアウェイ側ゴール裏へと向かう。レベルファイブスタジアムで、いつも会う仲間たちがいる。アウェイ遠征で久しぶりに会う仲間たちがいる。もちろん、初めて会う仲間たちもいる。そんな仲間たちと一緒に勝利だけを信じてキックオフの時を待つ。
(その2に続く)

【中倉一志=取材・文・写真】
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ