「football fukuoka」中倉一志

アウェイの旅2015 磐田編(その1)

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年がら年中飛行機に乗っていると、交通機関の価格破壊がここまで来たのかと実感する。いまや、東京までなら、LCCでなくても10,000円前後で航空券が入手可能。少しばかり工夫すれば、飛行機利用で往復20,000円を切ることさえある。値段、移動時間、移動に伴う食事等々の諸経費を含めれば、いまでは、一番コストパフォーマンスが高いのは飛行機になった。私がアウェイ遠征を始めた頃(2004年)は、最も安い交通機関は夜行バスだったが、いまでは滅多なことがなければ夜行バスを使う理由が見当たらない。

ところが、中部地方への遠征には、この理屈が通じない。割安感のある航空機チケットは少なく、どんな交通機関を使ったところでトータルコストに大きな差が生まれない。結局のところ、いつも磐田行きに利用するのは、博多-浜松間の「のぞみ早得往復切符」で、料金は往復で33,940円。今シーズン、交通費だけで往復30,000円を超える遠征は磐田以外にはない。移動時間と、それに伴う費用は、福岡からの距離に比例しない。これは長年の遠征で学んだことだ。

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けれど、福岡から磐田への旅が、他の遠征に比べて劣っているというわけじゃない。むしろ、のんびりと列車で行く旅は私の好みでもある。約2時間の試合のために費やす往復の移動時間は8時間。それは非日常の空間と時間。日頃追われている様々なものから解放されて、ただ好きなチームの事だけを考えられる。これほどの贅沢は他を見渡しても、そうそう見つけられるものじゃない。そして、列車の中にネイビーを身に付けた人を見つけては、自分と同じ仲間がいることに思わずニヤリとする。

浜松駅で新幹線を降りると、アウェイの北九州戦で出会ったサポーターとバッタリ。「今日は勝ちたいですね」と言葉を交わす。浜松から興津行の電車に乗り換えると、レベルファイブスタジアムで顔見知りのサポーターと隣合わせになる。「今日は(中村)航輔が先発ですよ」。スマホでJリーグ系サイトをチェックしながらメンバーを確認。それぞれの情報を交換し合って、試合の展開に想いを馳せる。アウェイ遠征の楽しみはスタジアムだけにあるのではない。家を出てから家にたどり着くまで。そのすべての時間に心が躍る。

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そして、シャトルバスを乗り継いでヤマハスタジアムへ。まずは、いつものようにフードコートを歩き回って、浜松らしいものを物色。そしてゴール裏へと足を運ぶ。GW中ということもあって、多くのサポーターが足を運んでいる。いつもレベルファイブスタジアムで一緒になる仲間。アウェイでしか会えない仲間。そして初めてアウェイの地に足を運んだ仲間。みんなサッカーがなければ出会うことがなかった仲間たち。そんな彼(彼女)らと、同じ空間にいる心地良さを感じる。

13:04。いよいよキックオフ。アウェイ側ゴール裏からのチャントを耳に、記者席からピッチに念を送る。試合開始直後は、自分の目の前に設定されていた最終ラインが、ほどなく10~15メートルほど下げさせられる。思っていた通りの厳しい試合だ。前半は守備に追われる展開で終了する。しかし、後半が始まると福岡は積極果敢に前へ。そして51分に酒井宣福のゴールが生まれる。思わず小さな声で「よしっ!」と口にすると、隣にいた記者に睨まれた(汗)。

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その後は、猛攻を繰り出す磐田と、体を張って跳ね返す福岡という展開が続く。試合のポイントをメモしながら手元の時計を確認する回数が増えて行く。そしてラストプレー。反対側のゴール前での混戦の様子は良く見えない。磐田サポーターの歓声に「失点か?」との想いが頭をよぎる。しかし、それに続く溜息のようなどよめきに、中村航輔がボールを抑え込んだことを知る。そして、ヤマハスタジアムに鳴り響くホイッスル。福岡は首位・磐田に勝利した。だが記者席では平静を装う。ここはアウェイのスタジアム。私にも多少の分別はある。

取材を終えてピッチに足を向ける。つい1時間前まで歓声に包まれていたスタジアムは、まるで何事もなかったかのように静かに、そして厳かに佇んでいる。スタジアムは何も語らない。だからこそ、勝者の喜びも、敗者の悔しさも、そして、ここで起こったすべての出来事を、ただ黙って飲み込む懐の広さを感じる。どこか優しく、どこか物悲しく、独特の雰囲気を醸し出す試合後のスタジアム。それもまたサッカーの魅力のひとつだ。そして福岡への帰路につく。道中に思い浮かべるのは次の試合のこと。地元に「俺が町のクラブ」がある限り、サッカーの楽しみは続いていく。(続く)

【中倉一志=取材・文・写真】
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