「football fukuoka」中倉一志

J2第10節 磐田-福岡レポート

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2015明治安田生命J2リーグ第10節
日時:2015年4月29日(水・祝)13:04
会場:ヤマハスタジアム/10,382人
結果:ジュビロ磐田0-1アビスパ福岡(前0-0、後0-1)
得点:[福岡]酒井(51分)

アビスパ福岡は29日、アウェイ・ヤマハスタジアムでジュビロ磐田と対戦。首位磐田に対して一方的に押し込まれる展開となったが、この試合でJリーグデビューを果たしたGK中村航輔を中心に粘り強く守って前半を無失点で折り返すと、後半の立ち上がり51分に、阿部巧のシュートがこぼれたところを酒井宣福が押し込んで先制。その後は、磐田の猛攻に耐える時間が続いたが、全員で体を張ってゴールを死守。1-0で首位磐田を破った。これで福岡は7戦負けなしとなった。福岡は次節(5/3)、ホーム・レベルファイブスタジアムでC大阪と対戦する。

気迫で手に入れた勝利
提示された4分のアディショナルタイムは既に経過していた。おそらく、これがラストプレー。福岡サポーターが、磐田サポーターが、大きな声援を送り続ける。そして、櫻内渚のロングスローがペナルティエリア内にこぼれる。ゴールに押し込もうとする磐田。キープしようとする福岡。両選手が入り乱れる中、中村航輔が抱え込むようにボールを抑えた。その瞬間、ヤマハスタジアムにホイッスルの音が鳴り響く。1-0で福岡の勝利。殊勲の決勝ゴールを決めた酒井宣福は、ベンチ前で雄叫びをあげた。

ホームの岐阜戦を引き分けに終わって中2日で迎えた首位・磐田との試合。井原正巳監督が選手たちに強調したのは、強い気持ちで戦い抜くことだった。「首位相手に我々は遊びに行くのではない。とにかく首位を叩きに行くんだ。勝つ力が我々にはある」(井原監督)。だが、先発メンバーが6人代わっていたとは言え、磐田は手強かった。高く設定していたはずの最終ラインは、開始間もなく後ろに下げられ、前へ出るパワーを奪われた。ただ、ただ、守る時間が続いていく。

そんな状況の中、この日がJリーグデビューとなった中村航輔がゴールを守る。20分には森島康仁の強烈なシュートを、24分には太田吉彰が放ったシュートをはじき出す。まだ20歳。しかも初めてのJの舞台を感じさせない落ち着き払ったプレーでチームを鼓舞していく。その後も苦しい時間帯が続く。しかし、選手たちは慌ててはいなかった。「0で抑えるという意識は全員がしっかりと持っていた。前半を凌げば何とかなると、途中から割り切ってやれた」。前半に許したシュートは9本。しかし無失点で前半を折り返した。

狙い通りの先制点 それを支えた粘り強さ
ハーフタイム、ただ守るだけだった選手たちに井原監督の檄が飛ぶ。「もう一度、自分たちに自信を持って行け。勇気を持って闘え!」。その言葉に導かれるように、後半の立ち上がりに福岡が前へ出る。磐田も負けじとゴールに迫る。互いのゴールへの意識の高まりを感じる。そして51分、ルーズになった磐田のクリアボールを阿部巧がミドルシュート。これはカミンスキーに弾かれたが、そのこぼれ球に、ただ1人素早く反応した酒井が落ち着いて右足を振り抜いた。

ここからは再び福岡が耐える時間が続く。前への意識を高めた磐田は一方的にボールを支配。これでもかとばかりに連続攻撃を繰り出していく。57分、松井大輔に代えて上田康太を投入。ボランチの川辺駿をトップ下に上げ、上田をボランチに置いて攻撃を活性化させる。69分には太田に代えて清水貴文をピッチへ。両サイドにさらなるパワーを与える。そして78分に田中裕人に代えて松浦拓弥を投入し、さらに両SBを高い位置へ出して攻撃の枚数を増やした。

しかし福岡はゴールを許さない。後半に許したシュートは5本。一方的に押し込まれてはいるものの、ボールの出所を抑え、ゴール前ではGK中村航がハイボールを的確に処理していく。54分に太田に、62分にアダイウトンに決定的なシーンを作られたものの、それ以外ではギリギリのところで体を張って、決定的なシュートを打たせることはなかった。そして手に入れた1-0の勝利。「上に離されないためには勝つしかないと思っていたし、アウェイだからと言って、相手に1ポイントも渡す気はなかった」と酒井は胸を張った。

成長し続ける福岡
試合後の記者会見で井原監督は「内容的には、まだまだサッカーをやらせてもらっていない」と振り返った。サッカーの質を比較すれば、磐田の方が上だったことは間違いない。内容は磐田の方が優れていたことも認めざるを得ない。しかし、結果が最優先されるのが勝負の世界。そういう意味では、磐田の猛攻を気迫と全員の頑張りで耐え抜き、ワンチャンスをものにした福岡の戦い方は、まさに狙い通り。これしかないという戦い方で見事に勝点3を手に入れた。

これで福岡は負けなしを7に伸ばした。結果を得ることで、自分たちが抱える課題に対して前向きの姿勢で修正に取り組み、一歩ずつ成長を重ねて、次の結果を手に入れる。いま福岡は、その循環の中にいる。振り返れば、磐田の試合も含めて、過去7戦は紙一重の戦いばかり。しかも多くの決定的なピンチを作られている。それでも結果を手に入れ続けているのは、彼らの中に芽生えている手応えと自信があるからに他ならない。次節は、磐田に勝るとも劣らない強豪のC大阪。どんな戦いを見せてくれるのか楽しみになってきた。

【中倉一志=取材・文・写真】
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